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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第四章 魔物を喰らう魔物

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55.ミラージュを探しに 3

「確かに、ここにレアの言う人物が居そうだな」


 周囲を見渡しながらマイクはそうひと言(つぶや)いた。幻影魔法無効の効果で新たな場所へ入り込んだ俺達。湖畔から湖に向かって入り込んだはずが、ちゃんと地面のある林の中に立っていた。つまり、林の一部が湖として幻影されていたという事だ。


 湖から林に変わった事に関してマイクは全く動じない。幻影魔法の存在は知っている様だが、何故なぜ人が居そうだと判る?俺は魔素感知で判るが、マイクにはそれは使えないはずだ。


「俺の勝手な思い込みなら申し訳ない。マイクは魔力を検知できないと思うのだが、どうして誰かが居そうだとが判るんだ?」


 俺がマイクにそう尋ねると、ああ、とその辺りに生えている木を指さした。


「この場所エリアを囲むようにポナラの木が生えている」


 ポナラの木?そう言われると確かにここらをぐるりと囲むように同じ木が並んで植えられている。街の中にも所々植えられている何処にでもある木だ。


「あれがポナラの木なのか?」


「ああ、それがポナラの木だ」


 マイクはこの場所エリアを囲むように生えているポナラと呼ぶイチョウの様な木を指さした。


「この木は魔物が嫌う木なんだよ。街外れにもよく植樹されているだろう?あれは街に魔物が入ってこない様に植えられているんだ。ここがポナラの木で囲まれているのは意図的に誰かが植えたという事だろう」


 そいつは知らなかった。あの、何処にでもある様な木にそんな効果が有ろうとは。


 マイク曰く、ポナラは魔物が嫌う様にヤマナラという木を品種改良したものだから自然に生えてくるようなものではない。だから絶対に誰かが植樹したに違いないのだと。


 マイクは俺が何故それを知らないのだ?と不思議がっていたが、残念ながら百科事典に載っていない様な事は知らないのだ。それにまだこの星に来て日も浅いからな。


 まあ、それはいいとして、成程な、幻影魔法が解かれなければ冒険者ワーカー達が敢えて近寄ろうと思わないこの場所だが、魔物は違う。ポナラの木を植える事で魔物の侵入を押さえているという訳か。


 ポナラ並木を道なりにしばらく歩くと、マイクが推測した通りウッドハウスが建っているのが見えた。こんな所にポツンとウッドハウスだ。きっと、あそこにミラージュが居るに違いない。


 ウッドハウスに近づくと、煙突の先に空気の歪みが見える。煙突の下で熱を発生させているのだ。この家で誰かが生活をしているのは間違いない。


 ドンドンドン


「申し訳ない、ミラージュ氏のご自宅はここで間違えは無いのだろうか?」


 明らかに人の気配を感じるのだが、返事も無く誰も出てこようとはしない。眠っているのか、はたまた偶然の様に俺達が来たタイミングで心臓発作でもおこして倒れているとか……死んでいる……なんてことは無いよな。


「どうする?レア」


 ミラージュにとっては幻影魔法を無効にさせて入り込んできた得体の知らないやからたちだ。警戒されても仕方は無いのだが、こんな所にひとりで住んでいる輩は滅多と居ないわけで、その人物がミラージュである可能性が高いのならこのまま帰るわけにもいかない。


「仕方がない、扉を開けさせてもらうか」


 おいおい、人の家を勝手に開けて良いのか?と戸惑いを見せるマイクだが、そのセリフを軽く聞き流し俺は扉を開いた。


 ヒュン……


 開けた瞬間、凄まじい速さで氷柱が俺に向かって飛んできた。氷魔法で攻撃をされたのだ。まあ、この星の冒険者ワーカーレベルだと凄まじい速さではあるが、俺にとっては蚊が飛んでいる位の速さだ。俺はそれを拳で払い除けるとそれは家の天井へと方向を変え、『ドーン』とすさまじい音と共に天井に大きな穴を開けた。威力から考えると相当な魔力の持ち主だという事が分かる。


