61.え?何だって?
「お、お前、何を余裕ぶっこいているんだ?生命力が十分の一になるんだぞ?この事が理解できないのか?ははぁ、もしや嘘だと思ってやがるな?いいだろう、見せてやる。恐怖におびえるがいい」
全くよくしゃべる奴だ。格好つけて出てきて無様に去っていく脇役の悪役同然だな。さて、どうするかな。出来れば心が折れる程のダメージを身体と精神に与えたいのだが……
(これが失敗するなど有り得まい)
ロバーツは顔を引き攣らせながら両掌をレアに向け、何やら魔法を放った。きっとこれが生命力を十分の一にする魔法なのだろう。ロバーツにとっては残された最後の手段で、切り札である。
レアは自身に魔法攻撃の防御魔法をかけている。よって、ロバーツの魔法を弾き返すことは出来るのだが、そうすると瞬く間にロバーツは逃走を試みるだろう。捕まえる事はたやすいが面倒ではある、それにレアの知らない魔法を使う相手に対しては慎重を期した方が良い。よって確実に捉える必要があるのだ。
どうせこいつの事だから俺の生命力が1万になったのを確認した後、うだうだと俺に傲慢で高圧的な態度を取って快感を得るつ気でいるはず。
ならば……と、レアは直ぐに魔法防御を解除した。生命力を落とす魔法を敢えて浴びるのだ。
レアの身体がどす黒い煙に包まれた後、それを見たロバーツが大口を開けて馬鹿笑いを始めた。
どうやらこれが奴の考えている通りの結末なのだな。
「うはははは!これでお前の生命力は1万だ。お前ごときが俺様に勝とうなどど、ちゃんちゃら可笑しいのさ。恨むなら愚かな行為をした自分を恨むがいい」
奴が俺の生命力を確認したことはこれで確定した。何でもべらべら喋ってくれる奴は兎に角扱いやすい。因みに相手の生命力が十分の一になる魔法か何か知らないが、俺の生命力は250万を超えている。例え生命力が十分の一になっても25万。こいつよりも圧倒的に強いのだ。
だが、目一杯ひけらかすつもりはない。ピッタリ10万になる様に抑えるつもりだ。
レアは冷静に自身の生命力を感知しながら、調整に入った。
「ふはははは!お前の顔がザクロを潰した様にぐちゃぐちゃにしてやるよ」
ロバーツは歓喜交じりの口調に加え軽蔑するような眼差しで睨みつけながら、レアに殴りかかってきた。だが、レアはその腕を手刀で払うと「ボキッ」と鈍い音をたてた。そして再び内臓損傷を起こさない程度の力でボディーブローを食らわせた。
そして、先程と同様に顎を蹴り上げた。これ以上開かないと思えるほど口を開け嗚咽をし、口から血を垂れ流しながら涙目になって蹲るロバーツ。
「うがあ……な、何故だぁ……、ぐっ……生命力は1万のはずでは……な、何!10万、10万だと?何故魔法が効かぬ……」
いや、ちゃんと効いているよ。俺の調節能力が凄いだけさ。だが、馬鹿な奴だ。俺なら攻撃の前に本当に生命力が落ちているかを感知するがな。
レアは密かにほくそ笑む。
歯が折れて口から血を垂れ流すロバーツ、右腕も変な形に曲がっている。
ついでにこいつの血もサンプルしてやろうかと思ったが、意味が無いのでやめた。
レアが近寄っていくと怯えた顔で後ずさりするロバーツ。そして後ずさりしながら何度も生命力が十分の一になる魔法を連発してくるが、どうやら上書きは出来ない様でレアの生命力の値はそれ以上ピクリとも動かない。
ロバーツは部分的に欠落した歯をむき出しにして、野良犬が唸り声をあげるが如く目お血走らせながらギリギリと歯ぎしりをした。
「残念だが、俺にはお前の魔法は効かないぜ」
実は効いているが、正直に答えるつもりなど毛頭ない。手の内は極力明かさないようにするのは魔術騎士団の教訓だからな。
「くそぉくそぉくそぉくそぉ!何でだ!何でだ!何でだ!何でだ!俺は王になる男だ。王になればあいつだって……」
ロバーツは追いつめられているこの時でさえ仲間を呼ぼうとはしない。レアは少なくともロバーツが現時点では全くのソロ活動であることを確信する。
あぁ、やはりこの星に居る惑星サージアの兵士はこいつだけとういう訳か……この星を支配しようとしていたのは帝国軍からの命令か、はたまた帰るための手段が無い為なのか……そこをはっきりさせておかないと場合によってはこの星が帝国軍によって危機にさらされる可能性も出てくる。俺としては帝国軍が滅ぼされている事を信じたいが。ただ、気になるセリフを吐いたな。あいつとは誰の事だ?
「おい、ロバーツ」
初めて自分の名を呼ばれたロバーツはビクッと身体を震わせた。
「な、な、なんだ……お、俺を殺ろうって言うのか?た、ただでは俺も死なねえ、こ、これは何かの間違えだ。直ぐに逆転できる。い、今なら見逃してやる。逃げるならい、今のうちだぞ……」
完全に頭が混乱してやがる。何を言っているのか自分でも分かっていないだろう。さてと……あいつとは帝国軍の皇帝ヴァンダーヴォートの事か?
レアは敢えて鎌をかける発言を行った。魔法剣士が尋問を行う時の常とう手段である。
「お前はヴァンダーヴォート様に命令されてここに来ているのか?」
レアがヴァンダーヴォートの名前を出した事よって、驚いたロバーツは目を剥いてガタガタと震え出した。ヴァンダーヴォートは帝国軍の皇帝の名だ。勿論、帝国軍に所属している者はその名を知らぬものはいない。
「え?な、な……何だって?」
「俺はこの星の任務の事は聞いてはいない。お前がヴァンダーヴォート様の命によってここに来ているのかどうかを聞いているのだ。その答えによってお前に協力をするか、拘束をするかを決めねばならん」
勿論口から出まかせである。だが、ロバーツは驚きは相当なもので、一気に血の気が失せガタガタと震え出す。
ただろうな。俺の口からヴァンダーヴォートの名前が出ようとは思いもよらなかったはずだ。これで奴の逃げ道は封じた。後は真実を話して貰うだけだ。
ロバーツ自身はこの星に自分の正体を知っている者などいないと思っていた。だが、レアが皇帝ヴァンダーヴォート名を出したことによって、自分の正体がばれているという事に気付いた。それに目の前に居る男も帝国軍所属だと完全に信じた。レアが帝国軍所属の兵士ならその強さも理解ができる。
ロバーツの全身の振戦は止まらない。尤も無警戒に自分の口で自身の正体を明かしたわけだが、それでもまさかレアの口からヴァンダーヴォートの名が出てくることは全くの想定外だっただろう。
帝国軍所属の兵士である自分が此処にいる事がばれた以上、今後宇宙の何処に逃げても逃げ切ることは不可能に近い。命令だと嘘をついたところで秒でバレる事も分かっているのだ。
(もう、観念するしかない) ロバーツは項垂れた。
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