3 アプリと彼と
試験期間を目前に控えたある日、
私の目の届く範囲にいたはずのAちゃんは、新しい配信アプリに参入した。
試験勉強に追われ、目まぐるしくすぎる毎日に奔走していた私。
風の噂で聞くも、その事実を重大なことだと認識できるわけもなく。
気がつけば、彼女がアプリを始めて 1 ヶ月以上が過ぎていた。
春休みが始まり、心の余裕ができた私は、ふとAちゃんのことを思い出した。
思い立ったが吉日と、彼女が参入したというアプリをダウンロードする。
アプリを開くと、アカウントの初期登録に伴うページが表示される。
“ユーザーネームを登録してください”
私がこの世界でどう生きるのか、まだわからない。
だからこそ、
私は中性的な名前を打ち込む
“name るい”
アカウントを作って真っ先に、Aちゃんのアカウントをフォローする。
名前は、Mao。
Aちゃんらしい、見慣れた雰囲気のアカウント
彼女の可愛らしさが失われていない事に、安堵する。
そして画面をスクロールすると、
声劇の録音らしきものが掲載されていた。
『明けない夜も君と共に...Mao×Syo』
内容を聞くと、
まるでカップルかのような、男女二人の会話の録音だった。
"Syo"という私の知らない人物の存在
微かな嫌悪感を彼に抱いた。
嫉妬とは違う、警戒心のようなもの。
A ちゃんの仲良しであるなら、この人の事を否定すべきではない。
ただ、なぜか、
私の勘が警笛を鳴らしている。
だから
私は、 “るい” という仮面をつけることを決意した。
この仮面は私にとっての武器となる。
"るい"
Maoちゃんが大好き過ぎて彼女のファンにも嫉妬しちゃう、
子供っぽく朗らかで可愛い女の子
気を許した相手にはとことん懐く
私の本質からは遠いが、むしろその方が都合良い。
私は“るい”の仮面をつけることで、警戒心を覆い隠した。
そして、彼女の配信に参加した。
彼女にはすでにたくさんのファンがついていた。
多くが大学生かそれ以上。
30 代の方も多いその環境は、私には馴染みのない世界。
年齢層が高い分、その光景は落ち着いたものに見える。
しかし、その静けさは嵐の前兆の様で。
私の目には怪しく映った。
コメントを打つリスナーの面々。
そしてそれに応える A ちゃん。
会話の流れを掴むべく、彼女の声を聞きながらコメントに目を通す。
すると流れるコメントの中に、緑のマークを名前の横に示す人物を見つけた。
“マネージャー Syo”
配信内でも明らかに仲の良さを見せる二人。
周りのリスナーさんも、それを“当たり前の事象”として捉えている現状。
そして極め付けに、彼の名の横のマネージャーの文字。
その瞬間に理解した。
A ちゃんはこの人を信用している、と。
私は、彼を信用できない。
でもその事実は、彼女を苦しめてしまうだろう。
“るい”という仮面をつけてよかった。
今は、彼女が幸せそうに笑っているその事実だけを噛み締めていたいから。
視点→私
登場人物
私=るい
Aちゃん=Mao、彼女
彼=Syo