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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第一章 飛ばされた最強の魔法騎士

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3.マイクとの出会い

「……」


 まずまずの語彙情報は貯まっているが、まだ文章を作る迄には至っていない。さてどうしたものか。言語的コミュニケーションが取れるなら色々聞きたいこともあるのだが


 俺が黙っていると、髪の毛がチリチリの男は俺の肩を突き飛ばした。


「おい、俺様が声をかけてやっているのに、何とか言えよ、記憶喪失か」


 お、いい語彙をゲットできた。記憶喪失、いい言葉じゃないか。使わせてもらおう。


「記憶喪失……だ」


 俺の言葉を聞いて男はニヤリと笑った。


「そうか、なら俺が色々思い出させてやらないといけないな。この街では街に入っただけで税金がかかるんだぜ、滞在税ってやつだ。俺はそれを取り仕切っている。だから見たことのない奴が居たら声をかけるさ。滞在税って聞いたことあるだろう?思い出さないか?」


 そもそもこの星の人間ではないので、知っているはずがない。住民税ってものは聞いたことはあるが、入っただけで税金とは……ここは遊園地か何かか?


「という訳でよ、税金10万ピネル払いな」


 ピネル?……疑問に沸いたことは直ぐに自動翻訳機能が働き、お金の単位と同期される


「10万ピネル、無い」


 ようやく二語文完成。こんなチンピラでも多少は俺の役に立ったようだ。


 男たちは俺をじろじろ眺めた後、俺に近寄りの胸や腰辺りをポンポンと叩き出した。どうやら何かを隠し持っていないかを隠し持っていないかを確かめているのだろう。


 だが、残念な事に手荷物は持ってはいない。何故なら自身の持ち物は魔法で作る亜空間ボックスに収納しているからだ。先ほど手に入れた魔石二つも当然その中に入っている。


「兄貴、こいつ本当に何も持ってないですぜ」


 男のひとりがチリチリ男にそう話した。


「仕方ねえな、税金が払えないなら、衣類を頂いてその身体は奴隷商人にでも売りつけるしかねえなぁ、それが嫌なら10万ピネル分、働いてもらうっていう手もあるがな」


 ピネルというのはお金の単位だという事は分かったが、それがどれくらいの価値があるのかが判らない。何か比較するような文章を述べてくれると助かるのだが、まだ「10万ピネルとはどのくらい価値があるのだ?」という文章を作ることが出来ないのだ。もう一つ知り得た事、この星には奴隷制度が有る。文明としてはかなり低いな、人権を重視している星では消え失せている制度だ。不快だな、俺がこの星に深くかかわっているのならそんな制度なんて消滅させてやるのだが。


 そもそも、こいつらの会話を聞いていると言語が汚いので、そのまま俺の言葉を同期させれば、俺まで汚い言葉を発してしまう事になる。さっさとこいつらを蹴散らしてこの場から立ち去りたいのだが、それもまた目立ってしまうので極力避けたい。何食わぬ顔をしてこの場を去るか。


 俺はもう一度「ピネル無い」と言ってその場を去ろうとすると、チリチリの奴が俺の肩を抱いてきた。


「まあ、そう言わずちょっと付き合って貰おうか」


 しめた、こいつら俺を路地裏へ連れて行くつもりだ。身ぐるみを剥がそうとしているか、力にものを言わせて身柄を拘束しようとしているのか、まあ、そんな事はどちらでもいい。人目の付かない所へ連れて行ってもらう方が俺としても都合がいい。


 周りにギャラリーが集まってきた。心配そうな目を向けてくれてはいるが、誰も助けてくれようとはしない、むしろこいつらがギャラリーに目を向けると、海のフナ虫みたいに群衆はサーっと広がるのだ。余程、こいつらと関わり合いたくはないのだろう。こいつらはそれを更に鼻にかけ、ますます肩を怒らすのだ。だが俺はそう言った群衆の行動を冷たいとは思わない。自分の手に余る行いをする必要は全くないのだ。それだけに安心してこいつらを()()ことが出来る。


