14.討伐依頼
「えっと、強いのと言ったって、ノービスならウッドパペットかスライムの討伐くらいしかないよ?まあ、ノービスならウッドパペットでも強い魔物かもね、うふふ」
ヤックのくせに馬鹿にしやがって。それになんだ、そのいかにも弱そうなやつは……
「他にはないのか?ドラゴンとか、グリフォンとか、災害級の奴とか」
「馬鹿ですか?そんな討伐はCランク以上よ。ノービスがそんなものに挑んだら秒殺よ、びょうさつ。みすみす死ぬのが判っている依頼なんて、許可できるわけないじゃないのさ」
くそぉ、ノービスノービスって……ノービスの評価が低すぎる。ドラゴンであろうと、グリフォンであろうと俺の方がソロで秒殺できるぞ……
ただ、口惜しいが、言われている事は御尤もだ。駆け出しの冒険者に危険な依頼を認めて死なれでもしたら、ギルドが責任を問われることになる。例え自己責任だと言って押し切ろうとしても、システムの不備を問われるだろう。
アリスの生命力を見れば、スライム位なら楽勝で倒せるだろうがそれだと訓練にはならない。どうせなら訓練になりそうなやつを討伐できれば、金も稼げて一石二鳥と思ったのだが……お、それなら
「スライム駆除の依頼を受けて、たまたま強い奴と出くわして倒したというのは違反なのか?」
どうだ、このいい考えは。たまたまならギルドも文句は言えまい。
「ぶっぶー。ノービスは行動できる範囲も限られているのです。ノービスで動ける範囲で出る強い魔物はせいぜいサーベルウルフくらいよ、だからサーベルウルフ以上の素材を持ってきたら、違反をしたって分かるんですぅ」
ヤックは口を尖らせて少し嫌みの混じった表現を使いながら、大きく両手で『×』をつける。くそぉ、既に対策済か。
「ではそのサーベルウルフの討伐を俺は受けられるのか?」
サーベルウルフは俺がこの星に来て初めて会った魔物だ。あいつも弱い奴だったがスライムよりはましだろう。複数を相手にすれば多少はアリスの訓練になる。
「それも、ぶぶーです。サーベルウルフもノービスでは受けられません。Gランクからです」
ヤックは口を尖らせながらまたもや『×』を作りそう言った。ノービスは制限が有りすぎるぞ、まるで小学生の校則の様ではないか。
拙いな、そもそもアリスの訓練以前の問題だ。依頼を受けられなければ金も無くなる、どうすればランキングアップできるのだ?その基準を知れば、効率よく訓練が出来、かつ金も入る。ランキングの高い奴がどれほど優遇されているのかは分からないが、少なくとも依頼受諾に関しては自由度が高まる。
「すまないが教えてくれ。俺はどうすればノービスからGランクに上がれるのだ?」
「そうだねえ、ノービスからGランクに上がるなら……討伐に限定するならだよ?ソロだとスライム100体は倒さないといけないかもね。上位ランク者とパーティを組むならサーベルウルフなら50体くらいかな?」
ヤックは顎に手を乗せ、首を傾げながらそう答えた。
如何にも簡単な内容ではないか。小石で倒せるあいつらを50体倒せばいいだけとは、それにしてもそんな簡単な依頼ですら俺は受けられないとは……気分はトホホだ。
すると、俺のがっくりする様子を見ていたアリスはポンと手を叩いた。
「じゃあ、私がGランクだから、レアと一緒に討伐依頼を受ければサーベルウルフも倒してもいいのよね?」
確かにそれはそうなのだが、師匠として俺が受けられない依頼を弟子に受けて貰わねばならないとは、なんとの情けない……ん?ちょっと待てよ?
