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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第二章 アリス

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31.ロッシからの依頼

この話で第二章完結です。少々長くなってしまいました。

「なんだ?その言い方からすると、君は俺の事を異星人とでも思っているのか?」


 取り敢えず少女の発言に対し、俺もカマをかけてみた。そもそも宇宙に行く技術も無いこの星で、異星人など空想の世界でしかないはずだ。それを現実に信じているとしたならば、それを知っている者に他ならない。


 加えて、あちこちの星を渡り歩いてきた俺だが、エルフは何処にでもいる存在ではない。それにこいつは、今まで見てきたこの星の人間とは比べ物にならない程の魔力の持ち主だ。生命力も2万は優に超えている。こいつも俺と同様、他星よそから来たと考えても差し支えあるまい。


 ただ、こんなにも強いこいつが、ここで身を潜めながら生きているのはどういう訳だ?その気になれば街ひとつくらい余裕で我が物に出来るだろうに。


 そう思いながら少女を見つめていると、どうやら俺の質問は大いに気に入らなかったらしい。突然、眉を歪め掴んだ杖の先端を俺に向けて睨みを利かせて来る。


「違うのかい?あたしにはどう見てもこの星の人間には見えないがね。で、どうするんだい?ばれたらあたしを殺そうとでも言うのかい?でも、あたしもタダでは殺されないがね」


 再び少女の魔力が増幅していく。俺の返答次第によっては何時でも魔法攻撃を発動させる気だ。これは俺を敵とみなしたという事か。


「ちょっと待ってくれ。ここで争いを起こす気はない」


 俺は両腕を上げて降参のポーズを取った。アリスは何が起こっているか理解できず、目を点にして呆然としている。きっと少女はとてもプライドが高い、力任せに押さえつけようとしても命を張って抵抗するだろう。かと言って下手に出るのも悪手だ。媚びを売る奴もきっと嫌いなはず。こういう相手にはストレート勝負。


「今更取り繕うとしたって、そうは問屋が卸さないよ」


 睨みつけて聞く耳など持たんくらいの勢いで、どんどん魔力を増大させてくるわけだが、俺は逆に俺の生命力を限界まで押さえつけた。


「俺の願いは二つだけだ。巨匠バルディーニが推薦するほどの凄腕の武具師に、防具を仕立てて貰う事と、この星から出る方法があるなら教えて貰いたいという事だ」


 俺は可能な限り潜在的エネルギー(オーラ)を押さえ、話を続けた。敵意が無いことを示すためだ。実際の所目の前の少女の生命力から判断すると、この方法は危険な賭けである。この状態で攻撃をされでもしたら、流石の俺でもかなりの深手を負う事になるだろう。だが、強い潜在的エネルギー(オーラ)をむき出しにして誰が話を聞こうと思うのだ。


 俺の発言に少女はピクっと耳を動かした。これは「話くらい聞いてやる」というサインに違いない。俺はそのままの状態を維持しながら話を続けた。


「自己紹介が遅れて済まなかった。俺はあんたの言う通りこの星の人間ではない。共和同盟軍である惑星イメルダの騎士団に属する魔術騎士ウィザードナイトでブレア・グリーン・シェピスというものだ。この星には帝国軍との争いの最中に飛ばされた。俺にはここが何処なのかがまだ把握できていないのだ。できれば早く自分の星に帰りたいと思っている」


 長々と話してしまった。俺の話を信じてくれるのだろうか……俺が黙って話を聞いている少女の顔をじっと見ていると、突然アリスがブーッと噴き出した。


「キャハハハ!レアったら真面目な顔をして何を言い出すのかと思えば、そんな作り話誰も信じないわよ。嘘をつくならもう少しマシなものを考えなさいよ。あなたがそんな冗談を言える人だとは思えなかったわ」


 抱腹絶倒とは正にこの事、アリスはお腹を抱えて腹部の痛みを堪えながら大笑いだ。おい、今は絶対に笑うところではないはずだぞ。生死にかかわる所だ。それに、一体、何が面白いんだか……


