32.この星の真実
第三章開始です。宜しくお願いします。
アリスを使いに行かせたのは俺と二人きりになる為だった。ロッシはこの星の住民であるアリスに真実を伝える事は、混乱を招く可能性があると判断したのだろう。
「そもそもお前たちが聞いている『裏世界と表世界の二元で成り立っている』という話はな、出鱈目だよ。それに『魔物を作り出し表の人間を根絶やしにしようとしているらしい』という話もな」
ロッシの言葉は意味不明だ。一体どういうことだ?何故偽りを世間に伝える必要があるのだ?
「府に落ちないって顔をしているね。余剰魔素って聞いたことが有るかね?」
一応聞いたことはある。動力源として魔石を使うのだが、魔石に含まれている使いきれなかった魔素や、使い切った後に出る排気ガスの様な魔素の事をそう呼ぶのだ。余剰魔素を放置してそれが溜まりすぎると質の悪い魔物が発生したり、時空が歪んだり良からぬことが起こるので、拡散させて何処かに捨てなければならない。
「一応聞いたことはある。簡単に言うと、使えなくなった魔素の事ではないのか?」
「そうじゃ。実はこの星は別の惑星と時空の歪みで繋がっており、別の惑星の余剰魔素のごみ捨て場となっておるのじゃ。時空の歪みとは、この星の人間が『歪み』と呼んでいるやつだな」
この星がゴミ捨て場とは酷い、気分が悪いな。何処の世界でも同じだ、自分の所で処理しきれないものは文句の言えない所に持っていく。まるでカースト制度だが、押し付けられた方はたまったものじゃないぞ。
顔を歪めた俺にロッシはそれを否定するように、手を左右に揺らした。
「おいおい、そんなに怖い顔をするんじゃない。知っているのか知らないのかは別にして、たまたま意図せぬところで繋がってしまっただけで、その星にも悪意があるわけではないと思うぞ。相手の惑星もその事に気付いておらぬかもしれんしの。そもそも宇宙空間にも魔素は存在するのじゃ。だから時空の歪みを利用して余剰魔素を宇宙空間に破棄し、自然拡散するのは当たり前で、何処でもやっている事だよ」
余剰魔素がそのように処理をされていたとは……俺もまだまだ知らない事が多いな。
で、当たり前であったことが何かの手違いで当たり前ではなくなったという事か。だだ、考え方によってはある意味この星にとってはラッキーな話だ。事実上、この星はごみ処理班って訳だが、そのお陰で無限に魔石が手に入る。
「だが、何故その事実を誰も知らないのだ?」
ラッキーな事とは言え、魔物が無限に涌いて来るとか、疑問に思う奴が出てきてもおかしくないだろうに。
「それな、いわゆるゴミの排出口、いわゆるダスト口には本当に強い魔物が存在してな、あたしでも一人で行くには厳しいくらいさ。そこに行くと命に関わるわけだから真実には辿り着けない。実際に何人かは命を落としている。あまりにも危険なので事実は判らないわけだし、そういう架空の物語を作って人を行かせないようにしたのではないのかね、だってほら、人類は未知の事柄に関して想像力を膨らまし、実しやかに語るものじゃないか」
まあ、旧世紀の地球でも天動説が唱えられていたものな。確かにそう言われればそうなのだが、何故ロッシはそんな事を知っているのだ?
「しかし、ロッシは何故そんな事を知っているのだ?通常の思考ならこの星がゴミ捨て場だとは到底思わないぞ」
疑いの眼差しを向ける俺に、ロッシは指を動かしながら光の球体を作った。そいつをフワフワ移動させながら不敵な笑みを浮かべて、口を開いた。
「ああ、あたしも時空の歪に巻き込まれてこの星に来た異星人だからさ。あたしの居た星はここよりももっと文明が進んでいて、他の星との交流もあった。余剰魔素の話は常識じゃよ」
俺は思わずロッシの目の前のカウンターを両手で掴んでしまった。俺以外に異星人は居たのだ。文明の進んだ星に居たロッシの事だ、惑星イメルダに帰る為の手段を知っているかもしれぬ。
いや待て待て、喜びすぎるな。ロッシがその手段を持ち合わせているとすれば、さっさと自分の星に帰っているはずじゃないか。何故ここに留まっている?帰ることは出来ないという事か?
「おやおや、えらく興奮するね。余程自分の星に帰りたいのかね。残念だが、それは……と言いたい所だけどね、あんたなら帰れるかもしれないよ」
ロッシは相変わらず扇子をパタパタさせながら、思わせぶりな発言をした。
「どういう事だ?説明してほしい」
俺がそう言うとロッシは胡坐をかいたままの自分の身体をふわりと持ち上げた。そして指でクルクルっと円を描くと、空中に地図を描いた。この街を中心とした後広範囲の地図だ。その地図は俺の頭に刻み込んでいる地図よりも詳しく広範囲だった。おそらく、図書館で仕入れた地図は、探索者が行けなかった部分の記載がされていない為である。
それにしても凄い魔法だ。俺も相当優秀な魔法を使えると自負しているが、浮空術や空間に絵を描く術は持っていない。ロッシは殆どの事を魔法でやってのけている。本物の魔術師と言ったところか。生命力も2万くらいだが、瞬間的に出せる攻撃力はそれ以上かもしれないな。
「この地図をごらん。あの端の方に黒く渦巻いている部分があるだろう。あそこが時空の歪みさ。普段から余剰魔素は小出しにはされているんだがね、凡そ半年に一度大量に放出される日が有るのさ。大型ゴミの日って訳なのかね、フフフ」
「つまりなにか?その大量放出される日に時空の歪みが大きく開くという訳だな?その時に時空の歪みに突っ込めと」
ロッシは相変わらず扇子をパタパタさせながらニヤリと頷いた。
「ああ、そういう事さ。ただしあの付近にはあたしと同等かそれ以上の魔物がわんさかいるんだ。そいつらを蹴散らさないといけない。それに時空の歪みに入れたとしても、本当に余剰魔素を排出している星にうまく辿り着けるかの保証もないがね。まあ、あくまでも僅かな可能性があるって話さ」
成程、僅かな可能性でも充分。余剰魔素を破棄できるほどの惑星なら、星間移動など自在にやってのけているはずという解釈だな。だから、その惑星に行けば俺の星、惑星イメルダに帰れる可能性が出てくるという訳か。上等じゃないか。
いつも読んで下さりありがとうございます。二日に一度の投稿になります。
少しだけ帰れる手掛かりが見つかりました。




