8 誕プレ
彼女の誕生日が近づくある日
大学の講義が早く終わった私は、
彼女の誕生日プレゼントを買いに来ていた。
事前に本人に希望を聞き、渡すと約束していたもの。
ここ数日、私は彼と彼女について目を逸らしていた、
見ていたくなかった。
正直、彼女に会うのも少し怖かった。
ただ、約束を破るわけには行かない。
プレゼントを買い、彼女にいつ渡せるか、とlineで問う。
彼女からの返信はすぐに来た。
「今日でもいいよw」
すぐに彼女から指定された店に向かう。
変わらない彼女の姿が、そこにはあった。
何気ない日常の会話。いつも通りの空気感
彼女を不快にさせたくない私は、
彼との事について深く聞くことはしなかった。
「気をつけてね、何かあったら私に連絡するんだよ?」
私が彼女に伝えたのはそれだけ。
深く聞くべきであるのは理解していた。
でも、できなかった。
彼女の口から、その答えを聞くことを
その勇気が私にはなかった。
ただひとつ、悪あがきをした。
彼女が希望した誕プレは、洋服
私はプレゼントしたワンピースを、
彼と会う日に着ていくように誘導した。
「私のチョイスだから、Aちゃんに似合うか分からなくてさ」
「私が次会えるの、いつか分からないし、
彩翔さんに、似合っているか聞いて欲しいな。」
本当にただの悪あがき、
何かあった時に、
彼女が ”私” という逃げ先をすぐに思い出せるように
そして、"彼" への、ちょっとした威嚇
「わかった !! 着ていく !! 」
可愛く返答する彼女。
守りきれないかもしれない。
彼女にとっての "幸せ" を
邪魔する結果になるかも知れない。
でも、私は諦めきれないのだから、仕方ない。
彼女が笑顔である未来を信じて
ギリギリまで足掻くことを決心した。