43.そんなこんなでランクアップ
この話で第三章完結です。
ギルドに戻った俺達は早速ヤックに事の経過を報告しようと思っていたのだが、先駆けて人に報告をする事が大好きであるジャーナリストの様な冒険者が、既に尾ひれはひれを付け面白おかしく語りまわっていたのだ。
俺が一番多くヒドラを倒したにもかかわらず、話題の中心はマイクとアリスの事ばかり。アリスなんて『ヒドラを倒したのは悪どい冒険者から騙された最強美女』等と噂になり、マイクとのコンビでヒドラを倒したものだから、二人は付き合っているだの、結婚しているだの……人の噂とは凄いものだな。
まあ、あの二人が協力をしてヒドラを倒したのは事実だし、その後アリスは真っ赤に頬を染めながらマイクと固い握手を交わしていたのだから、そう思われても仕方がない。マイクもアリスの事をかなり気にったみたいで、終始アリスと話すときには笑顔を絶やさなかった為「あのマイクが遂に落ちた」等と囁かれていた。
人気者のマイクがそんな噂をされているのだから、女性冒険者達からの妬みはさもあらんわけだが、如何せん相手は単なる美人ではなくヒドラを倒した冒険者だ。到底勝てるわけもなく「まあ、彼女がマイク様の相手なら……」とあきらめや、逆に「お似合いだよ」という声も多かったそうだ。
まあ、これも後からヤックから聞いた話だけどね。
そんなこんなで、他にも噂を聞き付けて、ヒドラの討伐に行かなかった冒険者達もこぞって俺達……と言うかアリスを一目見ようとギルドに集まり俺達の帰りを待っていたわけだから、ギルド内は特別依頼が出た時以上に冒険者達が集り、電車のラッシュアワー状態となっていた。そんな中、俺達が到着したわけだから、地響きがおこる程の大喝采を浴びたわけだ。
当のアリスはというと、マイクに対して全くその気はなく噂すら耳に入らない様で、少しマイクが可愛そうであった。マイクはその噂を聞いて嫌な顔一つしていなかったので、もしかしたら本当に脈ありか?いい話だと思うがな。
その話は置いといて、ヒドラを倒したのも周知の事実となり、そこまで噂になってしまえばそんな強い冒険者を現状のGランクのまま置いておくわけにもいかず、特例としてアリスはいきなり、それもその場で二段階アップのEランクへと昇進した。
俺はと言えば、一部の冒険者達から称賛はされたが噂に勢いはなく、Gランクのままに留まった。さっきも言ったが、俺が一番多くヒドラを倒したんだぞ?
まあ、俺は然程ランクに拘っているわけではないのでどうでもいいが、なんか釈然としないんだよな。ま、いいけど。
そう言えば、ヒドラの魔石に関してだが、これがまたバスケットボール程の大きさで、相当デカい、金額にすると10万ピネルだと。基本的に魔物を倒した者が所有物となる。アリスとマイクは二体倒したので各々ひとつずつ分け合っていた。俺が倒した三体は、最初に他のパーティが関わっていたが、殆ど俺が倒したのと変わらないので3つとも俺が所有しろと主張してきた。勿論関わったパーティ達も了承済。
だが、最初の二つは兎も角、最後の一つはあのパーティも頑張っていたし、そちらが受け取ればいいと言ったのだが、冒険者のプライドにかけて受け取れないという。
まあ、冒険者同士の付き合いは、俺はさておき、この仕事をしている以上延々続くわけなので、強者に不快な思いをさせると何かの折には助けて貰えなくなるという打算もあるのだろうが、なかなか粋な男たちではないか。……すまぬ、女性も居たな。
そこでだ。このままでは俺の男もすたる。
「新参者の俺が言うのも何なのだが、結果的には俺とアリス、マイクが倒した事にはなるが、死者も出さずヒドラを食い止める勇気は素晴らしかった。その勇気は同じ冒険者として称賛に値する。よって、このヒドラの魔石一つの売却料全部使って皆で好きなだけ飲んで食ってしてくれ。皆で祝杯をあげようではないか」
とまあ、大判振る舞いをしたわけだ。
ひときわ大きな大歓声。今まで俺に寄ってこなかった冒険者達も寄ってきた。ギルド職員も含め、総勢70名程そいつらと共に夜遅くまで宴会は続いたのだった。
