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復讐心を心に抱いて、必死に作り笑いしています

ゆっくり更新していきます。

これからどうぞよろしくお願いします。

 私、シエラ・フラロウスは、どうしてこんなことになったのかと、笑いさざめく女の子達に囲まれながら今現在の己の身を嘆いた。

 ついこの間までの私は自由だった。

 いいえ、自由にしたの、ようやく!!


 母方の大叔母からの遺産を受け取れる方法に気が付けば、あとは勢いで行動し、親族が誰もいない領地に逃げて自由になったはずだった。

 それなのに、今の私は、なぜ不自由な寄宿学校に押し込められているのだろう。


 両親に見つかって連れ戻された結果なのではない。

 親族どころか全く赤の他人でしかない、妙に馴れ馴れしい男によって、私は寄宿舎に放り込まれてしまったのだ。


「矯正院と寄宿舎、どちらがいい?」

 ぐぬぬ、だわ。


「シエラ様。今度のお休みは町を案内して差し上げるわ。とっても素敵なレターセットが手に入るお店がございますの」


 私に笑いかけた天使みたいな少女は、アイリーン・ブラン。

 マクガベイル伯爵令嬢である。

 彼女はふわふわの金髪をした青い目の美女であり、その外見を裏切らない、毒気の無い素晴らしき笑顔を私に向けている。


 この人は目も頭も悪いんじゃないの?


 そんな風に善人に対して悪意ばかり抱いてしまうのは、アイリーンが私を今の状況にしたあいつのように人好きのする無邪気さんだからかもしれない。


 いかん、いかん、この伯爵令嬢には罪はない。

 だけど、ああ、私は人混みもお喋りも嫌いなのよ。

 でも、これも仕事だ。

 自殺した女の子に何が起きたのか、それを探れと頼まれたのだから、私は嫌でもやるしかない。

 私が行った詐欺行為を公にされて矯正院に入れられたく無ければ!!


 だけど、十年前の事件なんか、絶対に私が卒業した後だって見つかんないわよ。

 ああ、きっとそれが狙いね。

 こんな仕事を押しつけたあの男は、職務が正義執行者らしいから、私に罰を受けさせるためにこの女学院に放り込んだのだわ!!


 身銭を切ってまで……そこまでする意味が分かんないけど。

 はっ。

 私の持ち金を使っている?

 そんな事をしてたらあいつを殺してやる。


 私はあの男への復讐心を押し隠しながら、アイリーンにむけて笑みを作った。

 顔にピシってヒビが入った感じ。

 すでにヒビは入っているけどね。

 額の右側と顎の左下に、猫のひっかき傷みたいな古傷があるのだ。

 大昔の事故の名残で、私は傷跡にそれほど頓着はしていないが、周囲がこの傷に対して同情や嘲りを見せるのにはうんざりしている。


 だから尚更私は一人でいたいのかも。

 それなのに、あの男のせいで。


「シエラ様には我がお茶会に参加していただけて嬉しいですわ。ガールベイン侯爵様と縁続きでいらっしゃるなんて。失礼はないかずっとドキドキですのよ。ですからもっと気兼ねなくお付き合いできるように親しくなりたいの」


 無邪気そうでもやはり伯爵令嬢、ちゃんと計算高い。

 令嬢たるもの、いいえ、私が属する紳士階級どころか、一般庶民だって、自分の家よりも条件の良い家の男性と結婚する事を望んでいる。

 ならば、伯爵よりも上の侯爵家に興味を示すのは当たり前だ。


 そして私がいるここは敵地と言って良いだろう。

 私こそアイリーン達のお茶会に招かれた新参者。

 学園の女王様として持て囃されている人に、出会った初日から不興を買う必要は無いでしょうと私は自分を諫める。


「光栄ですわ。アイリーン様」


「では、週末は」

「あら、アイリーン様。人が沢山いる場所はシエラ様のご負担では?私達は人様のお顔について何も申しませんが、市井の庶民は人の礼儀など知りません。シエラ様が見世物になってしまうと思いますの」


 あなたとおしゃべりする方が負担だって殆どの方が思っているわよ。

 そう言ったら簡単に泣くなと思うと、私は腹など立たなかった。

 ウザイな、と思うけれども。

 マーガレット・キャシディは普通の茶色い髪でも瞳が水色で、人形のような可愛い少女である。けど、底意地は凄く悪いようね。


「まあ!!マーガレット様ったら良く気が付かれましたわね。そうね!!ではわたくしの帽子をシエラ様に差し上げますわ。お気遣いはいりませんのよ。つばも大きくて首元で縛るリボンがそれはもう太くて、顔が全部隠れてしまう不格好な帽子ですもの。でも、どうしても買わなきゃって思いましたのよ。それは、この為でしたのね!!可哀想な学友を救って差し上げるためのお道具になると、神様からのご啓示でしたのね!!」


 やはり人形みたいに可愛らしいピンクブロンドの巻き毛に菫色の瞳をしたプリシア・モーリが、まるで一桁の子供のような声を無邪気にあげた。


 悪気が無かったら本気の馬鹿で、悪気があったらかなりねじ曲がった性格ね。

 そう言ってやりたい。


 しかし我慢だ、と何度目かの台詞を自分に言い聞かせる。

 私はあの男にされた頼まれごとで学園にいるのであり、その頼まれごとを完遂出来ねば学園を出ることは叶わない身でしょうと。


「君の実家に君を連れ帰るのもいいね。あ、その場合は、君の財産の監督権は君のお父さんに戻るのかな?」


 この学校にいる間に、毒薬を手に入れる方法を探ろう。

 あの男を殺さねば私の自由はないもの。

 ふふ、十年前の事件の真相を探るよりも楽そうね、そうしよう。

 あるいは?


「皆様お優しいのね。ええ、喜んで次のお休みはご一緒させていただきたいわ」


 週末のお出掛け日は報告日でもあるからあいつがいる。

 私をこんな目に遭わせているあいつに、この彼女達をけしかけてやるわ。

 私と出会ったあの日を、彼にこそ後悔させてやる。

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