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12.待つ女

「ちょっと待て、ランクはアリスの方が上だろう。ノービスの俺から教わる事など無いのではないか?むしろ俺はお前に冒険者ワーカーを止めるような方向で、話を進めていたと思うが……」


「あなたはランクなど関係ないと仰いました。私もその通りだと思います。そして、私は私の為に強くなりたい。兄の思いは心の奥底に留めておきます。私が強くなりたいのです、冒険者ワーカーとして……だから、教えてください。私を強くしてください」


 裏目に出た。逆に決意を固めてしまった様だ。その上強くしろだなんて、厄介な依頼まで……アリスはテーブルに頭を着けたまま必死に懇願を続ける。彼女にとって冒険者ワーカーを止めるという選択肢はなかった様だ。亡き兄の為意思を継ぐという気持ちもあるが、何故にそれほどまで執着するのかは判らないが、やはり冒険者ワーカーとして達成したいと、本気で思ったという事なのだろう。


 気持ちは分からいではないが、このシチュエーションはまずくないか?


 こんな人目の多い場所で頭を下げられると、非常に目立つ。ほら見ろ、周りの人が俺たちの方を指さし、ジロジロ見ているではないか。ついつい情け心を出してしまったお陰で厄介な事になってしまった。何故、こうもうまくいかぬ、本当ならここでもう少し料理の余韻に浸りたい所だったが、致し方ない。


 俺は腕を上げ店員を呼び、黙って1万ピネル金貨を渡しそのまま席を立った。二人分の額としても払いすぎだが、それを払うだけの価値のある料理だったし、それ以上この場に居たくはなかったのだ。


 ガタンと言う椅子が下がる音に気付いたアリスが顔を上げると、店員に頭を下げられ店を出て行く俺の姿が目に入ったのだろう。アリスの事など全く気にする事なく店を出て行ったのだが。彼女は慌てて店員に一礼をし、俺の後を追って来た。


 黙って歩いて行く俺の後ろを、アリスもまた無言でついて来たのだ。


◇ ◇ ◇


 どこまで付いて来るの気だ?この娘は……俺の良く先はアリスがパーティを追放されたあのホテルだ。そうか、もしかしたら俺について来ていると勝手に思い込んでいるだけで、たまたま同じところへ泊まっているだけなのかもしれないな。考える事も面倒なので、都合よく解釈する俺。


 黙って付いて来るアリスに声もかけず、ホテルに向かってひたすら歩いた。


 ホテルに到着し、俺は5階の自室へと向かうが相変わらずアリスは付いて来る。


 ほぉ、たまたま同じ階で宿泊とはこんな偶然もあるものなのだな。


 呑気にそんな事を考えていたが、自室の前までアリスは付いて来るのだ。俺の部屋は角部屋なので、その奥には部屋は無い。


 しまった、この娘は俺に付いて来ていたのだ、それに迂闊にも部屋まで知られてしまったぞ。もう少し考えて行動すればよかったと思うが、後の祭りである。


 変な汗が滲み出る。手を出してはいけない奴に手を出してしまったか、ん?いやいやちょっと待て、手を出したなどとはとんでもない、絡まれている所を助けて、更に飯も食わせてやったんだ。よく考えれば、感謝されてお終いって話ではないのか。


 これ以上この娘と関わる必要はない、俺はそう心に決めて部屋へ入り扉を閉めた。冷たい態度を取ればいずれ何処かへ行ってくれるだろう。


 色々あって疲れていた俺は、シャワーを浴び、備え付けのローブを羽織った。サービスで置いてあるワインをグラスに注ぎ、ゆっくりとソファーで寛ぐ。漸く独りの時間を楽しむことが出来るのだ。


 そう言えば、あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()以外衣類を持ってはいなかったな、金も入ったし次の依頼を受ける前に、いくらか替えの衣類を買っておくか。


 その後に、ギルドに行って依頼を受けて、早くランクを上げないとな。また、難易度の高い依頼を受けてヤックを驚かせてやるか、あいつはどうも俺の事を軽く見ている節があるからな。できれば災害級の魔物でも倒して卒倒そっとうさせてやりたいものだが……俺が行けるエリアではそんなものは出てこないか。


 てな事を適当に思う浮かべ、常設されているラジオから流れる聞いたことのない音楽を心地よく感じながら過ごしていると、部屋にあるインターフォンが鳴った。フロントからだ。


 何事だ?明日の朝食についてとか、衣類の洗濯とかそういう事かね?


「部屋の前にお客さんがお見えになっております。必要なら、お出迎えの準備が整うまで応接室にご案内しておきますが、如何でしょうか?」


 何?客だと?俺がここで泊まっている事を知っているとしたらヤックだけだ。……ヤックがここに来るとはとても思えないが……もしかしてあの娘まだ前に居るのか?おいおい、嘘だろう?俺が部屋へ入ってから1時間以上は経過しているぞ。


 折角シャワーを浴びたのに冷や汗が垂れた。


「そ、それは気付かず済まなかった。直ぐに対応する」取り敢えずフロントにそう伝え、俺は大急ぎで入口に向かいドアスコープから表を見ると案の定、あの娘がまだ立っていたのだ。


 だが、ドアスコープを使ったのは俺の失態だった。仮にもアリスは冒険者ワーカーだ、洞察力は一般人以上。彼女はドアスコープからの光が一瞬途切れた事を見逃さず、すかさず扉をノックしたのだ。


 この状況をフロントは知ってしまっている、あれからずっとアリスが扉の前に立っていたとしたら、他の利用客にも彼女の存在は知られているに違いない。たぶん、そのうちの誰かが不審に思いフロントに連絡をしたのだろう。


 致し方ない、このまま放っておいても自ら引き返したりはしないだろう。少々脅しをかけるしかないか。男の部屋へ若い女性がひとりで来るとはどういうことかを教えてやらねば。


 俺は扉を開いた。目の前には思いつめた眼差しと、口を一文字に結んだアリスが立っていた。


「私を強くしてください!」


 いきなり大声で叫んだ。まずい、こんな所で大声を出されると人が集まって来てしまう。くそぉ、敵ながら見事な作戦だ。


 仕方がないので、俺はアリスの手を掴み部屋の中へ引き入れた。


「どういうつもりだ。男の部屋へひとりで付いて来るなど、無警戒にもほどがある」


「私には帰る場所は無い、帰れる場所も無い。強くなるまで帰れない」


 馬鹿なやつ、いくら強くなりたいとは言え、自分を犠牲にしてまで強くなって後悔しないのか。俺は語気を強めた。


「強くなる為ならなんでもするって言ったな。さっきの料理に関して見返りは求めないと言ったが、今からは違う。俺はお前に男として、それなりの見返りを求めるがそれでも強さを望むのか?」


 俺のセリフにアリスは顔を強張らせた。

いつも読んで下さりありがとうございます。

思った以上に気の強いアリスさんです。

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