 三人に連れられ、路地裏に入った途端……ゴン、ドカッ、バキッ


 たわいもない。ほんの少し小突いただけで伸びてしまった。おっと、鼻骨骨折を起こしているな、仕方がない治しておいてやるか。俺はチリチリの奴の鼻先を握ってぐりぐりと整復、大声で「ぎゃあ」と言っていたがそんな事は知ったこっちゃない、整復してやったのだ感謝されるべき話だ。血だらけだが鼻も一応整復されたし、さて、もう少し人の話を聞いて回るとするか。俺は目立たぬように反対側の通路から街路へと出た。


 再び人の話に聞き耳を立てながらゆっくり街を流していると、腰から剣を垂らした男が前を歩いているのが見えた。先ほどのチンピラよりもかなり強そうだ。生命力を覗くと5150、おお、ここらの奴よりけた違いに強い。本来の俺よりははるかに弱いが、力を押さえている今の俺よりは強い。力を抑え込んでいる時に不意打ちをくらわされると、流石の俺でもダメージを受けるので念のために防御シールドの魔法を使っておく事にした。するとその男が突然俺の方へと向き直り、何やら睨みつけてきたのだ。


 男はつかつかと俺に詰め寄った。蟀谷こめかみから汗を垂らし、拳を握りしめている。男は相当緊張している様だった。


 男の身長は俺と同じ180センチメートル位で黒髪、年齢は20歳前後と言った所か。生意気にも男前で良い体格をしている。腕、胸部、下半身すべてにおいて肉付きが良く、胸部には革の胸当て、格好いいじゃないか。きっとこいつ戦士だな。靴は長めのブーツを履いており、腰には鞘に収められた剣がぶら下がっていた。見た所何らかの戦闘によって生活を営んでいるのだろう。うむ、この出会いは俺にとってチャンスだ。


「お前、俺に何かをしたのか?」


 男は俺を睨みつけながら、ゆっくりとそう問うてきた。手の動きからして、何かおかしな動きがあればいつでも切りつけると言わんばかりに、剣の柄の近くに腕を待機させている。傍で見ていれば全くの言いがかりであるが、なるほど、どうやら俺がこの男の生命力をサーチした事を何となく感じたらしい。加えて俺の潜在的エネルギー(オーラ)もなんとなく認識している様だった。


 野生の魔物の中には潜在的エネルギー(オーラ)を感じる奴は居るが、人でそれらを感じる事の出来る奴は相当な手練れだ。手練れとは言え、本来の俺の生命力からすればミジンコクラスではある。潜在的エネルギー(オーラ)抑え込んでいるにも関わらず、俺の本質を見抜くとは、なかなか見どころがある奴ではないか。


 折角語り掛けてくれたのだ、この機会を逃すまい。そろそろ文章の構成も可能になってきたので、出来る限り漏れ出る潜在的エネルギー(オーラ)を押さえ込み、この男に問いかける事にした。直感でわかる、こいつは先程のチンピラとは違い口先でものをいう奴ではない。


 俺の知りたいことは金の稼ぎ方だ。


「俺は記憶喪失だ。ここが何処かもわからない。金が無いので仕事を探している。」


 ふふふ、変な言い回しだが何とか文章を作ることが出来た。俺がそう話しかけると「そうか、ここの事がよく分からないから警戒をしていたのだな」と男は小声でつぶやいた。


「ここはサンプールと言う街だ。そして俺はギルドで冒険者ワーカーをしているマイケル・フィリップというものだ、マイクと呼んでくれ。金が無いなら、ギルドで冒険者ワーカー登録をすれば金を稼げるぜ。丁度これからギルドに行く用事があるので、行くなら連れて行ってやるよ」


 こいつ、表情も物の言い方も感じが良い。強者の持っている余裕って奴だろう。ここで出会ったのも運命だと思って、この男、マイクに付いて行くことにした。ギルドとは職業安定所みたいなところか。色々考え込んでいると、ここでようやく自動翻訳機能の完成度が70パーセントを超えた。これで普通に会話ができる。


「ああ、助かる。俺の名はブレア・グリーン・シェピスだ。レアと呼んでくれ。マイクと出会えて俺は幸運だったよ」


「ははは、簡単に人を信じる奴だな。寝首を掻かれたって知らないぜ」


 俺はマイクと握手を交わし、ギルドへと向かった。


読んで下さりありがとうございます。

10話迄毎日投稿します。

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