 まあ、宇宙に縁の無い星の住人にとって、世迷言にしか聞こえないという訳か……それもトホホだが。


 それにしても笑いすぎじゃないか? まてよ……もしかして、この少女も世迷言だと思っているのではないだろうな。


 一抹の不安を抱え、横目でチラリと少女を見ると口角を持ち上げ、ニヤリと笑っている。何とも解釈し難い表情である。そして、フフッと声を出した後ゆっくり表情を緩ませた。


「いいだろう、そういう事にしておいてやる。なあ、そこのお嬢ちゃん。この話は他所でするとあんたの大事なこの男が恥をかくからな、あんたの胸だけに仕舞っておいてやってくれ」


 完全に少女は俺を中二病扱いに仕立て上げたのだ。そして、ニヤニヤ笑いながら増大させていた魔力を解除し、構えていた杖も下ろした。


 何はともあれ、警戒は解いてくれたわけだ。


「お嬢ちゃんにお嬢ちゃんって言われても変な感じがするわ。あなた本当は誰なの?ロッシさんのお弟子さん?バルディーニさんの言っているロッシさんはどこ?」


 残念ながらアリスにはこの少女の強さが理解できていない。そんな軽口をたたいていると酷い目に合うかもしれないぞ。


 だが、少女はそんなアリスの発言に気にする事も無く、ニヤニヤしながら、懐から扇子を取り出しパタパタと扇ぎ始めた。そして、ふぅとため息をひとつつきアリスに語り掛けた。


「ああ、あたしがロッシだ。そこの坊やが言う通りエルフと言う種族なんだよ。この星にも僅かだが生息している希少な人種さ。あまりにも長生きなので、子孫を増やすのは稀だ。それに見かけるのさえ珍しいから幻とさえ言われていたがね。嘆かわしいものだ、今ではその幻さえも知られなくなっているんだねぇ」


 やはり目の前の少女はロッシだった。シュンとして肩を落とすロッシに、何を信じていいのやらとアリスは戸惑いを見せたが、何か思い立ったように近寄り優しく手を取った。


「無知ですみませんロッシさん。どうか私に防具を作ってください。私はこの先世界を震撼させるほどの冒険者ワーカーになる予定です。すると、皆が私に問うでしょう『その素晴らしい武具を作ったのはだれか?』と。そして私が匠武具師のロッシさんの名前に加え、エルフと言う素晴らしい種族が居る事を世界に伝えますわ」


 そう言いながらガッツポーズをするアリス。何やら意を決しようだが、おいおい、大きく出たな。それにどっかで聞いた様なセリフではないか。


 アリスにとってロッシの話が真実かどうかなんてどうでもよい様で、分かっている事は彼女が多分、凄腕の武具師であるのに、誰にも認知されていないという事なのだ。ロッシがエルフだって言うのならエルフで良いじゃないかと割り切ったのだ。


「クククク、お嬢ちゃん、信じてくれるのかね。よかろう、エルフの存在を知らしめるのはあんたに任せる事にするよ。やれやれ、大変だ。という事は世界を震え上がらせるほどの防具を、お嬢ちゃんに作ってあげないといけないわけだね」


 アリスのセリフにロッシは好感を持ったらしい。ロッシは防具を作ると言った。だいたい、この店の中にも数多くの美しい武具が並んでいるのだが、それを選択せずにアリス専用の防具を作ってくれるという訳だ。


「じゃあ、未来のスーパー冒険者ワーカーのお嬢ちゃんにひとつお願いをしようかね」


 本当に少女の様な見てくれなのに、その口から出るばあさんの様な言葉遣いのギャップに戸惑いを感じながら、ロッシの話に耳を傾けていると、彼女は突然人差し指をクルリと回した。すると、カウンターの奥からラグビーボールよりももう少し大きいくらいの繭がフワフワと宙に浮かびながらやって来て、アリスの目の前にコトリと落ちた。


「お嬢ちゃん、それはビッグモスの繭だ。森でこれを30個程取ってきておくれ。これとそれを持っていきな。一流の冒険者ワーカーになるんだ、それくらい容易たやすいだろう?お前さん一人で行くんだよ。あたしはこの坊やと話があるからね」