 とっさに払い除けてしまった。やばいな、天井に穴が開いているぞ……


「うわあ、あぶねえ……」


 マイクが非常に驚いているので俺も取り敢えず驚いたフリをする。


「ああ、とっさに対応することは出来たが、ギリギリだった……」とのセリフを言い終わらない間に同じくらいの氷柱が二発三発とやって来る。どうやら天井が穴だらけになっても平気らしいな、ここの住人は。


 同じように拳で払い除けていったのだが、あぁあぁ天井が穴だらけじゃないか。手加減というものを知らない奴だな。俺以外の人間なら絶対死んでいるぞ。というか、殺す気か?いいのか?わざわざ訪ねてきた客人を理由も聞かずに殺すってどうなんだ?


 天井に穴が開いたおかげで、周囲にちりほこりが目の前の視界を塞ぐ。暫く何の動きも無く粉塵が落ち着いた時、5メートル程離れた所でやせこけて白っぽいローブに身を包んだ老人が杖を構えて俺達を睨んでいたのだ。


 その老人は口周りに白いひげを生やしている。初老であり髭を生やしているとエルザが言っていたんだから、多分この老人であっているのだと思うが……何処にでもいそうなじじいだぞ。


「レア、レアの言っていたミラージュ氏の特徴と一致しているな。彼に間違えないのだろう?」


 マイクはやや興奮気味にそう言って来るが、特徴って……髭の生やしているじじいななんて何処にでもいるぞ。


「お前らは誰だ、ここに何しに来た。秘薬は渡すことは出来ぬ。無理やり奪おうものなら自ら命を絶つまで……」


 マイクのミラージュ氏という言葉に反応したのが、険しい表情の老人は物騒なセリフを吐いてきた。確実に悪人だと思われている。


「ちょっと待ってくれ、俺達は人からの依頼でここに来た。あんたがミラージュ氏だろう?ロッシとかエルザとかいうエルフを知らないか?俺は彼女たちの……一応友人かな?」


 まあ、エルザから『友達から始めましょ』と言われたので、あながち間違えではあるまい。


 俺がそう言うと老人は構えていた杖を下げた。


「そういう事ならさっさと言えば攻撃をせなんだのに」


 いや、何かを言う以前に攻撃をしてきたではないか……それも殺す気で。おれは絶句してしまった。


「いかにも、儂がミラージュだ。ふん、あいつらに友人など居たのか。お前たちも余程奇特な奴らなのだな」


 口の悪いミラージュだが、ロッシやエルザの名を聞いて表情を緩めた。本音は懐かしがっているのだろう。


 ミラージュは俺達が幻影魔法の無効を行ってここへ来たのは判っていた様だ。彼の秘薬を目的に襲ってくる悪人は多く、ここに身を隠しているとの事。勿論、俺達もそのたぐいだと思われたわけだ。だがこのじじい、来客に対していつもこんな危ない歓迎をしているのか?


 警戒するのは判るが、攻撃の前に先ずは話を聞いてくれ。そもそもロッシといい、このじじいといい、人の事を警戒しすぎだろう。これまでどんな生活をしてきたのだ。いきなり不意打ちの攻撃とは有り得ないぞ。


「それはそうと、お前俺達を殺す気で攻撃してきただろう」


 少し怒り気味にマイクはミラージュに向かってそう言った。


「ふん、人間の小さな奴め、そのくらいでお前らが死なないことくらい分かっておるわ。で、ここに何しに来た?ロッシは儂に何を頼もうとしているのだ?」


 本当にそう思っていたのかよ、口の減らないじじいだな全く。まあ、いい。俺は怒るマイクをなだめ、少し後ろへ下がって貰った。


「まあ、その話はゆっくりするとして、天井はこのままでいいのか?雨でも降ったら大変だぞ?」


 俺はぽっかり穴の開いた天井を指さした。するとミラージュは「ああ、あんな穴……」と言いながら杖を振った。


 すると時間が巻き戻るかの如く、見事に穴が塞がっていったのだ。おお、なんて便利な魔法だなんだ。


 口角を少し持ち上げ得意気にするミラージュだったが、俺は素直に彼の魔法に感動したのだった。


いつも読んで下さりありがとうございます。

ミラージュが見つかりました。偏屈そうなじじいでした。

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