7 演技と暗転
彼女を説得する為にも、
彼に関する情報をどうにかして手に入れたい。
そこで私は、彼とのX(twitter)の交換を試みた。
元々このアプリのためにXアカウントを作っていた私。リスクは低い。
サークルの帰り道、バスの中で彼の配信に入る。
この日、Aちゃんが夜まで用事があることは確認済み。
勿論彼の配信にも来ていない。
第一声、私は"るい"の仮面を被って可愛く彼に話しかける。
「今、電車なの ! 」
「あと15分くらいで着くんだけど、眠すぎるんだ、、( ¯꒳¯ )ᐝ」
「寝過ごしたら怖いなぁ、時間になったら 通話 で起こしてくれない ?? 」
枠のリスナーさんの中には寝るために来ている人もいる。
そんな配信内で大声で私を起こす訳には行かないのは当然のこと。
そして、私が知らない人と個通できる手段は
唯一X(twitter)だけ
Xとアプリは連携してある
"るい"のプロフィールページから誰でも見つけることが出来るはずだ。
彼はXのフォローをしてくるはず。
ただ、私のXはカギアカウント。
フォロー申請を許可しなければ通話はすることが出来ない…
配信に入って15分がすぎた頃
彼からXのフォロー申請が来たことを確認した私は
再びチャットに打ち込む。
「自力で起きれた! ありがとう(*ˊᗜˋ)」
「Syoさん、Xフォロー申請くれたの ?? (∩´∀`)∩ワーイ」
「起こそうとしてくれたの ? 嬉しい⸜( ˶'ᵕ'˶)⸝!」
「私もフォロー返しとくね!」
配信を抜け、さっさとXのフォローを返す。
彼がフォロー申請を許可してくれさえすれば、私の勝利。
自然な形で、彼のXを入手出来る。
Xは使い方によっては個人情報の宝庫
彼の傾向を見るにその可能性が高い。
ひとつ仕事を終えたと安心する私。
再度アプリを開くと
予定が終わったであろう彼女が、夜の配信を開いている。
癒されに行こう、と軽い気持ちで配信に参加する。
ここで私は
"最悪の事実"
を知る事になる。
彼女は嬉しそうに何かについて話していた。
リスナーさんのコメントには
「いいな」
「ずるい」
という文字。
「やほほ!るいだよ!」
いつものお決まりのコメントをする。
普段ならゆっくりと流れるコメントに、挨拶を返してくれるリスナー達、
という構図になるはずが。
何故かこの日はコメントの流れが異様に早かった。
だから、彼女に問いかける。
「Maoちゃ、なんかあったん?」
彼女の口から語られる前に
その返答はリスナーの手によってコメントに打ち込まれた。
「るいちゃん、知らなかったん? 」
「Mao、次の週の日曜日に、Syoさんとリア凸するんだって。」
え、、、、
見間違えではないか
まだ本人の口から聞いた訳では無い、
現実を受け入れられない私。
そんな事を知る由もない彼女は、
嬉しそうな声色で
そして無自覚にも
私に追い討ちをかけてくる。
「Syo くんが、配信機材を譲ってくれるんだって ! 」
「たまたま予定合ったのが誕生日とか、すごい偶然 !!」
次の週の日曜日は彼女の誕生日
Aちゃんが19歳になる日
詳細の決まってしまったそれを止める術を、
私は持ち合わせていなかった。
呆然とする私。
画面を見つめることしか出来ない。
"ピロン"という音と共に画面の上方に通知が表示される。
画面には
" SyoがXのフォロー申請を許可しました "
との表示。
ああ、私の行動は間違っていたのだろうか
ただ目を逸らして居ることが正しいのだろうか
私は、彼女を見捨てるべきなのだろうか
無力で、なのに諦めの悪い自分に、嫌気がさす
私はもうあがくことしか出来ない。
ただただ、
届かない手を彼女に伸ばし続けるのか…