片想い
よめ
やばい、完全に迷った。 いつものように散歩に出掛けていたら、いつの間にか彼岸花が咲き誇っている道に出た。進んでいくと川が有る。その近くに喫茶店があることに気がついた。ちょうど喉も乾いていたし、こんなところにある喫茶店に興味も湧いたので入ってみることにした。中は思ったよりも盛況だった。客は老人が多く疲れ切ったサラリーマンのような人や高校生、ついには小学生のような子供までいた。なんだ、満席か。そう思い元来た道を引き返そうとすると道が無くなっている。驚いていると 『どしたん?席、奥の右側一個空いとるでそこ座り。』と可愛らしい声が聞こえる。『あ、はい。』 と言いながら席に座ると、『なんか飲む?』と可愛らしい声の持ち主が声をかけてきた。どうやら店員さんらしい。どんな喫茶店でも珈琲くらいはあるだろうと思い、 『ブレンドを一つ』 『まいど〜』とやり取りをかざすとその人は少し悲しそうな顔をしてキッチンへと向かった。しばらくして珈琲が出てきた。一口飲んでみる。 美味しい。今まで飲んだ珈琲の中で最も美味しいと思った。苦味の中に少し甘みもあってどこか懐かしかった。 『美味しいです』『ほんま?ありがとう〜。豆とかこだわってるからうれしいわ〜。』会計の時『名前は?』と聞かれ、?と思いつつ『葉山修司です。』と答えた。彼女は、分厚いノートを取り出しページをめくり始めた。ふと、彼女の手が止まった。『あら、あんた今回はお代はいいわ、早く元来た道を帰りなさい』と、少し呆れたというか怒っているかのような口調で言われた。『でも、出口が無くて。』『大丈夫、元来た道を通りな。あんたはまだここに来てはあかん人や。絶対振り向いたらあかんよ。』『わかりました。ごちそうさまでした。』そう言いながらも帰り道、俺は何度も振り返りそうになった。だが、彼女の言いつけを守り家についた。そう思っていたのだが俺は病院のベッドで寝ていたらしい。彼女が誰だったのかはまだ分からないがまた会うのはもう少し先になりそうだ。
『はぁ、彼、前と全然違うな。今回は葉山くんだっけ、少しびっくりしちゃった。次に会う時はもう少し近づいてみようかな、』 また彼女は待ち続ける。
ありがとさん