22.ギルドにて
俺たちは樹海の狭間から少し離れたところで待機した。再びサーベルウルフが涌いてくるのを待つつもりだ。なんせ、目標の半分ほどしか倒せていないからな。
湧くのを待っている間に、俺はアリスに真向斬りや突きなど、剣術の基本の型をいくつか教えた。剣を自在に振り回せる体力を獲得したアリスにとって、そのような型は無用の長物と思うかもしれないが、型を知っていれば無駄な動きは少なくなるものだ。サーベルウルフ程度の魔物なら現状でも何ら問題はないが、これが素早く力のあるグリフォンクラスの魔物になると僅かな無駄の動きも命取りになる。
ついつい説教じみた事を言ってしまいながら剣術を教えたわけだが、アリスは実に素直である。一心不乱に俺が教えた基本の型を何度も何度も繰り返した。集中して繰り返し剣を振るものだから、あっさり基本の型を自分の物にした。
レクチャーもひと段落着いた頃、タイミングよく何処からともなく集まったサーベルウルフ達がまた群れとなって、俺達の巣を荒らすなと言わんばかりにこちらを睨んでいた。50体以上はいそうである。
俺がゴーサインを出すまでもなく、待ってましたとばかりに再びアリスが飛び出し、サーベルウルフの討伐を始めた。今回はとても美しい基本の剣術を振い魔物を両断していくアリスの動きは、無駄が少なくそのスピードもアップした。アリスがふぅと一息吐き、クルリと器用に回した細剣を鞘に仕舞った時には合計で約120体以上のサーベルウルフが討伐をされていた。
「さあ、ギルドに帰ろう。ここにはもう用が無い」
俺は魔法でサーベルウルフの魔石をあっという間にかき集め、亜空間ボックスに仕舞い込んだ。そこにはドロップアイテムであるサーベルウルフの牙が10本、サーベルウルフの毛皮も7枚含まれていた。
決して独り占めをしようとしているわけではない。アリスのカバンでは入りきれないので、代わりに俺が持っただけである。そして俺はアリスに再び重力魔法をかけた。それも5倍だ。まだまだ修行は続くのだ。
彼女の生命力が1030迄上昇していたので、その重力でも十分耐えられる。ただ、これまでと目的は少し違うのだ。勿論生命力を上げる事も目的の一つだが、過重力を課さないアリスはどうやら力のコントロールが出来ずにいるのだ。急激に生命力が上がった為であろう。そのコントロールが出来る様になるまでは重力を課す。そうでもしないとあちこち破壊しそうだからな。
「重―い」
アリスはそう言うが一切辛そうな顔を見せない。強くなっていくことが嬉しくて仕方が無いのだろう。
◇ ◇ ◇
山を降りた俺たちはすぐさま服屋へ向かった。アリスにボロボロになったローブを着させておくのはあまりにも可哀そうだ。アリスの着ていたローブはほんの少し魔力を上げる特殊能力が付与されていた。だが、今のアリスにとってはその程度の付与はへのツッパリにもならない程。よって、ちゃんとした防具は後で揃えるとして、今は恥ずかしくない格好に……
アリスの選んだ服は、白っぽいブラウスに黒の短パン。長い髪をひと結びにしたその姿は少々ボーイッシュだが、とても似合っている。彼女が魔術師よりも魔法剣士として生きていくことを選んだ証だ。
「とてもよく似合っているぞ」
俺がそう言うと、アリスは少し頬を紅潮させて、嬉しそうに微笑んだ。これで見た目も大丈夫、早速、ギルドへ向かおう。
依頼をクリアしてランクアップを図るのだ。サーベルウルフを倒したのは殆どアリスだが、依頼はパーティとして受けているので、どちらが倒そうが関係は無い。サーベルウルフの魔石を正確に数えると137個もあった。ヤックが「サーベルウルフを50体程倒せばランクアップできる」と言っていたので、俺もGランクになれるはずだ。これでアリスがFランクにでもなれば、裏世界と表世界を繋ぐ歪に近づくことが出来るって訳さ。
おっと、また俺はアリスに頼ろうとしている。彼女は十分強くなった。俺の弟子として動く必要はもうないのだったな。
◇ ◇ ◇
「ヤック、サーベルウルフを討伐し来たぞ。魔石を確認してくれ」
受付に座っているヤックにそう言うと、彼女は安堵の表情を浮かべた。そう言えばサーベルウルフの討伐に出発して1週間近くたったものな。その顔はさしずめ生死の心配でもしてくれていたのだろう。
「他にも受付はあるのに、なんで私の所に来るのよ。嬉しいじゃないの」
口を尖らせながらヤックはなかなか可愛い事を言ってくれる。俺もお世辞で「ヤックの顔が見たかったのだ」と言うと、柄にもなく彼女はピンと立った耳をポリポリ掻きながら照れていた。だが、その横でアリスは少し不機嫌そうな顔をしていた。もしかして焼きもちを焼いてくれているのか?そう問うと思い切り抓られた。軽口がいけなかったのだな、注意せねば。
「ここに出していいのか?」
石を置くための小皿を出したヤックに問うと、彼女は普通に頷いた。まさか100個以上あるとは思うまい。これは驚かせてやらないとな。シルバールピナスの時は珍しい植物だったので遠慮したが、サーベルウルフは何処にでもいる奴だ。たいして目立つことは無いだろう。
隣でアリスもニヤニヤしていた。彼女も意外と悪戯好きだな。
「じゃあ、鑑定を頼む」
俺はそう言って亜空間ボックスからサーベルウルフの魔石をザラザラザラザラ……っと出した。
「な、な、何よこれ!!」
「ああ、アリスと一緒に討伐をしたサーベルウルフの魔石だが?別のものに見えるのか?」
ヤックは両手をお手上げ状態にあげながら、目を剥いて口をワナワナ震わせている。
「ど、ど、ど、何処の誰がこんないっぺんに狩って来るのよ!」
ヤックの大きな声のお陰で、近くにいた冒険者達が「何だ何だ?何事だ?」と近寄り出した。遺憾、俺の直感が厄介な事に巻き込まれるぞと訴える。少々、驚かせすぎたようだ。
「ヤック、すまないが大きい声を出さないでくれ、あまり目立ちたくない。別の部屋で話をしてくれないか?」
我に返ったヤックは顔を真っ赤にしながら両手で自身の口を押えた後、ザラザラ……っと魔石を集め小声で「め、面談室へ移動するわよ……」と言った。
その様子を元アリスの仲間がじっと見ていた。厄介な事にならなければよいが……うーん、身から出た錆か。
いつも読んで下さりありがとうございます。二章が終わる迄毎日投稿します。
レアはヤックを驚かすのが趣味になってきました。自爆していますが……