「なあ、ヤック。みっともないが、アリスに依頼を受けて貰えるとして、サーベルウルフとはそんなに沢山討伐しても大丈夫なのか?魔物とは言え、たくさん狩りすぎると生態系を狂わせることにはならないのか?それに不思議に感じることは、何故ノービスの行動範囲に強い魔物出てこないのだ?」
その疑問を呈すると、ヤックはその疑問に答えてくれた。それは百科事典に乗っていなかったこの世界の仕組みだ。
この星は裏世界と表世界の二元で成り立っている。今我々が生活している方が表世界だ。もしかすると裏世界の奴らは自分たちの世界を表世界だと言っているかもしれないが、それは置いておこう。
この星には裏世界と表世界を繋ぐ歪が幾つかあり、理屈として交通が出来る。裏世界の奴らはこの表世界をも手に入れようとしているのだ。しかし、裏世界の人間はそもそも生命の仕組みが違う為、彼らにとって猛毒である酸素がある環境では生きていけない。よって、手始めに魔物を作り出し表の人間を根絶やしにしようとしているらしいのだ。魔物には有る特徴があり、裏世界の素材をより多く含んでいる魔物程強いが、歪から遠くへは進めない。つまり、歪からより離れた場所に移動できる奴ほど、弱い魔物なのだ。ギルドはその魔物の特性をランクの制限に利用しているという訳だ。
因みに歪から吹き出す魔素が魔物を作り出しているとの事で、その魔素に直接当てられると人は生きていけない。よって、どんな人物であろうとそこに近づいてはいけない事になっている。
ただし、この話は国の学者が論じているもので、本当の所真実は判っていないのだとか。危険すぎて誰も真実を確かめには行けないのだ。なんていい加減な話だ。
俺にとって疑問に思う事は、この表世界を占領したいのなら、そんな回りくどい事をせずに火を操れる魔物を増やし、草木を焼き払えばどんどん酸素は減っていくと思うのだ。他には歪から遠く離れても活動できる、災害級の魔物を作るとか何らかのことは出来るのではないのか?
それに、表世界のエネルギー源であり魔石を提供する形になっているのは、あまりにもお粗末な感じがするぞ。それを提供しなければ生活レベルも低下して、この世界の防御も大幅に下がると思うのだが。
裏世界の奴らに何か緑を残す理由が有るのか、それとも、人を根絶やしにするというのはあくまでも建前で、他に目的が有るのか……
兎も角、分かっている事は、裏世界の奴らは絶えず魔物を量産しているので尽きることは無い。それよりも魔物を放置すると表世界の生命に危害が加えられるので討伐が必要なのである。しかし、何故か魔物を倒すと表世界に必要な魔石が手に入るのだ。裏世界の意図が判らぬ、ある意味バランスの取れた状態な気がするのは俺だけか?
この世界の人達がそう言う疑問を持たないのも不思議だが、まあ、俺にとってはどうでもいい話だ。たぶん、この世界の人達も今の生活に困っていないので、敢えて何とかしよう等とは考えていないだけであろうな。
「どうしたの?黙って……何か気になる事でもあるの?」
顎に手を当てて考え込んでいる俺に、ヤックは顔を覗き込んできた。
「うわぁ、何事だ。さすがの俺でも急にヤックが視界に入ると驚くぞ!」
「失礼ね。何が流石の俺でもよ。黙っているから心配をしてあげたんじゃないの」
ヤックは腕を組みほっぺたを膨らませながらプンプンしている。
「そんなつもりでは……失礼した。コホン。成程、つまり俺がサーベルウルフを何百体倒しても、問題ないという訳だな」
俺は額の汗を拭い、ヤックに確認を取った。自分が感じた疑問は取り敢えずは封印だ。それと、隣でアリスが「何百体ですって?」って驚いているが気にしない。
「そうね、世界的には問題ないけど、また湧いてくるまで少しは時間を要するから、他の冒険者が少し困ってしまうかもしれないけどね」
「そうか、まあ、それは俺の気にするところではないな。だが、そもそも、その歪とやらを塞いでしまえば、もう危険な魔物は発生しなくなるのではないのか?」
この質問で、ギルドの考えが少しは判るかもしれない。ギルドが魔物を必要としているのかそうでないのかが。そもそも魔物が発生している原因は分かっているわけだから、その元を断ってしまえば安心して生活ができるはずだ。ランキングの高い冒険者も沢山居るのだ、出来ないわけはないだろう。
「だから言ったでしょ、それは無理だって。まだ歪の場所はおぼろげにしか分かっていないし、歪に近い魔物は強すぎるのよ。魔素に当てられると人は死ぬって言われているしね。もう、歪に近い場所では危なくて人間が住めなくなっている程よ、たぶん」
たぶんって、曖昧な話だな。たぶんそれは実力的に無理があるという事だな。だが、それ程までに強い魔物を使役できるのなら、裏世界の奴らは相当の生命力を持っている事になる。その気になればいつでも表世界など亡ぼせるのではないのか?疑問は尽きないが、そいつらの事はおいおい考えるとして、その歪とやらには興味が湧く。惑星イメルダに戻れるヒントが有るかもしれん。その為には先ずはランクアップだ。
「よし分かった。アリス、ありったけのサーベルウルフ討伐依頼を受けてくれ」
いつも読んで下さりありがとうございます。
大量にサーベルウルフが居たらいいのですが……