7.同罪
昼の早い時間でパレードは終わり、夜になると王城で祝賀パーティーが開かれた。
招かれたのは高位貴族のみと聞いて、リリーシアはほっとしていた。リリーシアの実家は王都とは随分距離がある。成金貴族と高位貴族の相性は悪く、リリーシアの実家と王都の貴族に繋がりはない。そのためリリーシアを知る者がいるとは考え辛かった。
王城の絢爛豪華な大広間は、煌びやかなドレスの女性と礼服の男性で埋め尽くされていた。
国王から功績をたたえる言葉を賜り、一通りの段取りが済むと、楽団が音楽を奏で始めた。
紳士淑女が優雅に踊る中、リリーシアは礼服のアルシスが金髪の女性を伴っているのを見つけた。すぐに目を逸らすと踵を返して、逃げるようにその場を離れた。
ふと見慣れた逞しい背中がテラスに消えたのを見て、リリーシアはその後を追った。誰もいないテラスで酒を飲んでいるのはバリーだ。
慣れない礼服を窮屈そうに着たバリーが、この雰囲気は慣れないといつになく弱々しい発言をする。リリーシアはバリーの隣に立つと、顔を見ずにそっと囁いた。
「いつも私を助けてくれてありがとう」
「どうした藪から棒に?」
「いつも言いたくても言えなかったから、この場の勢いで言ってしまおうと思ったの。余り人と接したことがなかったから、仲間みたいに扱ってもらえて嬉しかった」
「今更何を言ってるんだ。命懸けで戦った仲間だろう?」
年長のバリーはなんやかんやと一番年下のリリーシアを気にかけていた。壊れてしまいそうに危なげなリリーシアを放っておけなかったのだ。ローナやオスカーも同様で、あれこれと世話を焼いていた。
リリーシアがバリーに今後を問うと、バリーは英雄業を引き受けることにしたと告げた。
バリー達はしばらくの間、英雄として王都に残って欲しいと乞われていた。雪の魔獸の爪痕を残すこの国に、英雄という存在が必要なのだという。
英雄を矢面に立たせることで、復旧までの間、国民の反発を逸らしたいのだ。
人気取りのためのバリー達に提示されたのは、破格の報酬だった。三人は二つ返事でその依頼を受けることにした。一人よりも数が多い方が箔が付くのだという。
リリーシアも同じことを言われたが、即座に断っていた。アルシスも嫌がって早々に騎士団に復帰することにしていた。
「王女との噂は聞いたか?どうするんだ?」
意を決したバリーが、それでも言い出し辛そうにリリーシアに問いかける。
「どうにもしないわ。私はここを出て暖かいところに行くのよ」
「……そうか」
心配そうにリリーシアを窺っているバリーに、リリーシアが言葉を続けた。
「バリーはね、私の親代わりのような人と年齢が近いから、近くにいるととても安心できたの」
「ちょっと待て。俺はお前のように大きな娘を持った覚えはないぞ」
「それくらい頼りにしていたのよ」
「素直に喜んでいいのか複雑だが、褒め言葉として受け取っておく」
大きな口を開けてバリーが笑っている。リリーシアは自分も笑えていることに安堵していた。
そうして、先に部屋に戻るとバリーに告げると会場を後にした。
ひとりで離宮へと向かっているとリリーシアの行く手を阻むように、人影が歩み出た。
金色の巻き毛に澄んだ水色の目。可憐でいかにも庇護欲をそそるような女性がそこに立っていた。その美しい目に涙を滲ませて、じっとリリーシアを見ている。
ぽろりと大粒の涙を零すのは、第五王女プリシラだった。パーティー会場でアルシスが伴っていた金髪の女性だ。
プリシラの腰の切り替えからふんわりと裾に広がったスカートが、立ちすくむリリーシアに近づいてくる。
「わたくしからあの方を奪わないで」
まさか王女に謁することになるとは思ってもみなかったリリーシアは、小さく足元が震えていた。
すぐに膝を折って下を向いたリリーシアに、プリシラがもう一度声をかける。
「何かおっしゃって」
命を懸けて恋を成就しようとした幼馴染みの二人。知らなかったとはいえ、その間に割り込んだのは自分だ。
いたたまれない気持ちで、震える唇からどうにか言葉を発する。
「……申し開きのしようもございません。明日には王都を発ちます。誰とも会わないように遠い地へ行き、二度とお目にかかることはないとお約束いたします」
「本当に約束して下さいますね」
「はい」
ほろほろと涙を流している王女を見て、許されないことと知りながらも、すぐにでもこの場を逃げ出してしまいたかった。
私は妹と同じことをしている。
姉の婚約者と知りながら、ニース様を奪ったグレイス。
あんなに軽蔑して嫌悪したグレイスと同じことをしている。
目の前で涙を流す王女は、過去のリリーシアだ。
自分がされた仕打ちを、別の誰かにしている。
リリーシアは罪悪感に苛まれ、その場に立っているのがやっとだった。
なぜ言ってくれなかったのか。どうして裏切るようなことをしたのか。アルシスを詰りたい気持ちになりながらも、それでも嫌えないでいる愚かな自分に嫌気がさした。




