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第1章|無職の女 足立里菜 <1>序章

※この物語は完全なるフィクションです。「カクヨム」「アルファポリス」と重複投稿しています。

<1>


 都営新宿線の「新宿三丁目駅」を歩く。

 東京は、今日も人だらけだ。


 灰色めいた地下鉄の通路には、

 デパートの紙袋を提げて意気揚々と歩く中年女性や、ビジネスマン風の男性。


 行き交う人々の足音、衣擦れの音、呼吸の音、そして声。



 東京の大人は、ぺちゃくちゃ喋らない、と思う。

 きっと、忙しいのだろう。


 スマホを眺めている人も多い。


 今日は平日だから、仕事中の移動で地下鉄に乗っている人も沢山いそうだ。



――あなたはもっと、違う現場のほうが向いていると思いますから――



 ふと、先日、看護師長から告げられてしまった言葉を思い出して、また溜め息を吐く。

気まずそうな師長の顔を思い出すと、ギュッと胸が痛んだ。


 足立里菜、26歳。今、私は無職だ。

先日、働いていた急性期病院を、クビになってしまった。



 先ほどまで新宿のカフェでお茶してた友人のトモコは、私と同じ、看護師だ。

でも、あの子はちゃんと働いている。




 東京の9月は、まだまだ暑い。改札口にスマートフォンをかざして、ゲートを通り抜けた。



―――ねぇ里菜、『ベーシックインカム』って、知ってる?



 さっき、トモコが言っていた。新しいカレシが教えてくれた言葉だそうだ。



―――国民全員に、生まれてから死ぬまで、毎月国がお金を配ってくれるんだって。そうなったらさ、仕事なんか、しなくても生きていけるんだよ。いいと思わない?



 ナニソレ、すごい。と、私は言った。



―――毎日サブスクで映画みて、音楽聴いてさ。海に遊びに行ったりとか、楽しそうだよね。あーあ、なんで若いのに毎日毎日、働いて、時間を無駄にしなきゃならないのかねぇ。若い時間なんて、あっという間に過ぎちゃうんだからぁ!



 しっかり者のトモコは、マッチングアプリで出会った会社員のカレシと、真剣に結婚を考えているらしい。


 看護師の仕事は、けっこうきつい。

 世の中から必要とされていることは間違いないけど、肉体的にも、精神的にも厳しい仕事だ。


だからトモコは、結婚したら総合病院の看護師を辞めて、責任が少ない看護職のアルバイトだけしていきたい、と夢見ているそうだ。


そのうえ、もしも『ベーシックインカム』が導入されたらサイコーだよね、仕事を最低限にして、子供をたくさん産んで、大家族を作りたい、ということらしい。



 ……でも。



 ………でも。



 私は、そんなトモコの立場には程遠い。

同じアイスコーヒーを啜って、笑いながらそれいいね、と話していても、私のほうは、スタートラインにさえ、立ててない。



 第一に、私には、カレシがいない。


 そして第二に、仕事ができない。



 駅のホームで電車を待ちながら、耳にワイヤレスイヤフォンを差し込む。


こんな時は何を聴くべきだろう。そもそも明日からどうやって生きて行こうか。


もうすぐ、住むところもなくなるのに。



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