第37話 幸せな日常
──飛竜種。
それはこの世界における圧倒的捕食者に位置する種類のモンスターであり、そして人類にとっての最大の天敵である。
「うわぁぁぁッ! 誰か助けてぇぇぇッ!」
今もなお、その脅威は衰えることを知らない。馬車に乗った行商が逃げるその交易路を根城にしていたのは飛竜種の王。ドラゴンだ。
〔グガァァァッ!〕
ドラゴンの爪がきらめいた。誰も勝てはしないその存在に、人々はエサになるか隠れ生きるかの二択しかない。
「いやだっ! いやだぁぁぁ!」
この行商は見つかってしまった。それが意味するところは100%の死。そのハズだった。だが、それはついこの間までのことに過ぎない。
「はぁッ!」
その場に駆けつけた俺は、自身の体長ほどあるハンマーを背負って、御者とドラゴンの間へと飛び出した。
「フンヌゥッ!」
ハンマーをドラゴンの顔面へ叩きつけると大きな赤い光が瞬いた。轟音と共に、ドラゴンの体は地面へと叩き伏せられて動かなくなる。
「ふぅ、間一髪だったな。ケガはないか?」
「あ……あなたはっ!」
荷馬車の荷台に着地した俺が口を開くと、突然のことにポカンとしていた御者の表情がみるみるうちに色を取り戻していく。
「【世界最強】の戦士、ゴリウス・マッスラー様ですねっ⁉」
「……違……ああいや、合ってはいるんだが、世界最強というのは俺が言っているワケじゃ」
「ドラゴンを倒せる方など他にはおりません! 分かっていますとも! ありがとうございます! 助けてくださり、本当にありがとうございます!」
行商はやはり、お礼ができなければ商人の名折れだとか何とかで、自分の荷物を拡げて俺に見せた。
「どうぞ、この中からどれでも好きなだけ!」
「わ、悪いな……まあでもどうしてもと言ってくれるなら。そうだな……これを」
「え? この着せ替え人形を……ですか?」
「ああ」
首を傾げる行商人へと、俺は笑って返す。
「可愛いお人形が好きなんだ。俺も、俺の家族もな」
* * *
山奥の里、そこからはすっかりドラゴンによる被害の爪痕は消え去った。時間はすでに夕方。平和を取り戻した里内はあちこちの住宅から漂う夕食の香りに溢れていて、つい俺のお腹も鳴ってしまう。自宅へ戻る足が速くなる。
「ただいま」
「おかえりなさいっ!」
俺がドアを開けるやいなや、リビングにいた三姉妹たちが出迎えてくれた。ダイニングテーブルには4人分のお皿が出そろっている。
「お仕事お疲れ様、ゴリウスさんっ!」
「ああ。夕ご飯、食べずに待っていてくれたのか?」
「うんっ! もうそろそろ帰ってくるかなって。ね?」
セリが言うと、スズシロがコクコク頷いた。
「きょうねぇ、スズもおてつだいしたの!」
「お料理をか?」
「うんっ! あのねぇ、お砂糖とお塩と、あとぎゅーにゅーはスズが入れたんだよ。だからいっしょに食べたかったの!」
「……そうか。それは楽しみだ。今日はクリームシチューなんだな」
顔を上げると、キキョウが微笑みながら頷いた。
「ゴリウスさん、お好きでしょう?」
「ああ。大好物だ」
「もう出来上がっていますから、いつでも食べられますよ」
「ありがとう。すぐに食べよう」
俺は部屋に荷物を置いて、着替えて、そうして食卓に着く。
「では、いただきます」
「いっただきまーす! おっきいパン、ゲット!」
「あっ、セリちゃん! そのパン、スズの!」
「いただきます。こら、ふたりとも! お行儀悪いわよっ!」
なにげない日常。しかし俺にとってはかけがえのない日常が今日もまたマッスラー家に繰り広げられる。
俺はそれが、とても幸せでならないのだった。
~FIN~
以上で完結です!
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