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第5章|サクラマス化学株式会社 南アルプス工場 <10>富士田さんが怒る理由

<10>



「えーと。んじゃ、お医者さんも来たようだし、あたしは戻るね」甲斐さんが立ち上がる。



「色々とありがとうございます。あっ、甲斐さん、例の件、必ず、行ってくださいね」



「あ~、はいはい、わかったよ。あ……あとさ、富士田さんのことだけど」



「なんでしょうか」



「あの人が、怒り狂ってるのはさぁ、本当は……、新島さんに育休をとらせてやりたいからなんだよ」



「育休……って、育児休業、ですか?」



「うん。新島さんね、結婚してて、子供がいるんだ。最初が男の子の双子ちゃんで、まだまだ手がかかるってのに、三男坊がもうすぐ生まれるんだって。ま~、今は核家族だし、双子を育てるってのは、想像以上に大変なんだねぇ。イクメンの新島さんが、フラフラしながら仕事してるのを見て、富士田さん、本当は”育休”を取らせてやりたかったんだ。それで、工場長に半年前から人員補充の交渉をしてたけど、なかなか積極的に動いてくれなくてね。そうこうしてる最中に、新島さんが労災に遭っちまったもんだから、キレちゃったんだよ」



「でも確か……人材募集は常に出しているって……矢豆さんが」



「うん、まぁ出しちゃいるけども、あたしから見ると、アリバイ程度、って感じがするよね。マンネリ化した、地味な求人広告を地元紙に出してるだけで、提示してる給与も10年前と変わらなくてパッとしないし。でもさ~……あたしもあんまり強く言えないわよね。だってあたしらみたいな、すっかり高齢化しちゃった社員は、あちこち故障するし、だんだん頑固ジジイや、うすのろババアになっていくわけじゃん。でも地味に昇給してるから、工場から見りゃ、人件費の重たい存在だろうけど、クビにもせずに、長年、面倒見てもらってるわけだからねぇ……って。おっとっと、喋りすぎたわ。じゃ、戻るから。ご安全に~」



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