もっと運転するモノ
ジミ・ヘンドリクスのTシャツを着た猫なのか、ジミ・ヘンドリクスではないTシャツを着た猫なのか、実は生きていた背の低いジミ・ヘンドリクスなのか、実は生きていたジミ・ヘンドリクスとは別人の背の低い人なのか、何としても確かめる必要があった。
もし、実は生きていたジミ・ヘンドリクスだとすれば大スクープだった。
フロントには、既にドライブレコーダーを装着していた。
通販で後方用のドライブレコーダーを購入した。
週末になると、例の交差点まで車を走らせた。
一旦バイパスを東に向かい、旧道に入って西に向かった。
そのコースを何度も何度も繰り返し車を走らせた。
派手なオレンジ色で、派手な流線形のスポーツカーは現れなかった。
毎週車を走らせていると、太陽の位置がみるみるうちに低くなるのがわかった。
曇りや雨で空が暗いと、後ろの車の内部も見づらかったが、最早お構いなしだった。
夏は過ぎ去り、秋が深まった。
週末ごとに、暗くなる時間が早くなっていった。
その日も、既に太陽は地平線の向こうに沈んでしまっていた。
今日はこれで最後にしよう、そう思いながら、車を走らせていると、いつの間にか、後ろに派手なオレンジ色で、派手な流線形のスポーツカーがいた。
例の交差点で停止した。
バックミラーを見た。
やはり、助手席には誰もいない。
運転席には、プリントか本物かわからないが、猫の顔が見える。
目を凝らしてよく見ると、ハンドルの後ろに頭らしきものが見えた。
しかし、今度は黒い爆発ヘアではなかった。
赤いリーゼント風の髪型で、おでこに赤いラインが入っていた。
今度は検索するまでもなかった。
間違い様がない。
あれはデビッド・ボウイだ。
1973年リリースの『Aladdin Sane』の頃のデビッド・ボウイだった。
信号が青になった。
もう逃がすまい。
そう思って左折すると、派手なオレンジ色で、派手な流線形のスポーツカーは直進してしまった。
帰宅してドラレコの映像を見ると、メモリがフルで録画されていなかった。