18.オリハルコンの原石を掘れ
漸く目的の岩山に到着した俺たち、アリスは何故こんな所に用があるのか?と怪訝そうに俺を見る。なんせ、本来の目的であるサーベルウルフが全く居ないのだから。
正直、俺も違う意味で不思議に思っている。通常オリハルコンの原石は重力の強い場所にあると言われているが、こんな山の中にあるとは……地殻変動でもあったのだろうか。
「アリスはオリハルコンと言う鉱石の事を知っているのか?」
「オリハルコン?何それ?」
少なくとも、アリスはオリハルコンの事を知らない様だ。俺の住んでいた惑星イメルダでは、最強の武具を作るには欠かせない鉱石だったのだが……
「アリス、剣は持っているか?」
「護身用の量産品の短剣しかないけど」
アリスは懐から短剣を取り出して俺に見せた。俺はそれを手の取り見定めた。それなりに鍛えられているが、単なる鋳鉄の短剣だ。強度は150と言ったところか。ただ、量産品にしてはまずまず良質だ、これを打った職人に会ってみたいものだな。
「ふむ、これは何か思い入れのある品か?」
「またその質問なの?別に護身用として買っただけで、何も思い入れなんてないけど?」
「じゃあ、使い物にならなくなってもいいよな」と俺は一言お断りを入れた後、亜空間ボックスから俺の愛刀、オリハルコンの合金で作られた細剣を取り出した。それを鞘から抜くと、橙色よりもやや明るめの柑子色をした刀身が輝いていた。
「なんて綺麗な細剣なの……」
アリスは俺の細剣の美しさに目を奪われていた。これを美しいと思えるとはなかなか見どころがあるではないか。俺の中でアリスの評価ポイントが上がった。
「素晴らしい輝きだろう。だがな、こいつはただ単なる美しいだけの剣ではないのだ」
そう言いながら、俺は細剣でアリスの鋳鉄の短剣をリンゴの皮を剥く様に、細かく剝いでいった。
「な、何よその剣!一体どうなっているの?何かまた、変な魔法でも使っているんじゃないの?」
驚いたアリスは、目を丸くしながら鋳鉄の短剣の剝がれている刀身の一部をじっと見つめた。もしかして金属を魔法か何かで柔らかくしたのではないかと疑いをかけたわけだ。剥がれた刀身は丸まり、まるで木くずの様になっている。アリスは自身の手を傷つけない様に警戒しながらそれに触れたが、やはり硬いままだという事を認識しさらに驚いていた。
「俺の細剣はオリハルコンと言う最高レベルに硬い金属の合材でできている。アリスの鋳鉄の短剣の強度が150くらいだとしたら、こいつの硬度は1万だ、鋳鉄を剥ぐくらいわけはない」
俺はくず鉄となった短剣を亜空間ボックスに仕舞い、愛刀の細剣をアリスに手渡した。
「え?これをどうするの?私にくれるの?」
アリスは俺の細剣を両手で握りしめ、重さや握り心地を確かめながら俺にそう聞いてきた。気持ちとしてはプレゼントしてあげてもいいのだが、最近出番は少なくなったとはいえ、その剣は俺の大切な人から頂いた形見の品だ。それに、スペルサーベルでは攻撃を与えられない敵、つまり魔法を全く受け付けない敵に対しては物理攻撃の出来る細剣が必要となる。
「申し訳ないが、それをあげるわけにはいかない。だが、この岩山の中にその剣の素材と同じオリハルコンの原石が眠っているのだ。それを手に入れて、なにか剣を作ってやろうと思っている。そこで、アリスには俺の細剣でそれを掘り出してもらう。丁度、身体も鍛えられるしな」
「え?剣でその鉱石を掘り出すっていうの?つるはしか何かじゃなくて?」
アリスには細剣を手渡したことと、オリハルコンを掘り出せと言った事が繋がらなかったようだ。残念ながらつるはしは持っていない。首を傾けてキョトンとしている。なかなか可愛らしい仕草だが、今はその動作は必要なし。
「それで岩山を砕いて、オリハルコンを掘り出すのだ、切っても突いても好きにすればいい。そいつに傷をつけられるとしたら、ミスリル鋼くらいなだ」
ここでアリスが心配そうな顔をして尋ねてきた。
「あの、気を悪くしないでね。嫌だって言う意味じゃないの。私は魔術師だから剣技が上達するかどうかわからなくて……」
成程、この星の冒険者達を見ていれば確かに役割が細分化されているな。きっと魔術師なら魔法だけ、僧侶なら回復だけしか行っていないのだろう。だが、俺はお前に全てを学んでもらおうと思っている。
「アリス、どのジョブに関しても所詮同じ人がやっているんだ。できないはずはない。それぞれ得手不得手はあるだろうが、それはどんな分野だってそうだろう?どれも出来ないわけじゃなく、より得意なものがあるだけなのだよ。浅く広くではないのだ、広く深くだ。色々な事を組み合わせてより素晴らしい事を行えるようになるんだよ」
俺の細剣を受け取ったアリスは理解してくれたのか、黙って頷いた。そして悪戯っぽく笑いながら「刃こぼれしたって知らないからね」と言いながら力任せに岩山へ突き刺した。
ガキンと鋭い金属音を立てて、細剣は岩の刀身半分ほどめり込んだ。そのまま引き抜いたが、刀身には傷一つ付いていない。
「そんなのじゃあ掘れないぞ。凡そ10メートルは掘り進まないと原石には辿り着けない。洞窟を掘るように切り進むのだ」
持ちなれない細剣に加え、俺がかけた重力魔法がアリスに重くのしかかる。酷なようだが、身体を張ってまで強くなりたいと望んだのは彼女だ。この程度で弱音を吐いている様では、到底強くなれない。アリスは唇を一文字に結び、細剣をギュッと握りしめた。
次にアリスは、岩を切り刻むように細剣を振り下ろした。『ジャリン』という岩がかける音と同時に、10センチメートル程度の岩が崩れ落ちた。
剣の訓練などしたことが無いので、適当に振り回しているだけ。うまく削れることもあれば、全く削れない事もある。髪を振り乱しながら1時間程剣を振り回していると、手に肉刺が出来、苦痛表情を浮かべる。
手に肉刺が出来ると極端に効率が悪くなるので、俺はすぐさま治療のための回復をかける。
3時間もすると、どのように剣を振るとより岩が削れるのかが分かってきたようで、徐々に効率も上がってきた。
「そうだ、そうやって頭を使いながら岩を崩していけ。その内にどうしても切れない岩に出くわすはずだ。それが目的のオリハルコンだよ。それを掘り当てるまで、ここに泊まり込むからな」
色々工夫を凝らしているが、本当の目的は筋力をつけ、体力を上げる事。今は剣を振る型など、どうでもいい話だ。まだまだ先は長いぞ、頑張れ。
俺は一心不乱に剣を振るアリスを見つめた。本当によく頑張っているが、美しい薄緑のローブも土で汚れて、その服装でこんな事をさせたのが少し申し訳なくなる。今度、剣を振ってもおかしくない様な防具を買ってやらないとな。
さて、暫くかかりそうだな。その間に食材でも探してくるか。
「体力が無くなったり肉刺が酷くなればこれを飲め、俺はちょっと出かけて来る」
俺はアリスの近くに小瓶に入った『回復薬』を3つ置いた。
オリハルコンの採掘はアリスに任せて、俺は再び森へ潜った。
いつも読んで下さりありがとうございます。
ここまでで第一章完結です。
次話 番外編になります。