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10.縁があったのだな

ヒロインの登場?

 アリスの見てくれは10歳代後半の女子だ。150センチメートル程の低身長で細身の色白。長いブロンズの髪を人束ねにして、ブルーの瞳を持ち合わす。華奢きゃしゃで清楚なその感じは冒険者ワーカーとは思えない。大半の人間が彼女を見て綺麗な女性と言うだろうその顔立ちは、男たちを引き寄せるのに十分すぎるほどのパワーを持っている。絶対に職業の選択を間違っているぞ。


 本人からすれば、冒険者ワーカーで生きて行こうと思っているので、そんな力は然程必要とはしていないのだろうが、飢えたハイエナ(男ども)はそれを許そうとはしないのだ。先ほどまでパーティを組んでいた男たちもきっと下心有での勧誘から、思い通りにならない為に方針を切り替えたのだと推測できる。


 それだけ男の目を引きそうな女性が、明確な目的も無くトボトボと歩いていたら、そりゃあゲルダのようなやからに目を点けられても仕方が無いというものだ。腹を減らした肉食獣の中に手負いの草食獣を放り込む様なものだぞ。それでもって、この現場にたまたま居合わせるとは、考えたくはないが、ホテルでのこともあるし、この娘とは何かの縁があるのかもしれない。


 アリスは今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、黙って立っていた。今後の事を考えると、本気で冒険者ワーカーを辞めて別の職に就いた方がいいのではないかと思ってしまう。きっとこの先も同じことを繰り返すに違いない。


 アリスは自分の名前を言った後少し間を取り、話を続けた。


「ギルドの依頼中に私が回復薬を紛失させたために、パーティから追放されたのです。その為に、これまで何度かこなした依頼料も頂けず途方に暮れている所へあの人達が声をかけてきたのです」


 俺は何も言わず黙って頷いた。


「私も隙を見せていたのが悪いのですが、お金も無く何も考えられなくて、この先どうしようかぼーっと考えているとあの人達がやってきて周りを囲まれて、飯を食わせてやるだのなんだの言われて、断るといきなり怒鳴り出して……」


 理由はよく分かった、予想通りだ。ただ、このままダラダラ話を聞いていても仕方がない。危険は去ったし、腹も減ってきた。そろそろこの場を立ち去る事にするか。


 敢えて付け加えるが、俺は女に興味がない訳ではない。ただ、弱っている所に付け込みたくはないのだ。ましてや顔立ちの整っているこの娘だ、周りからそう思われてもおかしくない。ここで手を差し伸べて変な誤解を招いても良くは無いしな、冷たいようだが今の俺には何かをしてやろうという選択肢はないのだ。


「それは運が悪かったな。変な奴に付け込まれない様に気をつけろよ、じゃあな」


 そう言って俺がその場を立ち去ろうとすると、アリスは俺の服の裾を掴んだ。


「あ、足がすくんで動けないんです。ご迷惑をかけているのは分かっているのですが、手を引いて頂けないでしょうか……」


 今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。既に目に涙が貯まっているではないか。それにいくら助けられたとはいえ、初めて会った俺を信用しすぎだ。


 俺は何も言わず黙っていたが、アリスは俺の服の裾を話そうとはしない、そして上目遣いの潤んだ目で俺を見つめてくるのだ。最強の武器を持ってやがる。


 ……くそぉ。そんな顔で見つめられると非常に断りにくい。俺もショボいな。はぁ、相手が俺だからよかったものの、そこいらの男に同じことを言えばどこかに連れ込まれてもおかしくないぞ。やれやれ、また面倒な事になってきた。


 そのまま放っておいてもいいのだが、見てみろ、やじ馬たちが俺たちをジロジロ見ているではないか、やばいな、すべての男性が腹を減らした肉食獣に見えてきた……仕方がない。


「ちょっとそこを開けてくれ」俺は群衆を手で払い除ける仕草をした後、アリスを抱えて急いでその場を立ち去った。


 アリスは「うひゃあ」と驚いていたが、そんな事には構ってはいられぬのだ。


  ◇ ◇ ◇


 先ほどの現場から離れはしたが、アリスを抱いたままで移動をするのはやはり目立つ。アリスも落とされない為に渋々だとは思うが、俺にしっかりしがみついており、傍から見れば仲の良い恋人同士のように見えるはずだ。それはアリスにとって本意ではないだろう。早く解放してやらねば。


 暫く歩いていると、丁度地球で言うところのイタリアン風のレストランを見つけた俺は、そこでアリスを開放する。丁度腹も減ってきたところだ、ここで別れても結局気になって、折角の飯の味も半減しそうだ。金も無いと言っていたので、仕方がない、情けは人の為ならずとも言うので、飯くらい食わせてやるか。


「腹が減っているなら何か食わせてやる。心配するな、おれも腹が減っているので、物のついでだ。特に見返りは求めない、ただ、この先の事は自分で考えるんだ」


 俺はそれだけ言ってレストランに入ると、アリスも付いて来た。人のほどこしを受けるのはプライドが邪魔をして拒否をする人も多い。だが、俺は生死を分ける可能性のある時にはプライドを優先する必要は無いと思っている。そして、その事でその人物を見下したりもしない。何故なら、生きてさえいればその屈辱を返上する機会など、山ほど出てくるからだ。そして、今アリスはその時だと思っている。


 俺が空いている席に座ると、アリスも黙って俺の前に腰を掛け、無言のまま頭を下げた。


 店員が二人分の冷水をテーブルに置き、手に持っているメニューを開き、俺たちの目の前に置いた。文字ばかり書かれたメニューだったが、その文字を読むと俺の頭に刻み込まれている百科事典の画像が浮かび上がる。本当に図書館に行っておいて良かったと痛感した。


 何の料理が有るのかは概ね知ることが出来たのだが、どうしても画像が浮かび上がってこないものがあった。書かれてある文字は『本日のお勧めディナー』だ。浮かび上がる画像を見る限りでは、どれもこれも上品で美味しそうな料理ばかり、それだけにこのレストランのお勧めが気になって仕方がなかった。


 多少値は張るが、金には不自由していない。俺の胃袋がそれを欲しているのだ。


「俺は『本日のお勧めディナー』にしようと思うが、アリスは何か食べたいものは有るか?」


 アリスは首を横に振り「同じものを頂いてもよろしいでしょうか」と答えた。


 俺たちの会話を聞いていた店員は、俺が手渡したメニューを受け取り、紙にサラサラっとオーダーを記載すると、一礼をして下がっていった。余計なお勧め等のセリフも無く、無言で仕事をするここのボーイはとても気品がある。そう言えば、周りを見渡すと身なりの良い客が多い。アリスは美しい薄緑 のローブを身に纏っているので然程違和感はないが、俺の様に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の者などどこにも見当たらない。場違いな感は否めないが、それをとがめないこのレストランは、本当に客を大切にしているのだろう。


「そう言えば、アリスに俺の名前を言っていなかったな。俺の名はブレア・グリーン・シェピスだ。レアと呼んでくれればいい」


 そう言って自己紹介をした時、前菜として生ハムと季節のサラダが綺麗に盛られた料理が運ばれてきた。


いつも読んで下さりありがとうございます。

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