第9章|弱肉強食の世界 <10>栗栖さんの病室
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「ああ、足立さん……いらっしゃい……」
病棟ナースに案内してもらい、病室のドアをノックすると、栗栖さんがベッドからゆっくりと起き上がる気配がした。
(うわ……すっごい広い病室……)
栗栖さんが入院している部屋は、応接用の机と四人掛けの椅子が付いている、広い個室だった。
「足立さん。お忙しいところお越しいただき、ありがとう……ウッ」
「こんにちは。あ、どうぞご無理をなさらないでください。そのままで大丈夫ですので……」
来客に合わせて準備してくれたのだろうか。薄化粧に淡くリップを引いて、ベッドから起き上がって迎えようとしてくれた様子の栗栖さんだったが、ゆっくり動いて手を支えにしないと、上半身を起こすのさえつらそうな様子だった。
表情にも初対面の時ほどのエネルギーは感じられず、口の端をきゅっと上げた、ぎこちない笑顔だった。
「あら……ごめんなさいね。情けないわ」
「そんなことありません。お加減はいかがですか」
栗栖さんは、先週末自宅に居る時、突然言いようのない不安感と動悸、めまいに襲われて、立っていられなくなったそうだ。そのうちひどい頭痛がしてきて、何か重大な病気ではないかと思い、救急要請をした……。
当初はその症状から脳血管疾患を疑われて、頭部CTとMRIを撮影したものの、異常なし。他の検査結果も問題なく、医師からは『過労によるストレスが最も考えられる』、と言われたそうだ。
「江鳩が仕事を抜けるかもしれないからと、張り切って無理をしてしまったのがいけなかったかしら……。体力には自信があったんだけど。それともやっぱり、年かしらね」
鈴木先生や緒方先生からは、栗栖さんの状態が安定するまでは、あまり業務の話をしないよう言われていた。私は、手土産のお花を取り出した。
「これ、緒方先生からです」
「まぁ、綺麗ねぇ……ありがとうございます。足立さん申し訳ないけれど、そのテーブルの上に、おいて頂けるかしら」
「はい」
緒方先生に渡されたとき、ずいぶん大きいなと思ったフラワーアレンジメントは、広い特別個室にはちょうどいいサイズ感だった。
「それでちょっと……そちらのイスを、こっちに持ってきてちょうだい。画面を見るとめまいがするからテレビもパソコンも見れないし、話し相手がいなくて、私、暇しちゃってるのよ。
さ、どうぞ、お掛けになって。おしゃべりしましょう」
「あ……、はい」
恐縮しながら、腰掛けた。
「足立さんは、看護師になって何年目? 」
……そんな調子で、身の上話がはじまった。




