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第6話 山奥の里 戦士ギルドでの勘違い

 山奥の里へと到着したのは、翌日の夕暮れ近くだった。樹齢数千年を超える大きく太い木々の枝葉が天井を作った、さながら緑のドームの中に里の人々の暮らしはあった。

 

「ただいま」

「おおっ、ゴリウスさん! おかえりなさい」


 守衛が俺を認めるや、門を開いてくれる。

 

「いやぁ、祭りに間に合ってよかったですね」

「……うむ」

 

 俺は微妙な返事を返すほかなかった。なぜなら、この近辺にくるまで完全に祭りの存在を忘れていたからだ。

 

 ……しまったな。2キロメートルほど前から賑やかな様子が聞こえてきて、それでようやく気がづくとはな。少し、マズいぞ……。

 

 門をくぐりぬけると、歌えや踊れやの様子の住民たちがあちこちを行き交っている。


「……祭りですか?」

「ああ。実は今日からこの里は年に一度の祭りが始まっているんだ」

「すごいですね、みんな楽しそう……」

 

 キキョウを始めとして姉妹たちは驚いたような、興味津々な様子で里中のようすを見渡していた。

 

 ……まあ、確かに派手だよな。山奥の里の祭りは。

 

 道を埋め尽くすほどの露店の数々、家々にも目立つ飾り付けがされていて、店はほとんど全てが閉じられている。子供たちがキャッキャと走り回っているのはもちろん、大人もまだ陽がある内から酒を片手に乾杯して回っていた。

 

「物珍しい気持ちも分かるが……ちょっと急ぐぞ」

「え? は、はい」


 俺たちは荷馬車を降りると、人混みではぐれないように注意しつつ里の【戦士ギルド】へと向かった。戦士ギルドとは俺のような武器を持ちモンスターを討伐することを職業とする戦士たちが依頼や報酬を受け取ったり、他の戦士たちと交流を深める場所だ。

  

「あら、ゴリウス様! お帰りなさい!」


 中に入ると、なじみの受付嬢が俺に気が付いて陽気な笑みを浮かべた。

 

「どうしたんですかそんなに急いで」

「ちょっとな、【アザレア】はまだ里にいるか……?」

「あははっ、彼女なら例年通り昨日のうちに討伐依頼を受けて里を出てますよ」

「帰ってくるのは……?」

「毒沼の里まで行ってますから……1カ月は先じゃないですかねぇ」


 アザレア。それは俺が頼りにしようとしていたこの里で最も強い女性の戦士の名だ。しかし彼女は大の【祭り嫌い】で、この時期になると必ず長期の討伐依頼を受けて里を出てしまう。

 

 ……なんとタイミングの悪い!

 

 ツテが他に無いわけではないが、三姉妹たちに追手が来る可能性を考えて任せられる女性戦士の数は限られる。それに、祭りの間はみんなほとんどが仕事を休みにして家族や恋人、友人たちと遊び回るのだ。話をしに行きたくてもなかなか捕まらないだろう。


「でぇ、私からもちょっと訊きたいんですがゴリウス様ぁ……」


 受付嬢が肩を竦めつつ、突然ニヤリと探るような笑みを浮かべて俺に顔を近づけてくる。

 

「もしかしてそちらのお嬢さん方ってぇ……アレですか?」

「はっ? なにを突然……ウッ⁉」


 強烈な【酒臭さ】が俺の鼻腔を襲う。よく見れば、受付嬢の目は据わっている。その手には木製ジョッキ。

 

「お前、酒飲んでただろ! さっきからヤケにテンションが高いと思っていたが……」

「だってぇ、お祭りですし……」

「お前は仕事中だろうっ?」

「うるさーい、そんなことよりっ!」


 びしっと。受付嬢は俺に指を突き付けてくる。

 

「後ろのその女の子たちは、ズバリ! この里の三大ミステリーのひとつ、ゴリウス様の【3人の姪御さん】ですねっ⁉」

「……えっ?」


 一瞬、何のことか分からなかったが……すぐに合点がいく。

 

 ……3人の姪って、俺がいつも可愛いお人形などを買う時に使っていた方便か!

 

「ち、違う違う。確かにこの子たちは三姉妹だが……」

「ほらぁっ! 三姉妹だって! じゃあ姪御さんで確定だ!」


 俺が否定するも、酔った受付嬢には通じない。

 

「謎解明~! ようこそ姪御さん、私たちの里へ~~~っ! ヒューッ!」

 

 あっという間にキキョウたち三姉妹が俺の姪という扱いになってしまう。俺たちの会話を周りで遠巻きに聞きながら酒を飲んでいた人たちも、


「ほぅ、アレがウワサの」「ゴリウスさんがたいそう可愛がっているとかいう」「へぇ、それにしても似てないねぇ」「べっぴん揃いの姉妹だこと」


 などと、酒による酩酊感と祭りの高揚感のせいで、事実の裏付けなくどんどんとウワサを広げていってしまう。三姉妹たちに、どんどんと好奇の視線が寄せられていく。

 

「ゴ、ゴリウス様……? なんでかみなさん、私たちを見て……」

「話せば長いような短いような……とにかくいったんここを離れよう」


 首を傾げる三姉妹たちを連れ、俺は早足でギルドを後にする。

 

「すまない、少々アテが外れてしまった」

「いえ、そんなことは……」

「日も暮れてしまったな……。とりあえず今日をしのぐ場所だが……俺の家でもいいだろうか」

「あ、はいっ……」


 キキョウが少し身構えたような反応をする。それも仕方ない。年頃の女性が男性の家に訪れることの危険が分からない歳でもないだろう。

 

 ……だからこそ、俺も女性の戦士の家をアテにしていたワケだが。

 

「すまない。宿も祭りの時期は常に満室でな。あとこれが弁解になるかは分からないが、ちゃんとウチにも客室はあるんだ。俺はなるべくそこから離れた場所にいるようにするから」

「い、いえ! こちらこそお気を遣わせてしまいすみません。よろしくお願いします」


 キキョウとは少し互いにギクシャクとしながらも、俺は三姉妹を連れて家に向かうことにした。




【NEXT >> 第7話 趣味バレ】

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