番外2.アリス繭を採る
番外編です。
ひとりでビッグモスの繭を採りに行かされたアリスだったが、その装備は万全、体力と魔力は飴や薬で何時でも回復できるし、毒に冒されたとしても解毒薬が有るのだ。加えて、今は余計な重力が課されていない為、1,200超えの生命力がフルに使える状態である。
ギルド周辺にいた強者の冒険者でも生命力は800程度だったので、今のアリスはそいつら以上の強さを誇るうえに、レアの細剣を持っているのだからGランクで行ける範囲の魔物など、彼女にとっては青虫を潰す程度のものなのである。
山を登る際も身体が軽すぎて、頂上まで一気に駆け上がれるほどだ。しないけど。時折襲い掛かって来るサーベルウルフを細剣一振りで消滅させながら、教えられた通りの場所へ到達すると、そこはレアの言っていた通り断崖絶壁の谷。
「谷に着いたら、その宝石を握りしめて勇気をもって一歩踏み出すんだよ」とロッシに言われた言葉を思い出し、ナンマンダブと一言唱えて一歩を踏み出した。
すると驚いた事に断崖絶壁だった場所は桑類の木の群生へと早変わり。大量に生えている桑類の木の幹のあちらこちらにビッグモスの幼虫がうじゃうじゃ引っ付いている。幼虫の大きさは30センチメートル位ありそうな白っぽい芋虫だ。そしてアリスが近くで見ていても全く関心が無さそうに、もしゃもしゃと葉を食い漁っていた。
「うわぁ……気持ち悪ぅ」
ロッシから見せられた繭の大きさはラグビーボールよりも少し大きいくらいだったので、その幼虫も相当な大きさだ。全長30センチメートル以上はある。
今回の目的はこの幼虫を何とかする事ではない。あくまでも繭の採取。ロッシが隠しているという事は、この幼虫も含めて大切にされているのだろう。それに下手に幼虫を殺してしまうと今後採取できる繭は少なくなるという事だ。
極力刺激しない様に木々の隙間を移動していくが、幼虫とは言え魔物。アリスがあまりにも近づくと、頭の辺りから真っ赤な二股に割れた角を出し威嚇してくるのだ。それがまた臭く、時には汁みたいなものを噴きかけてくるのだ。うまく躱すことは出来るのだが、その汁が地面に落ちるとそこにあった枯れ木や葉が溶けてしまった。
「なんてことなの、凄く危険じゃないの……」
溶かされてはかなわないので、アリスは出来る限り気配を消し、足音も立てない様にそっと歩いた。幸い幼虫は一定の距離を保つと威嚇はしてこない。ただ単に食事の邪魔をされるのが嫌なだけのようだ。魔物は人を見れば攻撃してくるものと思っていたが、明らかにこの魔物は違う。人を警戒していないのだ。飼育されているというのも頷ける。
それにしても、もしゃもしゃ葉を食べる幼虫を見ていると、ちょっと可愛いかも……なんてとても思えない、大きすぎるのだ。いきなり飛びかかられて身体にへばりつこうものなら、全身鳥肌が立ち、髪の毛も逆立ってしまうだろう。
けれども、あまりにも美味しそうに葉を食べているので、気になったアリスは葉を一枚引きちぎり自身の口に運んだ。
「うわぁ!ペッペッ……苦ぁ。よくこんなもの食べているわね」
思わず吐き出してしまった。興味本位で何でも口に入れるものではないわね。
水で口腔内を洗い流していると複数の視線が……数匹の幼虫がアリスをじっと見つめていた。
「ごめんごめん、あなた達の葉を取っちゃて。もう取らないから許して」
幼虫を警戒しながら群生の奥へと進んでいくと、枝にぶら下がっている繭が多数見つかった。まるでミノムシの様である。そこにも少しの幼虫は居たのだが、どうやら生まれた時期によって棲み分けをしている様で、このエリアは殆ど繭で占められていた。
「ピクピク動いているのも居るけど、多くはじっとしているわね。あら、あそこの繭はビッグモスが出かかっている。孵ろうとしているのね……大きくて気持ち悪い」
アリスの身体はブルブルっと震えた。さっさと終わらせて帰ろう。
木からぶら下がっている繭を見ると、確かに横に小さな穴がある。アリスは言われた通りその穴に竹串を差し込んだ。すると繭が一瞬ブルっと震えた。
確か音がするって言っていたわよね?
アリスが繭に耳を傾けていたがなかなか音は鳴らない。
本当にこの方法で合っているのかしら……聞ける相手も居ないので、そのまま待っているとやく10分後
「コトリ……」
今、何か音がした!
アリスは音がした繭を手に取り、そこへゆさゆさ振ってみた。するとコトコトと音がする。
そうかぁ、魔石になる迄10分くらいかかるんだね。そうと判れば……
アリスはなるべく大きそうな繭を選びながら、慎重に手持ちの竹串を穴に差し入れていった。これを30個分やらないといけないわけね。
繭の回収作業は始まったばかりです。
いつも読んで下さりありがとうございます。
本編の開始はもうしばらくお待ちください。




