12 ゼム
その一人、マルゼスの街にいた魔工師に会いに行った事を思い出す。
-四年前
「またお前か」
ファーレンが一緒に行った時、ウルフレッドは何度かその場所を訪れた事があるようだった。
「まぁ、そう言うな。まだイリノアの街に来る気になれないか?」
「わしはここが気に入っとる」
「分かってるよ、だから頼んでいる」
「なぜ、わざわざ行かねばならん。剣でも槍でも欲しいものを言えば作ってやると言っとるじゃろ」
「俺が使っても壊れない剣が欲しいんだ、ここには無い」
魔具は、“トゥグ”と呼ばれる鉱石に憐灰石、青鉛石、柘榴石、、、など色々な鉱石を混ぜ合わせて作られる。
その配合は、魔工師に寄って違い、秘伝として弟子達に伝えられる。
もちろん魔具を作る魔工師の腕によっても強度や威力は変化するため、腕のいい魔工師が作った物はそれだけ高額にもなる。
「わしの作った魔具は、そんなにやわじゃないぞ」
「そう言われると思ったから、今日は相手を連れて来た」
「相手じゃと?」
「あぁ、ファーと戦っても壊れないなら大丈夫、という事だからな」
いきなりマルゼスまで連れて来られたかと思えば、自分が関わる話を始めるので思わず聞き返す。
「何の話をしているのかな?」
「ここに魔物を呼び寄せる訳に行かないだろう?」
「魔具を使って手合わせするつもりなの!?」
「ちゃんと型通りにするさ」
当たり前だ!
練習用の剣では無く、魔具を使っていつものように変則的な動きをされたのではこちらの身が持たない。
通常の武器と魔力を使える魔具とでは、威力が格段に違う。
魔具を使って人を相手にする場合は、魔力を込めずに使用するが、手合わせする場合は、危険なので魔力を使えない普通の武器を使用する。
「ちゃんと加減してくれよ」
「お前が本気にならなければいいだろ?」
「僕じゃないよ、いつもウルフが手加減しないからだろ?」
二人でぶつぶつ言いながらファーレンは自分の魔具を、ウルフレッドはゼムの作った剣を持って対峙する。
その後、いつもより少し大人しい手合わせが始まるが、しばらくするとウルフレッドの使っていた剣の魔力が乱れたかと思うと“ポキ”っと剣が折れる。
それを見ていた魔工師のゼムが叫ぶ。
「折れたのか!? わしの作った剣を折ったのか!?」
「もう少し丈夫だと思ったんだけどなぁ」
「なんて事をしてくれるんじゃ! せっかく作り上げた物をよくもこわしよって!」
「ファーに文句を言え!」
「どうして僕なんだよ!」
「お前が同じところばかり狙うからだろう」
「型合わせなんだから仕方ないだろう? それに僕の剣は折れてない!」
「俺が下手くそみたいに言うなよ」
二人で言い合っていると、折れた剣を持ったゼムが側にやって来る。
「こら坊主、お前の言っている事は分かったが、カストリア家には優秀な魔工師がいるじゃろう? 何故そいつに作らせない」
「アレは魔具を作りたがらない」
「魔工師じゃろ?」
「魔物を殺す道具を作るのを嫌がる」
「そんな事、領主が命じれば良いだけの事じゃろ?」
「嫌だという事をさせても仕方がない。それにアイツの頭の中には不思議な物が詰まっているからな、それを無くして欲しくない」
はぁぁっと大きく息を吐くとゼムが答える。
「分かったわい、とりあえずお前がいつも使っている魔具を見せてみろ」
「そんな物は無い」
「なんじゃ、お前は魔具も持たずに領内をウロウロしとるんか」
「ウルフ?」
「ん?」
「魔具を持っていないの?」
「持っていると言った覚えは無いぞ?」
「いや、言わなくても持っていると思うだろ?」
「そう言えば、ライもそんな事を言っていたな」
のんびりと答える彼には驚かされる。
マルゼスに来るまでもそうだし、イリノアの街に行くまでにも危険な場所はあると言うのに、、、
「魔物に会ったらどうするつもりなんだ!?」
「オルがいれば、そんな事にはならない」
オルグが優秀な事は知っているが、彼が攻撃の手段を持っていない事も良く知っている。
ウルフレッドの剣の腕も良く分かっているが、魔力を使わないと魔物を殺す事は出来ない。
「そうかもしれないけど、、、危ないだろ?」
「魔石は持っているぞ」
魔石は魔力の強化のために使い、その魔力をどういう形にして魔物に対するかを魔具で決める。
剣や弓矢のような魔具が多いのは、魔具を通常の武器と同じように使う方が、使いやすいからでもある。
確かに魔石があれば魔力を使うことは出来るが、畑を燃やすような事は出来ても、それを動く魔物にたいしての攻撃に使う事は難しい。
「壊れる魔具を使っても効率が悪いからな、今は魔石しか使ってない」
彼の言っている事は分かるが、相変わらず無茶苦茶だ。
ライオネルがいつも眉間にシワを寄せている意味がよく分かる。
「なぜイリノアなんじゃ」
「イリノアにはファーもいるんだ、出来上がった魔具が使い物になるか、確かめるにも効率がいい」
「お前、わしの作った魔具をこれからいくつ壊すつもりじゃ」
「ゼム爺が俺の満足する魔具を作れるまでだが、、、出来ないのか?」
楽しそうなウルフレッドの笑顔は、ゼムの魔工師としてのやる気を刺激したようだった。
「お前に、イリノアまで連れて来る必要は無かったと言わせてやるわい」
「期待してるよ、ゼム爺に出来ないと俺がお手上げだ」
その後、一年以上の時間をかけてウルフレッドの剣や火炎を作ったゼムは、そのままイリノアの街に居ついてしまった。
ローエングルグ家のロジーと同じように、結局、ゼムもウルフレッドから離れられなくなった。
時には振り回されていると感じても、一度、彼の懐に入ると居心地が良くてなかなか離れる事が難しい。
彼は本当に厄介な“人たらし“だった。