これも後から聞いたのだが、10万ピネルでは足りなくて、マイクがそっと足りない分を出してくれたらしい。どれだけ呑むんだ?あいつら……
◇ ◇ ◇
さて、アリスがEランクになったので、更に森の深みに行ける。深みにはグリフォン等の凶暴な魔物が多数居る。アリスの修行にはもってこいだ。
それに気になる事もある。何故ヒドラが他の魔物を食っていたかだ。そういう事とが普通になると凶暴な魔物の行動範囲は広くなり、街が危険に晒されることになる。早急に調査が必要なのだ。
この事は直ぐにヤックに報告した方が良い。昨日は飲みまくっていて十分に報告が出来なかったからな。常に俺が魔物を監視しているわけにもいかないので、異変が無いように誰かが常に監視をしておく方がいいのだ。
ギルドの仕事としてはその事実を掴むところまでで、後は国の仕事だ。監視員を出して森を見張るか、金を出してギルドに託すかは国が決める事。なんせ、街の安全にかかわる事だからな、国の仕事に決まっている。そこまでギルドが担う必要はない。
「という訳で、ギルドから森の調査依頼を出したりはしないのか?」
俺たちは早くからヤックの元へ向かった俺達は、げっそりして毛並みの色つやの悪いヤックにそう問うた。何故そんなに調子が悪そうなのかって?そりゃあ、昨夜ただ酒をふんだんに飲みまくって二日酔いになっているからさ。
自業自得だ。それにその金は俺が魔石を提供して出したものだ。だから、しんどくても俺の為に仕事はしてもらうぞ。
「うえっ……胃から何かが持ち上がって来て……。で、なに?簡潔に言ってよね」
ハンカチで口を押えながら涙目で話すヤック。
「え?ヤックさんそんなにお酒を飲んだの?今日も仕事なのに?」
「うえっ……お酒って、い、言わないで、その言葉を聞いただけで……うえっ……」
「いくらただ酒だからと言って、そんなになる迄飲まなくても……」
「だから、お酒って言葉を……うえっ……」
あらごめんなさいと、アリスは言うものの、彼女は腕を組んで呆れ顔だ。ヤックには申し訳ないが、傍で見ていると笑いがこみ上げてくる。少し悪戯心が湧いてきた。
「そうだアリス。今日の晩御飯は鮭のソテーにしよう」
「さけの……うえっ」
「なんで今そんな晩御飯の話をするのよ」
「いや、別に……おや?あそこで誰だか叫んでいないか?」
「さけんで……うえっ」
「何を言っているのよ、誰も叫んでなんて居ないわよ」
「ご、ごめんなさい……ゆ、ゆるしてください……」
眼に涙をいっぱいに貯めたヤックは、胸を押さえながら真っ青な顔をしてハンカチで口を押さえている。
「え?ヤックさんどうしたの?」
「あ!レアったら、わざとやっていたのね、ダメじゃないの。ヤックさん二日酔いなのに、お酒って言葉を言うとしんどいんだから」
「うえっ、うえっ……はあ、はあ……もう勘弁してください、今のが一番強烈で……」
「あ、ごめん」
アリスは心配そうにヤックの背中をさすった。実はアリスも結構飲んでグダグダになっていたような気がしていたが、彼女の方は見た目以上に酒に強かった様だ。
「ねえ、ヤックさん可哀そうよ。レアのせいだからね、何とかならないの?」
「まあ、自業自得だろう。まあ、何とかしてやりたいと思うなら回復薬を飲ませてやってくれ、飲めないならぶっ掛けろ」
自業自得と言われ、ヤックは嘔吐きながら涙目を浮かべ、ジトーッとレアを見つめている。
「ぶ、ぶっ掛けろだなんて……ひどい。うっ、おえっ……」
「え?飲みすぎでしんどいのって、回復薬で効くの?」
そんな話聞いたことも無いよ?という顔でアリスはキョトンと首を傾げる。
「そもそも、酒が身体の中で分解された時に出る物質が二日酔いを引き起こすと言われていたのだが、実はそれだけではなく身体の中の成分の乱れや脱水症状等、他にも複数の原因がある事が分かってきて……」
「よく分からないからもういいわ、そのうんちく。つまり回復薬で効くって事ね」
アリスは回復薬を取り出し、ヤックに手渡した。
いつも読んで下さりありがとうございます。
暫く休憩を頂いたのち、第四章を開始します。またのお付き合いを宜しくお願い致します。




