第4話 三女 スズシロ
三姉妹たちを荷馬車の荷台へと乗せると、やはり相当疲れていたのだろう、ぐっすりと深い眠りについた。俺はそんな三姉妹たちに毛布をかけ、空を見上げていた。
……姉妹、か。懐かしい。俺のふたりの姉を思い出す。彼女たちもまた互いに良く助け合う、とても仲のいい姉妹だった。
そんな思い出に浸っていると、昼過ぎ。毛布がゴソゴソと動いた。
「んむぅ……」
姉妹の中で一番幼い、3、4歳くらいの外見をした三女が目を覚ましたようだった。
「やあ、おはよう」
「……ん」
三女は、どこか居心地悪そうに肩を縮めさせている。
……まあ、そりゃなぁ。これくらいの子供が知らん大人とふたり、なんて当然イヤだろう。それに俺は人一倍ガタイもあるし、怖いんじゃなかろうか。
俺はなるべく不安を与えないように、表情筋を緩めようとする。
……こうかな? ニカッ!
「うぅ……」
……あ、顔を引きつらせてるな。ダメっぽいぞ? こうなったら地道に会話で信頼関係を築いていくしかないな。
「えっと……そうだ、お名前を教えてもらっていいかい?」
「……スズシロ」
「スズシロちゃんか。いい名前だね」
「でもね、ねぇねーたちはスズってゆう」
「そうなのか。そちらも可愛い呼び方だね。おじさんもスズちゃんって呼んでいいかな?」
まだ不安げではあったが、しかしスズシロはコクリと頷いてくれた。
「ありがとう、スズちゃん。おじさんはゴリウスって名前なんだ」
「ごーうす?」
「……うん、まあそんな感じ」
舌足らずな発音が歳相応、って感じだ。まあ可愛いから訂正はいれない。
……さて、ここまでは順調だ。そしてここからが問題だ。
俺には圧倒的に子供との会話経験が不足していた。だいたいの子供は俺と目が合うと親の背中に隠れていたから、自己紹介より先は何を話したらいいのか、このくらいの子はどこまでなら会話が成立するのかが分かっていない。
……なにか、参考になる過去の体験はないものか。子供を退屈させないなにか……。
「あ」
俺はそこで懐かしい記憶に思い至る。手荷物を引っ張ってくると、その中から樹海の里で貰った【着せ替え人形】を取り出した。
「わぁ……!」
お人形を見るやいなや、スズシロの目が輝いた。どうやらこういったものは好きなようだ。
「スズちゃん、どうだろう、このお人形さんと遊んでくれないかい?」
「うんっ!」
「そうか、よかった」
俺が人形を手渡すと、スズシロはまるでその手に宝石でも持っているかのようにまんまるな目を釘付けにした。
「まずはお名前を付けてあげたらどうだろう?」
「おなまえ……ミーたん」
……ネコみたいだな、とかは思わない。
「ミーたんは何歳くらいなんだろうか」
「んとねぇ……3! それでねぇ、スズの妹なの!」
「そうか。それじゃあスズちゃんはお姉さんなんだな」
「そうっ!」
それからスズシロは自分の世界に入って、ミーたんにしゃべりかけたり、おままごとで遊んだりをしていた。たまに俺も巻き込まれて(すごいお父さんという役だった)スズシロの相手をする。
……懐かしいな。俺も子供の頃は姉たちにこうやって遊んでもらっていた記憶があった。
スズシロが子供らしい無邪気な笑みを浮かべたことに安心し、そのまましばらく付き合っていると。
「う、うぅん……」
陽射しの傾きかけた頃、長女と次女も目覚めたようだった。
「こ、ここは……?」
「戸惑うのも無理はない。ただ、そろそろ夕暮れどきだ。野営の準備をしながら説明しよう」
混乱していそうな長女に対して言うと、俺は荷馬車の御者に言って、馬を止めてもらった。
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