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第9章|弱肉強食の世界 <2>江鳩さん面談 2回目 弱肉……強食?

<2>


1ページずつ、写真集をじっと見ている江鳩さんに、声をかけた。


「私の地元って、田舎だから、この写真ほど綺麗には見えないけど、夜はたくさん、星が見えるんですよ」


「へぇ。足立さんは、どちらのご出身ですか」


「北海道の日高というところです」


「あー。馬産地で有名なところかな」


「はい。うちの家族も、私以外はみんな、馬を育てる仕事をしているんですよ」


「そうですか……そんな暮らしも、いいなぁ」


「江鳩さん、星、お好きですか」


「ええ。僕はもともと、天文学者になりたかったんです」


「だいぶ、今のお仕事とは違いますね」


「ははは。僕、理数系教科がそれほど得意じゃなくて。天文学者として食っていける自信もなかったし。一浪して大学に入り、一般企業に就職しました」


「江鳩さんは、『ジュリー・マリー・キャピタル』には、キャリア採用で入られたんですよね」


「ええ……。最初に入った会社で、なかなか上に上がれなくて。僕、そんなに仕事ができるほうじゃないんです。学歴も同期と比べてパッとしなかったし、コミュニケーションも得意じゃなくて。前職は外資系の会社だったので、仕事ができて昇進する人以外は、転職して出ていくというか……いられない雰囲気になるというか……」


江鳩さんは、そんなに“デキる社員”じゃなかったのかな??


ちょっと後ろ向きの話になっているから……話題を変えてみよう。



「『ジュリー・マリー・キャピタル』って、会社を売買されているんですよね。スケールが大きすぎて、私、そんな世界があるのか~って、ビックリしました」


「そうですか……。でも、さほど特別なことでもないですよ。足立さん、ビジネスのモデルって、実はそんなに数多くないんです。例えば、販売モデル、マッチングモデル、広告モデル、サブスクモデル……」


「えっ? 」


「日高は、競馬で走る、競走馬の産地として有名ですよね。ご家族も競走馬関連ですか? 」


「そうです。うちの両親と弟は、競走馬の育成をする『育成牧場』で働いてます。生まれたばかりの仔馬を育てながら、人に慣らす訓練、走る訓練なんかをします。もっと本格的な競走馬としての調教は、また別の、トレーニングセンター、っていうところでやるんですけど」


「じゃあ、うちの会社と、やっているビジネスは、ますますよく似ていますね」


「そう……ですか? 全然、似ても似つかないような」


「似ていますよ。足立さんのご両親は、よく走りそうな仔馬の赤ちゃんを見つけて、預かり、育てる。いい感じに成長したら、欲しい馬主さんに売る。そんなイメージですよね。僕たちは、儲けが出そうな会社を探してきて、経営権を買い取って、育てる。それを別の人に売って、お金を頂く」



「あ……確かに」



「僕らの強みは、例えるなら、いかにポテンシャルのある仔馬を探してくるかという目利き、そして、どうやって育てれば強く速い馬になるかという、ノウハウを持っている、ということです。

まぁ、『ジュリー・マリー・キャピタル』が投資をするのは、若いベンチャー企業だけではなくて、むしろ、伝統のある老舗で、経営がうまくいっていない……っていう会社を扱うこともありますけどね」


「江鳩さんの説明、すごく分かりやすいですね! 」


「ありがとうございます。……でもねぇ……まぁ、全てが思い通りにはいかないです。ごくまれに、『ユニコーン企業』と呼ばれるような、名馬に大化けする会社を見つけられることもありますが、とうぜん、仔馬の中には、期待通りに成長できないものも、混じっているわけです。むしろ大半は、そういう馬ですから、いくら慎重に選んでも、ハズレを引くこともあります」


「あの……じゃあ、今、江鳩さんがご担当されている、バイオベンチャーの『X社』は……」


「残念ながら、イグジット期限までに、“売れる会社”に成長させられるかというと……。見込みは厳しいと思います」


「そうなんですか……」


「僕の実力が足りないから、こうなってしまったんですよ。会社には損害を与えてしまいそうだし、気が重くて……」



江鳩さんがうつむいた。



江鳩さんが不調になってしまった原因は、仕事がうまくいっていないことなのかな……



なんと言って慰めたらいいか思いつかず、私もしばらく黙っていたら、江鳩さんが言った。



「……足立さん。おそらく育成牧場でも、売れ残ってしまう馬もいるはずですよね? そういう馬って、最後はどうなるんですか」



「えーと、それは……色んなセールに出したり、地方競馬関連や、知り合いなんかに、買い取ってもらえないか頼んだりしますね。でも、2歳をしばらく過ぎてもずっと売れ残ってしまうと……」

生まれたての仔馬の時期から愛情を込めて育てていた馬が、処分されると決まった時、牧場のメンバーは皆、悲しい気分になる。

可愛がっていた馬が処分される日の両親の顔を、ふと思い出した。

「残念ではあるんですが、売れなかった子は、研究実験用の馬になったりとか、馬肉として、動物園にいる肉食動物の餌にされたりとか……処分、されちゃいます……」



それを聞いて、江鳩さんが悲しい目をする。



「そうかぁ。やっぱり、そういうものですよね。経済って、どこまで行っても、弱肉強食の世界なんだよなぁ…………そうだよなぁ……弱いものの肉は……強いものが食う…………ブツブツ……」



江鳩さんは、弱肉強食……と、繰り返しつぶやいた。


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