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第5章|サクラマス化学株式会社 南アルプス工場 <11>工場内の様子

<11>



休養室を離れて、鈴木先生のあとをついて廊下を歩く。

女子トイレで倒れてしまったので、私は結局、工場内の巡視に参加できなかった。


 

「鈴木先生、職場巡視は、いかがでしたか」



「そうですね……予想したよりもずっと、職場環境は整っていました。確かに工場ですので危険個所は多いのですが、社員への安全教育が浸透していますし、現場もよく整頓されていました」



「それで先生、この後は、どうされるんですか」



「そろそろ終業時間も近い。労災にあった新島さんの上司であり、現場責任者でもある富士田さんに、直接、ヒアリングをしに行きたいと思います。足立さんも、同席して頂けますか」



「は、はい! 私も行きます! 今、着替えてきます!!!」




―――無事に更衣室で作業着姿になって、先ほど入りそこねた工場の内部を歩いた。

 


 工場は天井が高く、小さめの体育館のような構造をしていた。そして通路の両脇に、見たこともない大型の工業機械がいくつも並んでいた。


例えば、巨大なタジン鍋みたいな形をした設備とか、年季の入ったさび色のベルトコンベヤーのような機械。一方で、病院にある「CTスキャン」によく似た、筒形の大きな設備などは、少し新しそうに見える。どれも私の背丈より大きいし、鉄階段で二階に登って操作するような大型機械もある。



左右をキョロキョロ見回しながら歩くと、ところどころ、注意喚起のための黒と黄色の縞柄テープが張られたり、「転倒注意」「接触注意」といった張り紙があったりする。広い工場の各所で、作業着姿の社員がテキパキと仕事をしていた。


『熱中症に注意』の張り紙もある。確かに、工場内にはエアコンはないのか、外より一段階、暑く感じた。



 甲斐さんはこの中のどこかで作業をしているんだろうか。ちょっと探したけど、広すぎて、すぐには姿が見当たらなかった。



 さらに、体育館のようなエリアを通り抜けて、扉を開けて次の場所に進むと、最奥部はガレージのように外気とつながっているオープンエリアで、壁際に、石造りの“井戸”のようなものが隣り合って並べられていた。


そして、それらの井戸のいくつかに、赤いような、黄色いような、何かが燃え、煮えたぎっているのが見えた。

その前に、富士田さんは立っていた。




「炉の温度チェック、ヨシ!  ダブルチェック、ヨシ! 足元、ヨシ!」



富士田さんは大きな声で、もう一人の社員と、指差しながら確認作業をしているようだ。



「こちらが、さきほど矢豆さんがおっしゃっていた、高温の塩浴焼き入れ槽です」

 鈴木先生が言う。


夏と秋の合間のような季節だから、外の温度もそれなり高いのに、焼き入れ槽から放たれる熱のせいで、このエリアは、特別暑い。サウナみたいだ。全身に汗が噴き出して、メイクが、ぬるぬると溶けて流れていきそうだ。



 訪れた私たちの気配に、富士田さんが振り返る。


熱でゆがめられた空気の向うに、富士田さんの闘志に満ちた目が光っている。




「富士田さん! 産業医の鈴木です。少々お話を、聞かせて頂けますか」鈴木先生が声を張り上げた。



「……りょう!」



「あのー、富士田さん、『リョウ』って、何ですか?」私が訊いた。



「『りょう』は、『了解りょうかい』、の意味です。俺が広めて、工場で使ってます」

 


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