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第3話 三姉妹の保護

「なっ、なにを……!」

「不快だ。失せろ」


 そう言って体を押すと、スレイヴン商会の男はよろめいて尻もちを着いた。


「くっ……テメー、俺たちを力で脅かそうったってそうはいかないぜっ?」

「ほう?」

「テメーのことは知ってんだよ、有名人。この先の里の【人類最強】とか呼ばれてる戦士だろっ?」


 ニヤリ、と。その男は口端を吊り上げる。


「テメーの里の戦士ギルドにうちの【谷底の里】の戦士ギルドから正式に抗議してやる! お前らのトコの戦士から不当な暴力を受けたってな!」


 男は勝ち誇ったように言った。余裕の表情を見るに、どうやらハッタリではないらしい。スレイヴン商会という名は確かに商売に疎い俺でも聞いたことがあったし、ギルドへの影響力は強いのだろう。だが、しかし。


「なら、問題はないな。俺は暴力なんて振るわないし」


 俺はハンマーを置くと、後ろを振り向いた。

 

「失礼する」

「えっ……きゃあっ⁉」

 

 俺は両手で後ろの三姉妹を抱えて、立ち上がった。


「さて、帰るか」

「オ──オイオイオイ⁉ 待てッ!」


 スレイヴン商会の男たちが一斉に騒ぎ出す。


「俺たちの奴隷を持ってどこに行こうとしてんだッ⁉」

「お前たちの奴隷? そんなものがどこにいる? 契約書を持ってこい」

「なっ……」

「無いならこの子たちを俺がどこへ運ぼうと俺の自由だ……この子たちさえ嫌がらなければな」


 抱えられた腕の中の姉妹たちから嫌がる様子もない。であれば、なんの問題もない。


「屁理屈を言いやがって……! テメーがその気ならよぉ!」


 スレイヴン商会の男たちが剣を振りかぶった。

 

「背中がガラ空きだぜ【人類最強】! 俺たちが人を殺せない善人にでも見えたかぁッ⁉」


 5人が一斉に俺の背中めがけて剣を振り下ろしてくる。

 

 ──バキィンッ! という音を響かせて、俺の背中を斬りつけた5本の剣がへし折れた。


「……はぁッ⁉」

「オイ、服が斬れてしまったじゃないか」

「て、鉄製の剣だぞっ⁉」

「だからどうした。俺の筋肉の方が硬い。さて、それにしてもだ」


 俺はゆっくりと姉妹たちを地面に下ろすと、改めて男たちを振り向いた。

 

「確かに俺たちギルドに所属する戦士から一般人へと暴力を振るったら大きな問題になるだろう……だがな、正当防衛に関してはまったく別の話だ」

「なっ……⁉」

「お前たちは俺を剣で斬りつけた。その証拠もここにそろっている。ならば、覚悟はできているんだろうな……?」

「ヒッ……!」


 ベキバキと指を鳴らす俺に、5人の男たちは息を飲んで後ずさる。


「くっ、クソ! 覚えてやがれッ!」


 コテコテな悪党ならではのセリフを残し、男たちは走り去っていく。

 

「まったく、乱暴なヤツらだったな」


 追いかけはしない。別にヤツらを痛めつけるのが目的ではなかったし、正当防衛と銘打ったところで実際に俺が実力行使に出ればいろいろと厄介な問題が起こってしまうだろう。里に迷惑をかけるのは本意ではない。


「お、お姉ちゃん!」

「どうしたっ⁉」


 悲鳴のような声が聞こえ、弾かれたように後ろを向く。長女が座り込んで、ぐったりとしていた。


「なんだ、なにがあったっ?」

「お、お姉ちゃんが……急に倒れてっ」


 今にも崩れ落ちそうなその姉の体を支えているのは次女と思しき11、2歳の女の子だった。突然のことに顔を青くしている……いや、その顔にはもともと疲労の色が濃いようだ。やつれてすらいる。そして、いま座り込んでいる長女の顔も同様だ。

 

「もしかして、寝ていないのか?」


 次女へと問いかけると、コクリと頷いた。

 

 ……やはりか。谷底の里からいま居るここまで、幼い三女を連れて来るには1日以上はかかるはずだからな。長女は時に三女を背負いながら、夜を徹して逃げてきたのだろう。そして先ほどのトラブルで体が限界を迎えた、というわけだ。

 

「君たち、荷馬車に乗りなさい。向こうで待たせてあるんだ」


 次女と、まだ幼い三女が不安げなまなざしで見上げてくるので、俺はふたりに対してなるべく優しい声音を心がける。

 

「この交易路を逃げてきたということは山奥の里へと向かう途中だったんだろう? 俺は山奥の里の戦士でな、ちょうど向かう先が同じだ」

「は、はい……いいんですか?」

「ああ。君たちはまず、しっかり休むべきだ」


 次女は少し悩んでいたようだが、すぐに力強く頷いてくれた。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「うん。それじゃあ行こうか」


 俺はぐったりとしている長女を片手に抱えると、妹の手を引く次女と共に歩き出した。




【NEXT >> 第4話 三女 スズシロ】

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