03 枢機院
エルメニアには多くの院があり、そこで政治を行っている。
その中でも、評議院は裁判所の様な役割を持ち、貴族たちから寄せられた書状や、何か問題を起こして裁かれた者達の罪状を決定する。
この評議院には、上院と下院があり、多くの問題は過去の例を参考に下院で裁かれるが、問題が大きく罪が重くなる場合には、上院に務める貴族達の評議によって罪が決めらた。
枢機院は、王が参加したエルメニアの政治の中心の場所となる。
個々の院では決められなかった問題や、国内だけで無く周辺の国々との問題を、王と八名の貴族が話し合って決定する。
「兄さん、評議院にいったい何を申し立てたんです」
「私は、貴族の義務を果たしただけだ」
ヘイズが王宮に来ると、弟が真っ青な顔で話しかける。
ウエストリアに赴いた貴族達と話し合い、昨日までに各々の家から評議院に書状を送ろうと決めていた。
ウエストリアからの書状に記載された賠償など、誰も受け入れる事は出来ず、全員で評議院や枢機院に訴えたのだ。
「なんて事をしたんですか、、、」
タリズが頭を抱えているので、小心者の弟に教えてやる。
「タリズ、例えウエストリア伯が枢機院や上院の一人だったとしても、自分の問題に口を出す事など出来ない、知らないのか?」
「そんな事を言っているのではありません、兄さんこそ"建国憲章"を知らないのですか?」
「"憲章"、何だそれは、、、そう言えば、ライオネルと言う男もそんな事を言っていたが、、、」
「まぁ、僕もラクイルが教えてくれたから知った所だけど、、、」
「下院で働いているトリア家の者が、何と言っているんだ」
「下院で大騒ぎになっているらしいよ、他国に攻め入ってはならないと言う“絶対の約定”を破った者達がいるって」
「攻め入ってはならない?」
「“他国の者達が国土を脅かす場合のみ、それを排除する事を許す”だったかな?」
「そんな話を聞いた事は無いぞ」
「自分が知らないからと言って、憲章に書かれている事が無くなったりしないよ」
「それで、私が出した書状はどうなっている」
「最初に目にしたのがラクイルだったから、他の人に知られないようにしてくれたけど、、、メルデスタ家やトリアノン家から出された書状に関わった人の名前が書かれていて、、、」
「何をやっているんだ、早く処分しないか」
「僕に言っても仕方ないだろ?」
「残りの二つの家からは出ていないのか?」
「知らないよ、、、僕は兄さんが評議院だけで無く、枢機院にまで書状を送っていないか確かめに来ただけだから、、、」
まずい。
昨日、評議院に行く前に、ウエストリア伯を非難した書状を枢機院に提出している。
「私はちょっと、、、」
ヘイズが言いかけた時、枢機院の使者に声をかけられた。
「ヘイズ・マクシミリアン子爵ですね、ご同行願います」
使者の後ろには、警備の人間が二人付き従っていて、まるで罪人として呼び出された気分になる。
「いや、私は、、、」
タリズは何も言ってはくれないので、そのまま王宮の奥、王がいる部屋へ案内される。
こんなはずでは無かった。
この部屋に入る時は、あの小生意気な若造が居なくなり、代わりに自分が迎えられる予定だったのに、部屋には既に自分以外にも真っ青な顔をした二人の貴族が呼び出されていた。
三人が揃った事を確認し、オルコス宰相が話し始める。
「昨日、メルデスタ男爵、マクシミリアン子爵、トリアノン子爵から枢機院に提出された書状についてお尋ねします」
「この書状には、"辺境伯がその任務を放棄した為に、アッタリアを討ち果たすべく戦った"と書いてありますが、どう言う事なのか、説明して頂けますか?」
「いや、それは、、、ちょっとした不手際で、、、」
「不手際?」
「我々が望んだのでは無く、そのようにした方が良いと、、、」
「どう言う意味ですか?」
「ウエストリア伯が、アッタリアを攻めろとでも?」
「そう言われたように、、、」
「唆されたと?」
「誠に面目次第も無く、、、」
ここは政治の場だ。
この場にウエストリア伯はいないのだから、自分が有利になるように話を進めれば良いのでは無いだろうか?
ヘイズは必死に考えた。
若いウエストリア伯を快く思っていない者もこの中にはいるはずで、これを利用して辺境伯に唆されたと言えば、逆に彼の方が罪に問われるのでは無いだろうか?
「提出された書状には、その様な記載は無いようですが、、、」
「それは、、、その様に書くとその、、、」
「ウエストリア伯が、書状をもみ消すとでも?」
「その様な事があっては、、、」
いい感じになって来たのでは無いか?
セリス殿ほどあの若造は実績も無い、このまま居なくなってくれれば、やはり自分が、、、、、、
"カツン"
枢機院の中心、ヘイズの目の前に座っていた人が音をたてる。
今まで話していた宰相も、ヘイズの言葉に賛同する様に見えた貴族も彼の方を向く。
即位して六年、先のイズル王とは違いタリム王は、武力にも政治的にも秀でた人と言われていた。
「オルコス、枢機院は何時から詭弁を述べて良い場所になった」
「申し訳ありません」
宰相が頭を下げると、隣に座っていたノーストリア伯がヘイズ達に説明を始める。
「ヘイズ殿、ここには一緒にアッタリアと戦った貴族とウエストリア伯からも、状況を説明し謝罪する書状が届いている。
我々が君達をここに呼んだのは、説明を求める為では無く、最後に謝罪する機会を与えるべきだと考えたからだ」
「まさか、、、」
「もういい、下がらせろ」
不機嫌なタリム王の声が聞こえると、宰相が続ける。
「処罰は追ってご連絡します、それまでご自宅でお待ち下さい」
そのまま引きずられる様に、部屋から連れ出される。
そのままメルデスタ男爵もトリアノン子爵も、王宮を出て行こうとしているので、彼らを捕まえて、対策を練らなくてはと話す。
「冗談じゃない、これ以上キミに付き合っていられるか」
「最後の機会だったのに、キミが勝手なことを言い出すから、最悪な結果になったじゃないか」
「何を言う」
「もう巻き込まないでくれ」
「二度と近寄らないでくれ」
二人が自分から逃げるように離れて行く。
こんなはずでは無かった。
自分は、アッタリア兵が来ると聞かされ、砂漠に行けば鉄が手に入ると騙されただけなのに、何故処罰されなくてはならない。
あの口の上手い若造が、枢機院や評議院に賄賂でも送って、自分を貶めたに違いない。




