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警官は安月給だから、ね

 キースはちゃんと理由があってここにいた。

 警察官の彼は夫の殺人未遂で手配されていたアマンダと言う女性を追っていたようであり、そこで私がアマンダだと思って探っていたのだと告白したのだ。


 探るってどこまで?

 私の詐欺行為まで知ってしまっている?

 いえいえ、偽装でもちゃんとした公式書類にしたわ。

 でも?


 私が恐慌に陥った事に気が付いたのか、キースは笑いを収めると姿勢を正し、私へとゆっくりと体の向きを変える。

 さあ追及だと言う風に、笑う前に取っていたポーズだ。


 私を見据え直したマスカットグリーンの瞳はランプの光を受け、宝石のスフェーンそのものように妖しく輝く。


「キース」


「良かったよ。俺は君がどちらなんだと戦々恐々としていたんだ。君が夫殺しのアマンダなのか、失踪人届がされているケルマン商事のお嬢様なのか」


 なんと、私自身も手配されていた。

 グラスを握る手先の感覚を失っていくようだ。


「どちらでも無いわ」


「シエラ。俺は君は素晴らしいと思うよ。普通は偽名を使って逃げるものだ。それが正々堂々本名を使用している。そのせいで俺は混乱してしまったから、君の策略勝ちだったのだろうね」


 確かに偽装結婚のために作った姓は偽名でしかないが、正式に書類となって登録されている名前ならば本名と言えるだろう。私的にはやはり偽名でしか無いので、あまり口にしたくはない探られて困る姓名でもあるが。


「どうして私が偽名を使うと?」


「家出人はそうやって身を隠す」


「家出人では無いわ。私は結婚してますもの。結婚した女は夫の家に行くものでしょう?当たり前のことにどうして偽名なんか使わないといけませんの?」


「では、どうして君の父上は君の失踪届など出したのかな?君の話では親が決めた結婚だったのに、どうして君の父上は君の結婚を知らなかったんだ?」


 キースは世間話をしているように気さくそうに尋ね、私も彼に合わせて出来るだけ無邪気そうにして答える。


「あら、あなたって怖い人ね」


 ここで慌てたって仕方がない。

 彼の今までの私への会話は、全部彼の誘導尋問の一つでもあったのだから。

 そんな糞野郎に今さら取り繕っても意味が無い。

 ならば、私は間違っていないと言い募るだけよ。

 そのためのマーサと行った詐欺行為なのだから。


「シエラ?」


「当たり障りのない適当な事は言うべきでは無いわね。女は一日で恋に落ちる。いいえ、嘘。すぐに寿命が尽きそうな手ごろな人がいたから決行したの。家を出たくて堪らない私はその方と駆け落ち婚をしたのよ。ええ、未成年の結婚など親の許可が必要って言いたいのよね。でもね、結婚してしまえば、私の保護者は夫になるの。教会も役場も認めてくれた正式な結婚よ。ですからあなたは、私の父に伝えてくださいな。娘はあなたの手を離れました。今後は娘の財産をかすめ取ることができない人生を受け入れてください、と」


 ぶふ。


 またキースは吹き出し、今度はテーブルに突っ伏してしまったでは無いか。

 そんな姿勢のせいで、彼の腰が良く見えた。

 パジャマズボンのウェストに銃が差し込まれている、そんな腰の状態がさらに良く見える。

 さあ奪い取れ、というぐらいに。


「おしりに銃を入れるなんて、暴発が怖くないの」


「言い方!ケツに銃を突っ込む変態かよ。ああ、ハハハ。ああ、良く分かった。あの家の経済状態から払えそうもない謝礼を言い出してきておかしいと思ったが、ああ、そういうことか。君こそが富豪だったと」


 再びむっくりと起き上がった男は、三日前の銀行強盗よりも悪辣そうに歪めた顔を私に向けた。


「旦那は生かしとくべきだったな。君はそこを失敗した」


「何をおっしゃっているの?」


「フラロウスという男は存在しない。協力者がいるならば、王都を離れる君だけは夫の殺害は待つべきだった」


「な、なにを言っているのかしら?」


「今は警察官としてここにはいない。俺は今休暇中なんだよ。二週間もない、ね」


 それは、私を見逃すことができると言う意味だろうか。

 キースは腰から銃を引きだすと、それをテーブルの上に置いた。

 彼の右手は銃を置いたそのまま、銃を掴んでいるままだ。


 これは、脅し?


「警官は安月給でね、探偵仕事を個人的に請け負う奴もいるんだよ」


「あなたも?」


「――俺への依頼は、シエラ・ケルマン、いや、今は未亡人シエラ・フラロウスの捜索だ。居場所についての情報は金貨十枚。実家に連れ戻したならば、金貨百枚。さて、俺はどうしたらいいと思う?」


「何もしてくれないことが一番ですけど、お小遣いが必要ならば居場所ぐらいは教えてもよろしくてよ」


「父上からの追手が来た時点で君は逃げ切っている?」


「いいえ。せっかくだからお父様とお話するわ。その場合はお母様の方のお祖父様が定めた遺産管理人様も連れて来て下さると嬉しいわね。夫と結婚した時は急いで逃げなきゃだったから、大叔母の遺産しか動かせなかったの。夫が亡くなった今、やっぱり私には触れない遺産ですけど、私が亡くなった後の相談ぐらいはできますでしょう。私が死んだら、全部王立図書館に寄付します、と」


「その遺言は今日初めて俺にだけ教えてくれたのかな?」

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