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その手を離しても  作者: 新在 落花
番外編

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18/19

18.思いを馳せる

実家はどうなったのとご質問をいただいたので、少し追加します。

アルシスほぼ出番なしです。

「ほら、もう一回!」

「リリーシア……さん」


 真剣な顔をしたリリーシアとクリスが、屋敷の食堂で向かい合わせに座っている。不満そうなリリーシアに対し、クリスは眉尻を下げて心底困った顔をしている。


「どうして言えないのよ」

「いや無理です。今更呼び捨てなんてできるはずがないでしょう!」

「クリスはもう使用人ではないでしょう?ほら、リリーシアと呼んでみて」


「すみません。本当に無理です。それにアルシス様のご実家経由で雇われているので、使用人には違いないです」

「私の使用人じゃないもの」


 顔の前で両手を左右に振りながら、クリスが無理と言い張る。帰ってきたばかりのアルシスが、何事かと顔を出した。


「なんだ?」

「リリーシア様がクリスに呼び捨てを強要しているようです」


 またいつもの応酬かとアルシスが苦笑いをする。


「リリィは、クリス相手だと子供のようになるな」

「羨ましいですか?」

「……」


 時としてレイナはえぐるようなひと言を発する。確かにリリーシアはアルシスには気を許しているようで、まだ遠慮を感じる時がある。


 急いではいけない。ゆっくりとリリーシアの心を解していかなければと思うが、その必要がないくらい甘えられている二人を羨ましく思う。




「これをグレイスに渡しておいて」


 液体の入った数本の硝子瓶をリリーシアがクリスに手渡した。


 クリスの仕事先の店は、大商人であるリリーシアの父親と仕事上の繋がりがある。クリスの店の店主が新しい商流の件で明日から男爵領に行く予定だ。男爵側は王都への進出を考えていて、その足がかりにと考えているようだ。


 関わりたくはないが父親の動向を把握しておきたいリリーシアのために、クリスも案内人として店主に随行する。


「魔法士団で調合してもらったの。女性に効くらしいわ」


 両親に愛されていた妹は、突然父親から見捨てられた。グレイスですら役に立たないと判るとそのような扱いになるのかとリリーシアは身震いした。


 妹に同情はするが、グレイスにされた数々のことを許せるほど寛容にもなれない。


 以前は自身の境遇を仕方がないと諦めるだけだったが、最近は昔を思い出しては腹立たしい思いが沸き起こることが増えてきた。

 昔の夢を見て、泣きながら目を覚ましてはアルシスに慰めてもらっていたのが、今では怒りながら目を覚ましてアルシスに八つ当たりをするようになった。


「妹にもいつか男の子が生まれたらいいわね」

「お人好しだな」

「違うわ。こちらへの干渉がなくなるからよ」


 アルシスが聞いたこともないくらい冷たい声でリリーシアが答えた。


 男爵はまだリリーシアを諦めていないらしく、身辺を探られている形跡がある。アルシスの実家を警戒して、表立っての接触はないが面倒で気が重い。


「……ああ」


 何も言わない方がよさそうだと、アルシスは口をつぐむ。


 最近のリリーシアは以前よりもはっきりものを言うようになった。いい傾向だとアルシス達は思っている。実家のことになると口数が減るのは変わりはないが、少しずつ過去のことになればいいと願っている。


 アルシスとクリスの間では、アルシス達の結婚を機に、この屋敷を出て別々に住む話が進んでいた。


 クリスはアルシスの実家の伝手で仕事をしているが、男爵領での経験を活かせるような仕事はやりがいがあって性にあっているようだ。


 クリス達がこの国に移り住んで十年以上が経ち、結婚をして子供も生まれた。真っ当な仕事に就いていることもあり、アルシスの実家に国民としての登録を推薦してもらえた。先日、恐らく申請は通るだろうと言われたばかりだ。


 その上での家を出る話だが、二人とも婚約者と妻には言い出せないでいた。特にリリーシアが泣くことが予想されて、口に出すことができないのだ。


「あなた婚約者でしょう?」

「お前は親代わりだろう!」



-----



 リリーシアの腕の中ですやすやと眠るクリスとレイナの娘。たまに口をもごもごと動かす様が可愛らしく、リリーシアに笑みが浮かぶ。


 クリス達の娘を見ていると、心から愛しいという気持ちが湧いてくる。血の繋がりがなくてもこんなに愛しいと思うのに、どうして血を分けた娘に冷たくあたることができたのか。リリーシアはどうしても理解ができないままだ。


 自分が子供を生んだ時、その子を愛することができるのか。リリーシアはずっと不安に思っていたが、クリス達の娘を世話するようになって自然と自信が持てるようになった。


 私はちゃんと愛することができる。


 リリーシアの不安が重なって延ばし延ばしになっていたアルシスとの結婚も、そろそろ覚悟を決めようと思っている。アルシスに全く不満はなく、ただリリーシアが決心できなかっただけ。


 アルシスにはよくもここまでじっと待ってくれたものだと感謝しかない。結局のところ、リリーシアはアルシスに甘えているのだ。アルシスなら判ってくれる。アルシスなら許してくれる。アルシスなら、と無意識に甘えている。



-----



 リリーシアはいつか男子を生むかもしれない。グレイスに子が生まれなくとも、リリーシアがその男子を実家に渡せば、その子は爵位を継ぐことができる。


 古い家門や高位貴族であれば、離婚や結婚の取消しができるのだろうが所詮は新興貴族。無理をしてまで継続させる必要のない家だ。継ぐ男子がいなければ爵位を返上しなければならない。


 加えてグレイスとニースに商才があるとは思えず、父親がいなくなれば衰退の一途を辿るだけの家だ。



 もしリリーシアに男子が生まれても我が子を渡す気は更々ないが、それすらもリリーシアの胸先三寸。


 そこに後継ぎになれる子がいるのに、父親は爵位を返上しなければならない。そんな父親の悔しそうな顔を想像すると、多少なりとも溜飲が下がる思いがした。

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