03 バーナード(2)
「雨が降れば、火は消える」
「そんな事くらい知っているよ! 僕は、人の生活を便利にする魔道具を作りたいんだ」
「お前の作った魔道具を使っても、便利にはならん」
「それはウルフが使って無いからだろ! ファーは分かってくれるよね?」
「ごめん、、、僕の所でもバードから貰った魔道具は使っていないよ」
「どうしてだよ、お皿を洗う手間が無くなって良かっただろ? それに一度に沢山洗えるなんて凄いだろう?」
「あの魔道具を動かせるだけの魔力を持った使用人はいないよ」
「、、、そうかもしれないけど、それは騎士に頼めばいいだろ?」
「そうなんだけどね」
「騎士にとっては大した魔力じゃないんだ、その位、当たり前じゃないか」
「お前なぁ、毎日、皿を洗う度に『動かして下さい』と頼むのか?」
「魔力を持っていないなら、仕方ないじゃないか」
「魔力を全く持っていない訳じゃ無い、お前の魔道具を動かせる程持っていないだけだ」
「どう違うのさ」
はぁぁと大きなため息をついて、面倒くさそうにウルフレッドが話し始める。
「一日に何回、使用人達が皿を洗っているか知っているのか?」
「それは、、、知らないけど、、、」
「その度に、騎士に自分の仕事を手伝わせるのか?」
「別に手伝って貰うわけじゃ、、、」
「自分の仕事の魔道具を動かす為に、他人の手を借りるんだぞ」
「それは、そうだけど、、、仕方無いじゃないか」
「借りる方も貸す方も、何も感じていないとお前が思っているなら、それはお前が人と関わっていないからだ」
「そんな事、、、」
面倒になったのかウルフが離れていくので、ファーレンの顔を見る。
「バード、ちょっとやり方は強引だったと思うけど、キミが外に出るのはいい事だと僕も思うよ」
魔具を持っていないバーナードは、例えウエストリア領内であっても一人で移動する事は出来ない。
ウルフレッドが自分を家まで連れて帰ってくれるとは思えないので、ファーレンが協力してくれないなら、このまま彼らと一緒に知らない場所に行かなければならない。
「分かったよ、ウルフが言ってた魔具も考えてみる」
「そうだね、ウルフも期待していると思うよ」
「ウルフは僕に意地悪をしたいだけさ」
「まさか」
「昔からポロの畑まで連れ出されたり、川に突き落とされたり、ウルフ達には酷い目にあっているんだ」
「それは知らなかったけど、、、ウルフは意味のない事はしないよ」
「どうしてさ」
「彼は必要の無いものに興味を持ったり、関わる程優しく無いからね」
「確かに優しくは無い」
「そんな物は、切り捨ててしまえばいいだけの事だからね。彼はそれが出来る立場にいるし、それを躊躇する様な性格でも無い事くらい知っているだろう?」
「ならどうして僕に意地悪するのさ、僕は昔からロクな目に会って無い」
「バードに期待しているのさ、出来る力を持っているのに、それを使わないから歯痒くて仕方がないんだよ」
本当だろうか?
バーナードにとって、彼は昔から自分に災厄を与える人でしか無い。
数年前、ファロ川に突き落とされてからは、彼が屋敷に来ると研究室に籠って出ない様になり、それ以来ろくに話もした事も無い。
「でも、それなら早く帰らないと」
「どうして?」
「考え事するなら、研究室にいないと」
「考え事をするのに何故部屋が必要なんだ、頭がここに付いているんだから、ここで考えろ!」
「そんなぁ」
ウルフレッドに頭を小突かれたバーナードの悲壮な声が聞こえて来る。
ウルフレッドを良く知っている者なら、彼がこんな風に人と関わるのが珍しい事が分かるが、バーナードにはそれが分からない。
ウルフレッドにとって、人はとても興味深いものなので、相手から関わって来るのを拒む事は無いし、人当たりもとても良いが、逆に自分から関わって行く事は殆ど無い。
自分が知っているかぎり数える程で、これ程本気で嫌がっている相手との関わりを求めるのは、彼がバーナードにとても興味を持っている事と、彼の力を認めていると言う意味になる。
「もう少し優しくしてやればいのに」
「優しく?」
「そうだなぁ、、、分かり易く?」
「そんな事をしていると、アイツに逃げられる。やっと巣穴から引きずり出したんだ、逃げ込ませるなよ」
「バードをウサギみたいに」
「そうかもしれないな、俺は狼だからな、ウサギにはすぐに逃げられる。逃げない様にするには、追い込むしか無いだろう?」
「自分から出で来る時だってあるよ」
「俺は三年待ったんだぞ、これ以上待てるか」
「それはウルフが無茶なことするからだろ?」
「ん?」
「ファロ川に放り込まれたって言っていたよ」
「アイツの親父に、せめて川で溺れないくらいにして欲しいと言われたからだぞ」
「溺れされてどうするのさ」
「ちゃんと流れの無い場所を選んださ」
「いきなりは無理だよ」
「俺達は、もっとガキの頃にフランツに同じ事をされたぞ」
「ウルフ達は、それまでにそれ以外の事を学んでいただろう?」
「まぁ、そうかもしれないな」
「人に得手不得手がある事くらい知っているのに、、、」
「バードを何度も川に連れ出せるとは思えなかったからな、とりあえず溺れれば死ぬ事を知って貰う必要があったのさ」
ウルフレッドの横にいるオルグまでが、そうだそうだと言うように頷いている。
この二人は、自分達が人より優れている事をそろそろ自覚する必要がある。




