6.凱旋パレード
話し声は遠くに行ってもう聞こえなくなったが、リリーシアはその場から一歩も動けなかった。この場からすぐにでも立ち去りたいのに、体が思うように動かない。
ようやく頭が冷えてリリーシアが予定の場所へ向かった時は、すでにアルシスとの約束の時間になっていた。
「リリィ」
リリーシアが中庭の四阿の椅子に座って待っていると、いつもと変わらない様子でアルシスがやって来た。そのままアルシスはごく自然にリリーシアの隣に座った。
「久しぶりの王都はどうなの?」
「相変わらず堅苦しくて、あっちの方が気が楽だった」
少し疲れた様子が見えるが、眠ったせいかリリーシアの顔色は戻っている。
アルシスの目の前でリリーシアは軽い口調で話しているし笑っている。しかし、アルシスはリリーシアに違和感を覚えていた。
雪山にいる時もリリーシアは口数の多い方ではなかったが、会話はきちんと成立していたと思う。今のリリーシアとは、会話が噛み合っていないような気すらするのだ。
「……何かあったか?」
「何か?」
「何か変じゃないか?」
「誰が?私?」
リリーシアが微笑んでいる。しかしその顔は笑っているように見せているだけにも見える。アルシスは何かがおかしいと思いながらも、リリーシアを呼び出した本題に入ろうとする。
「これからどうするんだ?」
「どうして?」
「ひとりで南に行くというのは本気か?」
「どうかしら」
やっぱりおかしい。
「何か怒っているのか?」
「何も怒ってなんかないわ」
普段通りに接しようとしても、どうやらアルシスには伝わってしまうらしい。これ以上口を開くと余計なことまで口走りそうだと思い、リリーシアは早めに切り上げることにした。
「話はそれだけ?なら部屋に戻るわ。まだ体調が戻っていないの」
リリーシアのはっきりとした拒絶に、アルシスは動揺を隠せない。
何か言いたそうに立ちすくむアルシスを背に、リリーシアは振り返ることなく部屋に戻った。眠って疲れは取れたはずなのに、余計に疲れてしまったような気がしていた。
命を懸けて、釣り合うための功績をあげる。
なんて純粋で情熱的な深い愛情。
早く心を閉じなければ。誰も入って来られないように、閉じて、塞いで、気づかない振りをしなければ。
凱旋パレードに出ない方法を考えていたのに、今のリリーシアの心を占めているのは全く別のことだった。
そして、凱旋パレードの日はやってきた。
事前に用意されていた首まであるドレスを着せてもらい、集合場所へと向かい部屋を出た。
リリーシアを知る人に見られても判らないように、濃いめの化粧を依頼した。不釣り合いな化粧をメイドは何度も止めたが、リリーシアは最後まで引かなかった。
四頭立ての幌のない馬車は、五人を乗せて王都の街を進む。馬車の周りを騎乗した騎士達が取り囲み、長い列をなして街中を歩く。
豪奢な馬車が進むたびに、人いきれに包まれた沿道から割れんばかりの歓声が沸き起こる。遠くではパンパンと、高らかに響く花火の音が聞こえていた。
ローナは楽しそうに手を振って、周りの歓声を独り占めしていた。バリーとオスカーもそれなりに満喫しているようだ。
ギラギラと眩しい太陽が、眠っていないリリーシアの体に容赦なく照りつける。前後左右から色んな音が耳を刺して、視界がどんどん狭くなる。
リリーシアは起き上がっていることすら難しくなり、がくんと座席から落ちそうになったところを隣に座っていたアルシスが抱き起こした。
アルシスが羽織っていた袖無しの外套でリリーシアを頭から包むと、自分の方へ倒れ込むように肩を抱く。これ以上は自力では体勢を保つことができないと思ったリリーシアは、素直にアルシスに従った。
その光景を離れた沿道からクリスが見ていた。




