9 試行錯誤
足掻くと決めた私は
目先の2つの目標を決めた。
1つめ
彼、Syoのしっぽを掴むこと
Xを情報源に、彼について確かなる"証拠"を手に入れる。
2つめ
彼女の枠の空気感を変えること
彼女の枠では
"SyoとMaoがペア"
といった空気感が成立していた。
もしかしたら付き合っているのでは?
と噂される程の状況。
私にとって都合が悪い。
まずは流れを変えなければならない。
第1の目標は比較的容易に達成された。
彼のXだけでも十分な情報量、
加えて載せていた本名からInstagramを特定する。
芋ずる式に様々な情報が出てくる。
疑わしき情報の数々
その全てが
"彼女が危険な目に遭う未来"
を想像させる。
ただ唯一
彼にとっての不幸を綴った投稿が、
私にとっての幸運であった。
その投稿には
彼が仕事中の事故によって手に大怪我を負ったこと
が記されていた。
彼の利き手は、少なくとも3ヶ月、正常には機能しない。
人として、医療関係者として、
不謹慎であるのは重々承知していた。
しかし、その事実に
私は喜びすら感じてしまう。
これで、
"リア凸でAちゃんが危険な目に遭うリスク"
が大きく下がる。
もはやリア凸を止めることはできない私
予想だにしないその事実は、
大きな安心材料となった。
そして第2の目標
この達成には、困難が予想された。
1ヶ月近くかけて出来上がっている、枠の形。
定着しつつある物を崩すことは難しい。
当然の事である。
崩せないならば作れば良い。
よりリスナーの興味を引く対抗勢力を。
"るいとMao"
この概念の形成に、私は可能性を見出した。
元々、Maoちゃんが大好きで純粋な女の子、
というキャラ設定の "るい" 。
この仮面があれば、
私の行動への違和感に人々が気づくことはない
ただ、全ての人の心の掌握など、私には不可能。
いや、する必要はない。
ターゲットとして狙ったのは
百合好きのリスナーさんと
Syoさんと関係性の薄いリスナーさん
浮上率も高く、" るい "とも比較的仲が良い。
彼らが堕ちれば
新規リスナーや、低浮上リスナーも同調し始める
そう踏んだ私は、タイミングを見て
過剰な程にコメントに混ぜる。
「るいは、Maoちゃんが大好き!!」
「だから、そこらの男にMaoちゃんは渡さない!!」
リスナーから見れば、
" 友達と仲良い男性に嫉妬しちゃった可愛い女の子 "
" 少し幼く、微笑ましい光景 "
を、ただひたすらに描き続ける。
リスナーの年齢層が高いこのアプリ
人々はネットにおいて日々の癒しを求める。
より微笑ましく可愛らしい光景の方が、
人々の興味を引くことが出来るはず。
ひたすらに描き続けて数日経つ頃には
徐々に "るいとMao" を推すリスナーが増えていった。
そして計画通り、
"Maoちゃんの相手はSyoさんに決まっている"
という風潮は徐々に払拭されていった。
ただ
時の流れは残酷で。
私が奔走する間も時は過ぎていき…
気づけば "その日" を迎えていた。