第1章|無職の女 足立里菜 <5>都営新宿線その4
<5>
何人か男の人が手伝ってくれて、電車内で倒れていた患者の意識がない巨体を、無事に市ヶ谷駅のホームに引きずり下ろすことができた。
お客さんの誰かが、車内の非常通報ボタンも押してくれていたみたいだ。電車はいつもより長くホームに停まっていた。
「意識はないけど、呼吸と血液循環は保たれてる。まだ救命できそうね。あ、そこのあなた、駅員に声をかけてきてください」
女医は自らのスマートフォンで119番通報をしながら、周囲の人間に的確な指示を出していた。その電話が終わる頃、真剣な顔をした制服姿の駅員が、走って駆け付けてくる。
心臓の鼓動が、バクバク鳴っている。私は立っていられなくて、溜め息をつきながら、駅のホームに直接へたり込んだ。
「ねぇ、あなた」女医が声をかけてきた。
「よく気づいたわね。医療職?」
「あ、はい、看護師です……一応」
一応、という言葉が無意識に口をついて出たときに、自分の身の上を思い出した。卑屈な感情が胸に広がる。それと同時に、両耳のワイヤレスイヤフォンを失くしてしまったことに気づいた。……ああ、またやっちゃった。あれ、結構高かったのに……。
「そう。実は私、これから大事な商談があるのよ。最後まで付き添ってあげることができないから、あなたに救急車同乗をお願いできるかしら?」
「あ、はい……わかりました」
どうせ次の予定もないので、うなずいた。返事を聞いた女医は、高級そうな鞄から、名刺入れを取り出した。
「私の連絡先、ここよ。患者がどうなったか、あとでメールしてくれる?」
「わかりました。メールしますね」
名刺を渡すと、女医は立ち上がり、それじゃあ、と颯爽と立ち去って行った。ほとんど間を置かず、遠くで救急車のサイレン音が鳴り、ブルーの防護衣を着た救急隊が階段を駆け下りてきた。
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株式会社 E・M・A
社長 緒方 友里子
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