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深夜の台所で

 真っ暗な自分の部屋で目覚めた私は、一体何があったのかと考えながら見慣れた自分の部屋を見回した。

 暗闇に目が慣れても真っ暗なままで、そのまま寝直してしまおうと思った。

 寝直して何もなかった、と言う事にしたかったから。


「ああ。無理。誰がベッドに運んだのかは、あいつしかいない。そして、シルクドレスからナイトドレスに着替えさせてくださった方も、絶対に、彼ね。あああ。脱がした理由がお酒に酔って吐いていたから、だったらどうしよう」


 私は口を押さえ、絶対に吐いている、そう感じた。

 なんだか口が胃液臭い。

 そしてすっぱい胃液臭を嗅いだら、無かったはずの吐き気が湧き上がってきた。


「うぷ。水を飲もう。口をゆすごう」


 ベッドから出てガウンを羽織る。

 私はそのままフラフラと歩き出して部屋を出て、しかし音は立てないように慎重に階下にある台所を目指す。そしてしばらくの後に私は台所に辿り着いたが、水をグラスに汲むどころか力尽き、台所のテーブルに手を着いた。


 駄目だ、もう動けない。

 そのまま一番近くにある椅子に腰を下ろすしかない。

 これはお酒のせい?

 ベッドでしっかり眠っていたはずなのに、体が休まっているどころか全力疾走した後ぐらいに重くて怠い、なんて。

 私は呻きながら椅子に座る。


「お酒何てよく飲めるわね。私こそよく飲んじゃったみたいだけど」


「もともと体が受け付けない人もいるんだ。お酒が飲めないことは恥ずかしいことじゃない」


 台所に明かりが灯る。

 ちゃんとランプを持ち歩く人が台所に入って来たのだ。キースはガウンも無くパジャマ姿の裸足で、ぺたぺたと音を立てて床を歩いている。


 今まで彼の足音など気が付かなかった。

 この足音はわざと立てているの?

 一体何のために?


 彼を訝しく見つめていると、彼は丸テーブルの真ん中にランプを置き、そのまま火が落ちているコンロへと向かう。


「足は冷たくないの?って、普通は聞かない?」


「意味わかんない行動する人に行動理由聞いても、結局意味わかんなくない?」


「意味わかんなくないよ。ベベに靴もスリッパも奪われたって答えだもの。同情が貰えるちゃんとした理由だと思うのだけどね」


「それで泥棒さんなそのベベは、一体何をしているの?」


「あいつは俺の靴を抱いて爆睡しているな。ベベは犬の皮を被った猫なんだよ。気が付いていた?」


 ぷふ。

 私は吹き出していた、確かに、と。


「ああ火が落ちちゃってるか。これから湯を沸かして、……沸かすには火を起こす所からか。ここはガスコンロが使える王都じゃないからな」


「あの、私は水かあればいいの。申し訳ないけれどお水を下さる?動けなくて」


「すっきりするミントティを淹れて点数を稼ぎたかったのだけどね」


 なんと、私の為に台所に来ていただけ、とは。

 何て小煩いぐらいに気が回る男なの。


「ええと、ミントの葉を持っていらっしゃるの?それだけで満点よ」


「君は点が甘すぎるな」


 キースはグラスに水を入れて手渡してくれたが、そのグラスの中にはミントの葉が沈んでいた。


「ありがとう。ご迷惑をかけてばかりね」


「いいや。君をベッドに運ぶ仕事は役得の方だな」


 私はグラスの水を啜りながら唸り声をあげる。

 やっぱり、だったのね。

 キースは喉を鳴らす笑い声を立てながら私の横の椅子に腰かけ、テーブルに肘を乗せた腕で頬杖を突いた。


 物凄く親密な感じなんですけど?


「その左肩の怪我はナイフかな?それは旦那が?」


 さすが警察官。

 見てしまった私の左肩の傷跡が気になるのね。


「単刀直入ね。あなたは本当にモテるの?」


「俺はここに二週間もいないんだ。ここにいられる間に結果を出したい。そしてね、外れ結果だろうが君を助けたい。本当は君の夫は生きているんだろう?」


 わあ、すごい。

 単刀直入だし、半分当たって半分外れている。

 私が逃げて来た男は生きているけど、それは夫じゃなく父だ。


「どうして私の夫が生きていると確信なさっているの?亡くなってますわよ」


「そう?家具に頭をぶつけて血塗れでも、人は簡単に死なないんだよ?」


「誰かと間違ってます?本気で殺したかったら、ウィスキーで湿らせた枕で窒息死させますわよ。寝酒に溺れたって言い訳出来ますもの」


 ぶふっ。


 キースは笑い上戸らしい。

 誘惑できそうな親密な姿勢を放棄して、私に背中を向けて椅子の上で二つ折りになって笑い咽ているでは無いか。あの銀行強盗にむけて発砲した銃が腰に刺さっていると、無防備すぎるぐらいに私に見せつけながら。


 女しかいないアイラの家で武装するなんて、彼はどれだけ神経質なのかしら。


「娯楽を与えられたようで良かったわ」


「確かに。君は夫の殺人未遂で指名手配になっているアマンダじゃなかった」


 今度は私こそ咽るところだった。

 水を口に含んでいなくて良かった。

 でも、ごくんと唾を大きく飲み込んでいた。


 だってキースは王都で夫殺しの指名手配犯を追ってる警察で、私がそのアマンダじゃないかって思っていたってことだもの。


 もうすでに私の身辺につて探っていた?

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