 俺を坊や扱いしたロッシはアリスに亜空間バックと竹串を5本、それに緑色をした宝石ほど手渡した。


「ビッグモスの繭には中に幼虫が入っているのだが、ほら、ここをよく見てみろ、小さな穴が開いているだろう?これが空気穴さ。ここにその竹串を突っ込むと幼虫は呼吸が出来なくなって死ぬんだ。死ぬと中で魔石になるからコトンと音がする。うまくいったかどうかはその音が目安だ。この繭がお前さんの防具になるのさ、さあ、行ってきておくれ」


 いきなり振られた課題に戸惑っているのか、アリスは何か言いたげに俺の顔を見た。そもそもやり方は判ったのだが、緑色をした宝石を何に使うのかはわからないのだ。不安がいっぱいって顔をしているのだが、俺はあまり深く考えず黙って頷いてやった。どのように受け取るかは彼女次第、「お前ならやれるぞ」ポーズに取って貰らえたらそれでいい。


 残念ながらアリスには伝わらなかった。「なんで意味も無く頷くのよ」って言われてしまった。心が痛い。


 何はともあれロッシ曰く、世界を震撼させるほどの冒険者ワーカーになるのなら、このくらいは朝飯前でないといけないって訳か。要は防具を作るだけの価値があるかどうかの試験みたいなものだな。でも、緑色をした宝石の使用方法は教えてやってくれ、俺にも判らぬ。


 アリスは不安げな顔を続けている。まあ、少しくらい手助けをしてやるか。


 俺は空間認識魔法でビッグモスの繭のある場所を感知したが、それらしい場所が無い。何か間違ったか?再度、空間認識魔法を行うが、やはり森にはビッグモスが存在していないのだ。ロッシはアリスを騙そうとしているのか?


「ロッシ、森にビックモスが居る気配はないのだが……」


「ほほう、あんたは空間認識が使えるんだね。フフフ、あたしの魔法も満更じゃないね。一部のエリアに幻影魔法をかけてあるのさ。あそこはあたしがビッグモスを大切に飼育しているところだからね」


 ロッシが示した場所は森の西側、地図上では崖になっている所だ。


「さっき渡した緑色の宝石をそこで使うのさ。それを持っているとあんただけ幻影魔法を解除できる。さあ、行ってきておくれ」


 成程、あの緑色をした宝石は幻影魔法を解除する物だったのか。


 百科事典にも詳しく載っていなかったので、ビッグモスがどういった魔物かはよく知らないが、幻影魔法を使っているという事はあまり人に立ち入られたくないという事だな。それに飼育と言っていたな、繭を採る為にロッシはその場所を養蚕場にしているのか。


 アリスにその大切な場所を教えるとは、余程気に入られたのだな。


 空間認識では断崖絶壁に見えるが、場所としてはGランクが行ける範囲の場所なので、ロッシのいう事が本当ならば今のアリスなら危険はあるまい。


 俺は彼女に詳しい地図を描いて渡し、課している重力の解除を行った上に俺の細剣レイピアも貸した。ビッグモスと言うくらいだから、毒を持っているかもしれないので、ついでに万能解毒薬も数粒渡した。念には念をだ、極力安全に行けるように身体強化もかけてやるか……


 そう思っていると妙な視線を意識した。視線の先にあったものは表情を歪めながら俺を見ているロッシがいた。すまぬ、少し過保護すぎたかな……身体強化は止めておこう……


「エヘヘ、これだけ色々して貰ったら、出来ないなんて言えないよね。レア、行ってくるよ、吉報を待っていてね」


 屈託のない笑みを浮かべながらグッと握り拳を作った後、アリスは意気揚々と飛び出して行った。無事に帰ってきてくれたらいいのだが……


 アリスが出て行った扉をぼーっと見ていると、ロッシが後ろから俺を呼んだ。


「過保護な奴だね全く。試練にも何もなりはしない。まあいいさね、二人だけになったからね、あんたにこの星の成り立ちを話してあげようかね」


 え?どういう意味だ?やはりロッシは別の星から来た異星人で何かを知っているのか?


 もしかして、自分の星に帰る手段があるのか、と期待を寄せながらロッシの話に耳を傾けた。


いつも読んで下さりありがとうございます。

第二章終了まで読んで頂き嬉しく思います。番外を1つ挟み、第三章に入る予定です。

第三章はまだ仕上がっていませんので、しばらく先になると思いますが、投稿の際にはよろしくお願いいたします。


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