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その手を離しても  作者: 新在 落花
本編

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7/19

7.同罪

 昼の早い時間でパレードは終わり、夜になると王城で祝賀パーティーが開かれた。


 招かれたのは高位貴族のみと聞いて、リリーシアはほっとしていた。リリーシアの実家は王都とは随分距離がある。成金貴族と高位貴族の相性は悪く、リリーシアの実家と王都の貴族に繋がりはない。そのためリリーシアを知る者がいるとは考え辛かった。


 王城の絢爛豪華な大広間は、煌びやかなドレスの女性と礼服の男性で埋め尽くされていた。


 国王から功績をたたえる言葉を賜り、一通りの段取りが済むと、楽団が音楽を奏で始めた。


 紳士淑女が優雅に踊る中、リリーシアは礼服のアルシスが金髪の女性を伴っているのを見つけた。すぐに目を逸らすと踵を返して、逃げるようにその場を離れた。


 ふと見慣れた逞しい背中がテラスに消えたのを見て、リリーシアはその後を追った。誰もいないテラスで酒を飲んでいるのはバリーだ。


 慣れない礼服を窮屈そうに着たバリーが、この雰囲気は慣れないといつになく弱々しい発言をする。リリーシアはバリーの隣に立つと、顔を見ずにそっと囁いた。


「いつも私を助けてくれてありがとう」

「どうした藪から棒に?」


「いつも言いたくても言えなかったから、この場の勢いで言ってしまおうと思ったの。余り人と接したことがなかったから、仲間みたいに扱ってもらえて嬉しかった」

「今更何を言ってるんだ。命懸けで戦った仲間だろう?」


 年長のバリーはなんやかんやと一番年下のリリーシアを気にかけていた。壊れてしまいそうに危なげなリリーシアを放っておけなかったのだ。ローナやオスカーも同様で、あれこれと世話を焼いていた。

 

 リリーシアがバリーに今後を問うと、バリーは英雄業を引き受けることにしたと告げた。


 バリー達はしばらくの間、英雄として王都に残って欲しいと乞われていた。雪の魔獸の爪痕を残すこの国に、英雄という存在が必要なのだという。


 英雄を矢面に立たせることで、復旧までの間、国民の反発を逸らしたいのだ。


 人気取りのためのバリー達に提示されたのは、破格の報酬だった。三人は二つ返事でその依頼を受けることにした。一人よりも数が多い方が箔が付くのだという。


 リリーシアも同じことを言われたが、即座に断っていた。アルシスも嫌がって早々に騎士団に復帰することにしていた。


「王女との噂は聞いたか?どうするんだ?」


 意を決したバリーが、それでも言い出し辛そうにリリーシアに問いかける。

 

「どうにもしないわ。私はここを出て暖かいところに行くのよ」

「……そうか」


 心配そうにリリーシアを窺っているバリーに、リリーシアが言葉を続けた。


「バリーはね、私の親代わりのような人と年齢が近いから、近くにいるととても安心できたの」

「ちょっと待て。俺はお前のように大きな娘を持った覚えはないぞ」


「それくらい頼りにしていたのよ」

「素直に喜んでいいのか複雑だが、褒め言葉として受け取っておく」


 大きな口を開けてバリーが笑っている。リリーシアは自分も笑えていることに安堵していた。


 そうして、先に部屋に戻るとバリーに告げると会場を後にした。



 ひとりで離宮へと向かっているとリリーシアの行く手を阻むように、人影が歩み出た。


 金色の巻き毛に澄んだ水色の目。可憐でいかにも庇護欲をそそるような女性がそこに立っていた。その美しい目に涙を滲ませて、じっとリリーシアを見ている。


 ぽろりと大粒の涙を零すのは、第五王女プリシラだった。パーティー会場でアルシスが伴っていた金髪の女性だ。


 プリシラの腰の切り替えからふんわりと裾に広がったスカートが、立ちすくむリリーシアに近づいてくる。


「わたくしからあの方を奪わないで」


 まさか王女に謁することになるとは思ってもみなかったリリーシアは、小さく足元が震えていた。

 すぐに膝を折って下を向いたリリーシアに、プリシラがもう一度声をかける。


「何かおっしゃって」


 命を懸けて恋を成就しようとした幼馴染みの二人。知らなかったとはいえ、その間に割り込んだのは自分だ。


 いたたまれない気持ちで、震える唇からどうにか言葉を発する。


「……申し開きのしようもございません。明日には王都を発ちます。誰とも会わないように遠い地へ行き、二度とお目にかかることはないとお約束いたします」


「本当に約束して下さいますね」

「はい」


 ほろほろと涙を流している王女を見て、許されないことと知りながらも、すぐにでもこの場を逃げ出してしまいたかった。




 私は妹と同じことをしている。

 姉の婚約者と知りながら、ニース様を奪ったグレイス。


 あんなに軽蔑して嫌悪したグレイスと同じことをしている。


 目の前で涙を流す王女は、過去のリリーシアだ。

 自分がされた仕打ちを、別の誰かにしている。


 リリーシアは罪悪感に苛まれ、その場に立っているのがやっとだった。



 なぜ言ってくれなかったのか。どうして裏切るようなことをしたのか。アルシスを詰りたい気持ちになりながらも、それでも嫌えないでいる愚かな自分に嫌気がさした。

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