56.ミラージュと秘薬
「魔物を食う魔物の話を知っているか?エルザがそいつらは何者かに薬で操られて言うというのだ」
「で、お前さんは儂が魔物を薬で操っているとでもいうのかね?」
俺のセリフにミラージュの目つきは鋭く変化する。エルザやロッシが有らぬことを口走ったのではないかと考えている様だ。
「いや、そうではない。どちらかというと解毒剤を作ってほしそうだったぞ」
実際エルザはそんな事を言ってはいないし、ロッシに関してはミラージュの話など一切していない。急いで変な疑惑の払拭を試みた。
「……まあいい、だがな、漠然とそんな事を言われても無理だ。その魔物達にどのような薬が使われているのか判らないのに、解毒剤など作れるはず無かろう、さっさと帰れ」
ミラージュはそう言うと俺達から背を向けて立ち去ろうとする。仰ることはご尤も、あまりにも漠然な俺の言葉に構ってはいられないという感じである。
「ちょっと待ってくれ、じゃあどうすればいい?ここに魔物を喰らう魔物を捕獲して連れてくればいいのか?」
そうは言ってみたものの、魔物を喰らう魔物は今知っているのは二種だけで、どちらも俺達の数倍の大きさもあるデカい奴だ。まあ、この家には入りきらないだろうし、暴れると手が付けられないだろうな。
「馬鹿を言うな、そんな危険な奴を連れて来られてたまるか!」
背を向けていたミラージュは慌てて反駁する。勿論、俺は本気で言ったつもりはない。が、危険な奴言うのだからミラージュはその魔物の事を知っているのだ。つまり、彼は彼なりに何か対策を取ろうとしていたことが伺える。
そして、俺が黙って彼を見つめていると
「できるならその魔物の血を取ってこい。それが出来るなら薬の事は考えてやる」
そう言ってミラージュは懐から三本の試験管を取り出し、俺に向けて放り投げた。魔物が魔石に変わっても消えない様に特別な工夫を凝らした試験管。ミラージュはいつ珍しいものに出会ったとしてもそれらをサンプルできる様に試験管を持ち歩いているとのこと。
てなわけで俺は魔物を喰らう魔物の血を採取してくることになったのだが、きっとマイクも付いて来ると言い出すだろう。……はっきり言って足手纏いだ。
「代わりと言ってはなんだが、俺からもミラージュに頼みがある」
「何が代わりじゃ。儂はお前たちに頼み事などしとらんわい。血を取って来るのもお前たちの依頼だろうが……」
重ね重ねご尤も。だが、憮然としながらもミラージュは親切にも「で、頼み事はなんだ?」と言ってくれたのだ。
そして俺も懐から魔力の補充が出来るを取り出し、ミラージュに手渡した。
「俺が採血に言っている間、そこに居るマイクに魔法を教えてやってはくれないか。これはそのお礼だ。因みにマイクの魔力のキャパは一升瓶くらいだ」
ミラージュは俺の渡した『真っ赤な飴玉』をジロジロ見ながら「こ、これは……」と驚愕の表情を浮かべながら突如声を荒げた。
「これをどうしたのだ?魔力を回復させる薬は儂も作ってはいるが、これほどまでに魔力の込められた物を作ることは出来なかった。これを誰が作った?」
それは俺の母星である惑星イメルダの魔法職人が作ったもので、俺はそれを『複製』魔法で大量生産しているだけである。だが、いくらエルザの知り合いだからと言ってミラージュの事を完全に信じるわけにはいかない。自分でも口にしていたが魔物を操る薬をこの男が作ったのではないと完全否定する材料も揃ってはいない。よって、まだ本当の事は言いたくはないのである。
さて、どうやって誤魔化したらよいものか。
「その飴は俺の知り合いの魔法職人が作ったものだ。その者が誰かはいう事は出来ない。男同士の約束だからな。だが、それを誰かに譲ってはいけないとは言われていない。マイクに魔法を教えて貰えるならそれを譲ろうと思うがどうだ?」
譲るとの言葉にミラージュは勢いよく首を持ち上げ俺の方を凝視した。
「こ、こんなに貴重なものを儂に譲って貰ってもいいのか?……わ、判った。その男に魔法を教えよう。ああ、任せてくれ」
ミラージュの言葉を聞いて、マイクも驚きの表情を見せながら俺に尋ねてきた。
「お、おいレア、俺はそんなに貴重な飴を惜しげもなくボリボリと食ってしまっていたわけなのか?」
「ああ、そうだぞ。おちょこほどしかない魔法許容量のマイクが、ドラム缶一本分は補充できる魔力の込められた飴を食っていたわけだ。つまり大半は垂れ流していたという事だな。フフフ、贅沢すぎて驚いただろう?」
「め、面目ない……」マイクは頭を抱えて項垂れた。
「な、なんという事を貴重な飴をおやつ代わりにしていたとは……」
ミラージュの青が青くなっている。別におやつ代わりにしていたのでないし、その辺の雑草を材料にいくらでも作れるから本当に気にしなくていいのだ。
「ところで、ミラージュの作っている秘薬というのは一体どんなものなのだ?場合によっては協力できるかもしれないぞ?」
その秘薬を奪いに悪党が彼を襲いに来るくらいだから、嘸かしすごい秘薬なのだろう。俺は是非ともその秘薬が何かを知りたくなった。
「…………」
「ん?何だ聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」
「秘薬は魔力を回復する薬だったのだ」
「ん?何だって?すまない。よく聞き取れないのだが……」
「儂の秘薬も魔力を回復するものだと言ったんだ!」
大きな声でそう言った後、ミラージュは小瓶に入った液体を差し出した。深緑色をした見た目はとても不味で、聞くところによるとコップ一杯分くらいの魔力を回復できるらしい。
「おお、まともな魔術士に対してまともに使おうと思えば、この薬を数リットル飲まなければ役には立たないが、今のマイクにとっては丁度いい量ではないか、よかったなお前に適量なものがあって」
この不完全の薬の良い使い方を見つけたので、どうだと言わんばかりに提示してみた。
薬の良い使い道を提示して喜んで貰うつもりが、ミラージュもマイクもみるみる顔を赤く染めていく。
「「煩い!とっとと、採血に行ってこい!」」
二人に怒鳴られ、俺はウッドハウスを放り出されたのであった。俺は何を間違えた?
いつも読んで下さりありがとうございます。
魔物の採血に行ってまいります。




