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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第三章 手がかり

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42.ドナルド撃沈

「な、仲間ってのはよぉ、一緒に依頼をこなしたりだな。まあ、俺達みたいな関係という事さ」


 ドナルドは汗を拭き拭き、その場を取り繕う様に適当な言葉を発する。顔を歪め相当嫌そうである


「俺達みたいな関係ですって?じゃあ、人に『回復薬を失くした』とあらぬ疑いをかけて、分け前も与えない関係も仲間の関係なの?私、あなた達から依頼料の分け前さえも貰えなかった事があったのよねぇ。おまけに最後には追放されたしさ。あ、そうそう『あなたにお付き合いできません』ってお断りをした後から、態度が変わったわよね」


 ただでさえギャラリーが聞き耳を立てている状態で、アリスは敢えて周りに聞こえるほどの声で話した。その内容はドナルドにとってもグリフにとっても人に聞かれたくない話だ。勿論、そのセリフ聞いた人たちはザワザワしだす。


「あ、それにいつも荷物も持たされたわ。そうかぁ、そのお陰で力が強くなったのかもね。なあんて、そんなわけないじゃない。そんな事ばかりさせておいて、どの口が私と仲間だなんて言えるのかしら?」


 反論しようにも全て事実なので反論のしようもない。それに、まさかあのアリスがこの様な強気な態度で出て来るとは思ってもいなかったので直ぐに返す言葉も見つからないのだ。


 この場にいる者たちつまり、冒険者ワーカー達は言い換えればアリスとマイクと俺に命を助けられた者達なので、ほぼ全員がアリス寄りなのである。いくらアリスが意地悪な口調で辛辣な事を言ったとしても、その様な状況下ではドナルドとグリフは完全にアウェイ状態。アリスが彼らに怒っている以上、ギャラリー達も同じように彼らに怒りを向けるのだ。


 二人は完全に八方塞がり状態。ドナルドは「アリスと二人だけなら力ずくで言う事を聞かせるのに……」と思いながら歯ぎしりをするが、今力ずくでものを言わそうものならそれこそ村八分にあい、ギルドの冒険者ワーカーとしてやっていけなくなる事は目に見えている。


 ここは悔しさを堪えて、アリスに謝罪するしか選択肢は思いつかなかった。


 ただ、ドナルドもグリフもアリスがヒドラを倒したことを知らないので、何故彼女が冒険者ワーカー達から称賛されているのか、意味は分からなかった。


(くそう、この野郎……覚えておけよ)


 ドナルドは心の中でそう思いながらも仕方なしに謝罪を口にした。


「わ、悪かったよ。治療費を払うよ。い、いくら払えばいいんだ?」


 ドナルドは思いっきりの渋々顔でアリスにそう尋ねる。


「そうだね、仲間じゃないんだから5万ピネルを請求するわ」


 ドナルドとグリフの表情が引き攣る。5万ピネルと言えば、概ね円に換算すると50万円位の価値がある。いくら何でも法外ではないか!


「い、いくら何でもそれは取りすぎだろう。お前何を考えているんだ!」


 思わずドナルドは激しい口調で返答をした。


 だが、考えても見ろ、組織再生や骨折を通常病院で治療するとなれば、入院費や手術代などでそれくらいはいくものさ。そう考えると決して法外では無いわけだが、この星には俺がもともと持っている回復薬と同じくらい高性能な薬が存在する。それを一本飲むと、骨折も組織も一瞬で治癒するのだ。そして、その値段は1万ピネル程だそうだから、それと比べれば高すぎるのである。


 だが、アリスの方はドナルドの威嚇にも全く怯まず、彼に冷たい視線を浴びせる。


「綺麗に治してあげたんですもの、それくらいの請求は当然でしょう?怪我をしたのはあなたが弱いからじゃない。もっと強くなりなさいよ」


 辛辣なセリフがドナルドの心をえぐる。そしてあまりの苛立ちに目は吊り上がり、顔がどんどん紅潮していった。


 ドナルドが何かを言おうとして口を開いたが、アリスはそんなドナルドの事など全く気にも留めず、すかさずそれを遮った。


「では、内訳を言います。骨折の治療1万5,000ピネル、組織の再生1万5,000ピネルあなたのパーティで私が受け取っていなかった依頼料1万ピネル。そして、誤解され解雇され傷心した私への慰謝料1万ピネル。それで合計5万ピネルよ」


 ドナルドは周囲に聞こえるほどの歯ぎしりを立てた。


 ドナルドは自分の事に怯えていたアリスの事だから、他の冒険者ワーカー達が味方に付いていたとしても、せいぜい5,000ピネル程の請求だろうと思っていた。それがなんだ、その10倍もの額を請求してきたのだ。それになんだその内訳は……くそぉ、アリスのくせに……


 ドナルドの怒りの感情は頂点に達した。自分たちの事を誰かが見ている事すらすっかり忘れるほどに。そして、その感情は行動にも現れた。


 「アリスのくせに、馬鹿にしやがって!」と剣を抜き、アリスに切りかかった。


 ドナルドの性格を知っているアリスにとって、彼のこの行動は想定内。アリスはドナルドと対峙する事で、彼に怯えていた自分と決別しようとしていた。


 切りかかられたアリスはと言えば、身体強化魔法がかかっているうえに、先程ヒドラをマイクと二人きりで倒しているのだから更に生命力が高くなっている。俺がパッと見て、アリスの生命力は2,000は優に超えており、更に魔法のお陰でその3倍、ドナルドよりも10倍以上強い事になる。


 という事は、ドナルドの刃の軌道など止まって見えている。彼女の狙いは以前に俺がやった様にドナルドの刀の刀身と柄を切り離す事。あれをやってみたかったらしい。抜いた剣の刀身が無ければ、心も折れるものな。


 瞬時に引き抜かれた細剣レイピアは美しい軌道を描き、『キンッ』と金属音を打ち鳴らした。彼女の汗が綺麗な水滴となって飛び、美しい長いブロンズの髪は光沢を放ちながら広がった。その動きは誰が見ても可憐に見えた事だろう。


 高速に回転させながら空中を飛んでいくドナルドの刀身。そこらの冒険者ワーカーに当たるとかなり危ないので、俺は風の魔法を巧みに使い、自身の方へ誘導させそれをゲット。


 刀身の無い剣を大きく空振りさせ、ギョッとするドナルドに、既に細剣レイピアを鞘へ仕舞っていたアリスは強烈なボディーブローを食らわせた。


 ドナルド身体が宙に浮くほどのボディーブロー。その場に倒れ込み、呼吸もできぬほど悶絶するドナルド。


「あーすっきりした。レアがやったみたいに刀身を切断したかったのよね」


 アリスはあどけない表情でニコッと笑った。実にあっけない幕切れとなったのだった。


いつも読んで下さりありがとうございます。

アリスは言いました。

「ようやくすっきりしたわ」

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