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その手を離しても  作者: 新在 落花
本編

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4.リリーシア・アンヴィル

 クリスの告げた内容の衝撃で、どうやって城まで戻ったのかリリーシアは覚えていなかった。ふと我に返り見慣れない豪華な部屋を見て、英雄に与えられた部屋に戻ったことを理解した。


 この世で最も信頼するクリスと再会できて、この世で最も忘れたい相手の話を聞いた。

 心臓がありえないくらいの速さで鼓動を刻んでいる。


 お父様に私の居場所が知られてしまったらどうしよう。

 私は不要だからと家から出されたのに、どうして今更探しているのか。

 私が知らない何かが起こったに違いない。


 相手の出方が判らずに、リリーシアの不安は増すばかりだ。


「……凱旋パレードには出ない方がいい」


 王都には多くの人が集まっている。凱旋パレードを見にわざわざやって来る人もいるという。そんな目立つ場面にリリーシアが出るわけにはいかない。どこで見られているかが判らない。


 しかし、国王から雪の魔獣を倒した英雄として、凱旋パレードと夜会に出るように命じられている。知り合いに会いたくないからと断れるはずはない。


 夜会は高位貴族だけが招待されていると聞いている。ではリリーシアの実家が招かれていることはないだろう。凱旋パレードだけでもどうにか回避できれば乗り切れるのではないか。


 実家のことを考えるだけで自分が自分ではなくなるほど不安になる。

 それはリリーシアが子供の頃からだ。



-----



 リリーシア・アンヴィルは、二十歳を迎えたばかりの男爵家の長女だ。

 この国ではよくある茶色の髪と褐色の目をした、いたって普通の娘だ。


 父親は男爵ではあるが歴史ある貴族というわけではなく、祖父の代に金で爵位を買った新興貴族だ。


 商売を手広くやっていた祖父は多くの貴族に領地を担保に金を貸し、返済のできない貴族からその領地を取り上げたのだ。その後正式に国王に爵位を認められ、晴れて男爵と名乗ることができるようになった。これもまた多くの金銭が動いたと聞いている。


 成金貴族、元平民の成り上がりと揶揄されることも多いが、紛うことなき金で買った爵位だ。


 大商人であり裕福な家ではあったが、念願の末席とはいえ貴族に名を連ねるようになったのだ。祖父と父の爵位へのこだわりは尋常ではなかった。


 男子でなければ爵位を継承することができないため、長女のリリーシアには生まれながらにすでに婚約者がいた。もちろん男子が生まれれば、弟が爵位を継ぐ。念には念のため、あらゆる手段を講じて爵位を守ろうとしていた。


 結局、アンヴィル家には男子が生まれなかった。子はリリーシアと妹のグレイスの二人姉妹だけ。


 リリーシアの婚約者は、アンヴィル家と親交のある伯爵家の三男のニースだ。

 伯爵家と男爵家、アンヴィル家の家格は随分と劣るがニースは三男。しかもアンヴィル家は非常に裕福な家のため、伯爵家にも金銭的な見返りが大きく、婚約はすんなりと行われた。


 ニースがリリーシアと結婚しても爵位を継ぐことはできないが、リリーシアの生んだ男子であれば男爵位を継ぐことができる。


 リリーシアの将来は盤石と思われていたが、リリーシアが十歳の時にそれは起こった。


 リリーシアに魔力が発現したのだ。しかも王宮魔法士と匹敵するか、それ以上の魔力量を持つことが判明した。

 この国では魔力を持った人間は稀少な上に、魔力持ちは貴族に多い。なぜなら魔力は親から継いで生まれることがほとんどだからだ。


 そこで父である男爵はリリーシアの出自を疑ったのだ。貴族の血など流れていないアンヴィル家にどうして魔力持ちの娘が生まれたのかと。


 当然母親は反発した。仮にそうであったとしても決して認めることはなかっただろう。しかしリリーシアは本当に父親の娘であったのだから反発は当然だ。いかにしても父親の疑いが晴れることはなく、しかし家を継ぐ貴重な娘を放り出すこともなかった。


 それから両親はリリーシアにつらく当たるようになった。そして、その内いない娘として扱われるようになった。父親は不義の子かもしれないと疑い続け、母親は不義を疑われたことに反発し、その原因であるリリーシアに憤慨していた。


 アンヴィル家の嫡女として蝶よ花よと、何不自由なく育てられたリリーシアは、それ以来両親から顧みられることはなかった。

 替わって両親の愛を一身に受けたのは、父親に非常によく似た妹のグレイスだ。



-----


 ニース様は私の婚約者だった。生まれた時から決まっていた婚約者。

 なのに選ばれたのは妹だった。


 グレイスはニース様と結ばれたいと泣いて憔悴して、両親はどうして妹を可哀相だと思わないのかと詰った。

 責められるのは私なの?


 そしてニース様も私との婚約を破棄し、妹と結婚したいと言い出した。

 誰も私の味方はいなかった。


 ニース様と結婚するのだと思っていた。

 家族に愛されていないことは知っていた。だから私のための家族が欲しかった。

 きっと彼となら信頼関係を築き、家族になれると思っていた。


 しかし彼からは私は妹との愛の障害だと言われた。

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