続運転するモノ
今度は一人だった。
僕がその交差点で停止すると、後ろにまたあの車が現れた。
派手なオレンジ色で、派手な流線形のスポーツカーだ。
西日を受けて車内がよく見えた。
今度は相手も僕同様に一人だった。
いや、正確に言えば、一匹だった。
右側の助手席には、今日は誰も乗っていない。
左側の運転席に猫の顔が見える。
やはりあれはプリントではないのか。
運転しているのは猫なのか。
猫が車を運転出来るのか。
しかし、よくよく見ると、ハンドルの向こうに顔らしきものが見える。
黒いもじゃもじゃの髪が爆発している。
その下は、ハンドルとダッシュボードに隠れてよく見えない。
ただ単に、ドライバーの身長が低くて見えなかっただけなのだ。
僕は一人で微笑んだ。
幾ら何でも、猫が車を運転する訳ないじゃないか。
この間は、彼女の冗談のおかげで、危うく事故りかけた。次に会った時に話してやろう。
スマホで写真を撮れないかと思っていると、信号が青になった。
僕が直進すると、派手なオレンジ色のスポーツカーは、前回と同様に左折してしまった。
しかし、何か引っかかるものを感じていた。
あの爆発したような黒い髪の毛だ。
どこかで見たような気がする。
帰宅して、早速PCで検索してみた。
ジミ・ヘンドリクスの画像だった。
白地にジミの顔がプリントされたTシャツがあった。
さっき見たのとそっくりだった。
あれはもしかして、このTシャツだったのではないだろうか。
だとすると運転していたのは、やはりこのTシャツを着た猫だったのか。
しかし、猫がジミヘンのTシャツを着るだろうか。
いや、それ以前に猫が車を運転するだろうか。
猫がどうやって免許を取れるというのか。
更に検索すると、イギリスのタブロイド紙の記事が出てきた。
その見出しはこうだ。
『Jimi Hendrix is alive』
画像は顔だけ老人となったジミのものだった。髪の毛は生前と同じく黒いままの、爆発ヘアだった。