23.剣を作りに
面談室の中では、俺とアリスの前でヤックは時折大きなため息をついていた。少々面倒臭そうではあるが、丁寧に鑑定をしながらサーベルウルフの魔石を机の上に並べていく。
「はぁ、全部紛れもない本物の魔石だわ……137個もあるじゃないの。こんなに沢山のサーベルウルフの魔石をどこで手に入れたのよ?森でこんなに沢山のサーベルウルフに出会ったとしたら、大量魔物の暴走の可能性もあるわ、詳しく教えて頂戴」
「別にその辺に沢山いたわけじゃない。樹海の入口付近に溜まっていたからそこで一掃しただけだ」
俺がそう言うと、ヤックは目を丸くした後頭を抱え、大きなため息をついた。
「良かった、大量魔物の暴走ではなかったのね。はぁ……でも、何故そんな危険な所に行くのよ。Fランクの冒険者だって五人くらいのパーティで行くところよ。あんたたちノービスにGランクでしょ、危険すぎるわ」
「ん?ランク的に行ってはいけない所だったのか?」
あんな弱い魔物など何体居ても恐れるに足りん、俺は全く気にならん。が、アリスは思うところがあった様で、そっぽを向いて知らぬ存ぜぬを貫いている。
「そうではないけど、あんたたちのランクだったらぜーったいに行かない所よ。普通なら死んじゃうよ?もう、誰かが真似をしだしたら大変じゃない、マスターに言ってあそこに行けるのはEランク以上にしてもらうからね」
ヤックは更に何度も何度もため息をつきながら、そう言った。だが、それは困る。Eランクになるのはまだ先になりそうだし、俺の空間認識魔法によると魔物が沢山いる場所で、ノービスが行ける所はあそこだけ。金も稼がないといけないので、狩場を制限されると困るのだ。
「それは困る、少しでも早くランクを上げたいのだ。俺がEランクになる迄その制限は待ってくれないか?」
「何を言っているのよ、そんなの無理に決まっているじゃないの。あんたたちみたいな無茶な冒険者の為にも早々に決めて貰わないとだわ。でもね、直ぐにランクが上がる方法は他にもあるのよ」
ヤックはなかなか興味深い事を言った。アリスの顔を見てみると、ヤックが言わんとしている話をどうやら知っているようだが、今一つ気乗りはしていない様子だ。
「ほう、それはどんな方法だ?」
「うんとね、ランク別による冒険者の武術大会があるのよ。優勝したら2ランクアップ、準優勝だと1ランクアップ。レアはこのサーベルウルフの依頼でGランクになる事はほぼ確定しているから、大会で優勝すれば一気にEランクになれるわ」
残念ながらサーベルウルフ137体の討伐だけでは、アリスはFランクになれるかどうかの瀬戸際らしい。これまでの実績にかかって来るとの事だが、アリスと組んでいた奴らが彼女の取り分だけでなく、実績迄奪っていたらもう無理だろう。そこを何とか言っても仕方がない、でも大丈夫だ、俺達が武術大会に参加すればいいだけではないか。優勝くらい容易いだろうし、どちらかはEランクになれるはずだ。
それだけではないぞ、大量に人が集まる武術大会なら、知らなかった冒険者達とも出会える。もしかすると、その中に俺の様な異星人が混じっている可能性もある訳だ。となると惑星イメルダに帰る為の道筋が出来るかもしれないという事だ。
ヤックの話では、大会は年に一度行われるもので、元々の始まりは、冒険者全体のレベルアップが目的だったらしい。優勝すればランクアップするだけでなく、賞金に加え、賞品も豪華なので、冒険者達はその為にも自分達を鍛え上げる。ギルドとしてはそれを餌に、全体の底上げを狙っているのだ。まあ、そこは大いに結構。
それにしては、今まで見てきた冒険者の生命力はとても高いとは思えない。ヤックがそう言うのだから、一応あれでも鍛えられているのであろうが、俺から見たら壊滅的な実力ぞろいだぞ。
アリスが気乗りをしない理由は、他のGランクの冒険者が自分よりはるかに強いと思っているからだ。冒険者仲間からカモにされていたくらいだからな。精神的に憶病になっているのだろう。だがな、自覚を持ってほしい、お前はあの時とは違う。余裕で優勝できると思うぞ?なんせ、生命力は1000を超えているのだからな。
その為にも、早々に何らかの剣を作ってやらないとな。
「ヤック、良い情報を有難う、大会はいつだ?是非参加させてもらう。エントリーをしておいてくれ。勿論、アリスも参加だ」
「じゃあ、二人ともエントリーしておくね」とヤックがそう言って大会の案内を渡してくれた。大会はひと月後、場所はスタジアム。ギルドの奴、全体の底上げなどと言いながら、観客の動員を狙っているな。だから豪勢な商品を出せるのか。
まあいい、差し迫ってはいるが、大した問題ではない。俺たちはヤックから137個の魔石分と、牙10個、皮7枚分の報酬52,350ピネルを受け取り、ギルドを後にした。鍛冶屋へ向かう為だ。
報酬についてだが、俺が倒したサーベルウルフは3体だけだったのでそれら全てをアリスに渡そうとすると、私は弟子だから3分の1でいい、と言い出した。俺にとってピネル如き何時でも稼げるし、現にそれなりの金も持っている。それほど必要なものではない為要らぬと言い張ったが、アリスのあまりのしつこさに折れてしまった。それでも譲れないラインは有る為、結局折半と言うところでお互い手を打った。取り分は減っても「これで幾らでも甘いものが食べられる」とアリスは大喜びだ。全部貰っておけばその倍食べられたのにふふふ、欲のない奴だ。だが、その態度は嫌いじゃないぞ。
◇ ◇ ◇
「アリス、腕のいい鍛冶師を探している、心当たりは無いか?」
「レアが気に入るかどうかわからないけど、人気のある鍛冶屋なら知っているわよ?」
アリスが知っているという人気のある鍛冶屋は、一等地である五番街にあった。この場所に店を構えているという事は相当儲けているという事だ。人気があるというだけある。
人気と実力が同じならいいのだが……あまりにも設けている奴に対しては少し懐疑的になってしまう。
アリスに連れられてその店に行くと、人気店だけあって多くの冒険者達が武器を求めてやってきていた。ずらりと並んだ武器を見ると確かに豪華だ。装飾も多く、とても綺麗に仕上げている。が、それだけだ。粗悪さは感じないが、強さも感じない。少なくとも展示されている剣は、本当に上質のものかどうかは疑問の余地がある。まあ、良い所を言えばと言うと、値段は品相応で、ぼるようなことはしていない。
取り敢えず、剣を打てるかどうかを聞いてみる事にした。既製品ばかり売っている店かも知れないからな。
俺は受付の真ん中に胡坐をかいて座っている、一番偉そうなひげ面のおっさんに声を掛けた。
「剣を打ってほしいのだが」
「オーダーメイドなら1年待ちで、費用は10万ピネルだ」
驚きのあまり俺は心臓が止まるかと思った。この程度の剣しか作れない奴が年待ちで、10万ピネルだと?舐めているのか。
いつも読んで下さりありがとうございます。
第二章終了まで毎日投稿します。
良い剣が出に入ればいいですね。




