番外3 アリスとエルザ
レアが出かけている間の出来事です。アリスの魔法の修行の始まりです。
「さあ、あんたお母さんから防具を作って貰ったくらいだものね、相当出来るはずよね、見せて頂戴、あなたの実力」
アリスの眼の前には少女がふんぞり返っている。会った時にはそうは思わなかったが、改めて見るとその面立ちは最強の魔術士であり、武具師であるロッシによく似ている。ロッシの恐ろしさを十分把握しているアリスはそれだけで充分ビビッてしまう。
でも、実力を見せろと言われて森の入口の広場まで連れて来られたものの、ここに魔物が居るわけでもなく、どうやって実力を見せろというのだろう。
アリスがキョトンと首を傾げていると、エルザは眉間に皺を寄せた。
「何をやっているのよ、さっさと魔法かその手に持っているおかしな剣であたしを攻撃して来いって言っているのよ」
アリスは他人の強さを判定する術を持ってはいないが、ロッシの娘なら相当の強さであることは理解できる。だが、アリスはあのベヒモスを倒しているわけなのだからロッシと初めて出会ったあの時とは違う。攻撃力には自信を持っていて、目の前に居る少女にも今なら善戦できるはずだとどこかで自負していた。
エルザの物のいい様に少々カチンと来たアリスは、思わずエルザに対して売り言葉に買い言葉だ。
「ロッシさんの娘さんか知らないけど、私が本気を出すと単なる怪我だけでは済まないわよ?いくらあなたがロッシさんの作ったローブを纏っていたとしてもね」
するといきなりアリスの顔面に流水がぶっかかったのである。
「きゃ、きゃあ!」
顔がずぶぬれになったアリスにエルザは「クククク」と嫌味っぽく笑う。
「何偉そうなことを言っているのよ。そんな単純な水攻撃もかわせないくせに、あたしに歯向かうなんて10万年早いわ」
エルザの挑発に載って思わず油断をしてしまったアリス、冷静になれと自身に言い聞かせ大きな深呼吸を一回。
「その口に出してしまったセリフを後悔するといい」
アリスは掌で顔と髪の水分を吹き取ると、腰に付けていたスカルサーベルを手に取り彼女の得意の火の魔法で真っ赤に燃え盛る火の刀身を作り上げた。
アリスの中では真っ赤な火の刀身をエルザが見れば怯むかもしれないという思いがあった。だがその事は直ぐに失敗だと気づく、何故なら先程アリスが受けた攻撃は水魔法によるものだ、火の刀身では相性が悪い。ここはベヒモスを倒した電気プラズマの刀身を考えたが、自身の身体が濡れているので感電する恐れもある。
もしかしてエルザはそこまで考えて水魔法を放ったのか、と考えると癪に障るが癪にさわっている場合ではない。すぐさま刀身を火の魔法から光魔法へと切り替えた。
「へぇ」
それを見たエルザはニヤリと不敵に笑い、その場で胡坐をかいたかと思うとその小さな体を宙に浮かせた。母ロッシ直伝の浮空術だ。
「う、浮いている……そんなのあり?」
鳥と凧以外、空中に浮くものを見たことが無かったアリス、真っ先に頭に浮かんだのはこれ以上高く浮かれると攻撃が届かない、攻撃するならまだ手の届く範囲である今しかない。アリスは自身に2倍の身体強化魔法をかけロケット弾の様にエルザの元へ駆け出した。
駆け抜けた後に落ち葉が舞い散る程、凄まじいスピードで突進するアリスに笑みを浮かべたエルザは懐から杖を取り出した。そのまま上空へ逃げる事も可能なはずだが、エルザはアリスを迎え撃つ姿勢を取る。
アリスが駆け出して僅か二秒でエルザに到着、眩い光を放つ刀身を一気に振り下ろすと、エルザの前方に黒い壁が現れた。そしてその黒い壁を切ったと思いきや、なんと光の刀身が吸収されてしまったのだ。
「え?」
刀身が失われたスカルサーベルを凝視し、驚きの声を上げるアリス。そこへとてつもなくなく重い一撃を腹部全体にのしかかり、彼女の身体は後方へ弾き飛ばされた。
鳩尾にも入ったのだろう、地面に蹲り苦しそうな息をするアリス。その上から滝が落ちて来たかの如く大量の水でアリスはずぶぬれになった。
「なんだ、やっぱり大したことないね、フフフ」
不敵に笑うエルザを睨みつけ、自身に『回復』を掛けるとアリスはゆっくりと立ち上がった。彼女の中に悔しさだけでなく、別の感情が沸き上がる。
この人は凄い……完全に遊ばれている。
闇雲に突っ込んでも勝てない。スカルサーベルだってエルザは見た事もないはずなのに驚きもせず、ちゃんと対応していた。そう言えば、今まで戦ってきた相手は物理攻撃を得意とする者ばかりだった。魔術師相手だとこんなにやりにくいとは、フフフフ……
思わず笑いがこみ上がる。
「私だって、元魔術師の端くれ、このままでは終わらせない」
「いいわね、それ。さあ、悪足搔きを見せて頂戴」
え?あんな遠くに居るのになんで聞こえているのよ……嫌な地獄耳ね、あんなセリフを聞かれたら恥ずかしいじゃないの。
少しドキッとしたアリスだったが、冷静になってエルザを見つめ直す。
魔術師は詠唱が当たり前だけど、今の私は随分、詠唱無しで魔法を使えるようになってきている。さあ、驚きなさいよ。
アリスは無詠唱での風魔法で小さな竜巻を作り出した。それをエルザに向けた後、またも無詠唱で落雷を放つ。砂埃と落ち葉を巻き上げエルザに突進する竜巻、彼女は最初それをアリスの発した物とは思わなかった。
「運も味方にしているみたいね」
エルザはそう言って自身からも竜巻を作り出し、向かってくる竜巻にぶつけて相殺させた。だが、舞い散る砂埃と落ち葉の間から鋭いプラズマが突如現れエルザを襲う。
バチッと大きな音を立ててエルザの身体からプラズマがはじけ飛んだ。
あわやというところで防御魔法を使いプラズマからの攻撃を防いだがエルザだったが、安心している余裕はなかった。背後から鬼気迫る気配を感じる、背後からアリスが攻撃態勢に入っていたのだ。
いつの間に……あの竜巻も運じゃなかったのね。
そう思った瞬間にエルザの背中に僅かだが鈍い痛みが走る。アリスはその辺に落ちている枝を武器代わりにしてエルザを殴りつけたのだ。
「やるわね、身体強化魔法をかけていなければ危なかったわよ」
くそぉ、たいして効いていない。
アリスが大勢を立て直そうとした時、エルザに腕を掴まれた。
『吸引』
エルザがそう叫ぶと、アリスの全身の力が虚脱して身動きが取れなくなった。この感じ覚えがある、魔力の枯渇状態だ……
その場にへたり込むアリスに「『吸引』であなたの魔力を吸い取らせてもらったわ」と言った。
一撃は入れられたものの全くと言っていい程通じなかった。しょんぼり項垂れるアリスの頭をエルザは優しく撫でた。
「無詠唱で魔法が使えるなんて思わなかったわ、あたしに一撃を入れるなんてなかなかやるじゃない。あなたは立派に強い、あたしがもっと強くしてあげる。一緒にこの街を救いましょう」
見た目は明らかに自分より幼い少女に頭を撫でられているアリスだが、悪い気はしない。彼女はニッコリ笑ってこういった。
「よろしくお願いします。魔法の師匠」
いつも読んで下さりありがとうございます。第五章準備中です。もう少し時間がかかりそうです。




