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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第五章:過去編 彼と六魔の三百年(弐)

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第十七話:聖女の光(物理)

―アルモス視点―


 


「本当に、帰ってはくださらないのですか?」

「愚問だ。君が諦めたというのなら、私がやってやる。助けてやる。だから――安心して掛かってくると良い」



 俺は挑戦者ではない。


 彼女を倒さんと立ちはだかったのではなく。

 救うために向かい合っているのだ。


 一回や二回……いや。


 何度拒絶されようと。


 背を向けるつもりはない。

 例え彼女がどんな攻撃を使ってこようと、膝を屈するつもりもない。


 俺が胸を貸すのだ。


 彼女の苦しみを、悲しみを、全て受け止める。



 そして、俺が決意したように。



 向こうも覚悟を決めたようだ。

 勿論、俺を追い出す方向に。

 人間種が広く用いている公用語で紡がれる詠唱は空間を震わせ、一つの形を成し始め。 


 戦闘準備が行われる。


 さぁ、初撃が大事だ。

 俺はどんな魔術攻撃にも対応できるように。



 全身の意識を集中させ―――




聖遺物顕現(レリクイア)――聖剣(*****)模倣(レプリカ)




 ちょっとタイム。


 聖女様、何をするのかと思っていたら。

 光の剣なんて生み出したんですけど。

 

 あまりにも意外過ぎる挙動。


 思わず、俺は気を取られた。


 だが、棒立ちしている間にも彼女は剣を構え、床を蹴る。


 その動きは――速いッ!



「ハァ―――ッ!」



 精密かつ大胆な剣捌き。


 彼女の繰り出す連撃を防御しながら、分析を開始する。

 おおよそ女性の力とは思えない膂力をもって撃ち込まれる剣技は、見事と言うほかない一撃ばかりで。


 型通りの打ち込みから。

 暗殺者のような隙を縫う攻撃まで存在する。


 俺が今まで戦った剣士の中でも五指に入る動きだ。

 


 ―――どんな聖女だよ。



 ここにきてレベルを上げて物理で殴る系が来るとか、どうなってんだ。


 顔色こそ変えてないつもりで。


 俺の内心は戦慄を覚えていた。


 間違いなく、遠距離からの魔術攻撃。

 それが主体だろうなって思ってたのに、箱を空ければ近距離パワー型だ。


 そして…何より。


 俺は違和感を感じていた。



「――フィーア? この剣、変な効果とか付与されてないか?」



 答えてくれるとは思っていないが。


 だが、思わず口から出た問いかけ。

 

 いや、そうとしか思えないんだよ。


 こうして打ち合っていると。

 俺の動きが鈍く、精細さを欠き始めているのを感じて。

 だが、彼女が特殊な魔術を行使しているような挙動は無かった。


 未知数である瘴気も。

 これまで問題は無かったのだから関係は無いだろう。


 しかし、俺は明らかに()()()していた。


 そうなると、考えられる理由はアレしかない。


 彼女の握っている眩い剣だ。

 フィーアが見たこともない魔術を行使しているのは前にも見たが、今回の場合は毛色が違った。

 恐らく、あれこそが彼女の奥の手なのだろう。


 あの剣が生成…もしくは。


 呼び出されたときの詠唱。


 その一部が全く知らない言語だったのはどういう事だ?

 これでも、俺はこの世界の大半の公用語を習得したと自負していたんだがな。



「この剣は千年以上も前に鍛造されたと言われる伝説の聖剣……その模造品です。銘は小規模な亜人種の言葉で彫られていたらしいですね」



 ああ、教えてくれるのね。


 剣戟を繰り広げながらも。


 彼女の口調はいつも通りだった。

 まるで、身体と脳が別々に物事を考えているかのように、的確に答えを返す。


 答えてくれる必要はない筈だけど。


 やっぱり律儀なのか、素直なのか。


 説明するように彼女は言葉を続ける。



「その剣には、魔を滅する力が封じられていたとか」



 ……完全な魔族メタってとこか?

 彼女の言う()というのが、どれほどの範囲で適用されるのかは分からない。


 だが、間違いなく俺は。


 それに該当するらしい。


 流石はアウァロンだな。

 俺も、ドラゴンスレイヤーとか探してみるか。


 剣の秘密は理解したが。

 

 まだ疑問は残っている。


 彼女の剣技だが、まるで掴み所がなく。

 さっきも感じた正統派の剣技に織り交ぜられた体術、暗殺者のような隙を縫う一撃など、技術のデパートだ。


 四百年……確かに、凄い年月だろう。

 だが、その積み重ねがあったとして。

 練習相手もいないのにここまでの技量を得られる筈はない。


 剣を弾いたつもりが。

 逆にそれを利用されて下段からの一撃が頬を掠めそうになる。

 


「……剣術が達者だな」

「私の技量ではないですよ。英霊たちの力をお借りしているだけです」



 ―――とっても素直だ。

 


 まぁ、種が分かったからと言って対策がとれるようなものでもないのだろう。


 憑依とか、そんなのかね。

 今の彼女は接近戦を得意とする英雄の力を借りていて、しかも伝説の聖剣持ち。


 成程、強いわけだ。


 動きが全くつかめないのも頷ける。


 何せ、英霊()()だからな。

 複数の剣術を織り交ぜて用いることで、相手を混乱させるわけだ。

 俺の目的が彼女を倒すことだったらさぞ苦労したことだろう。



 ―――これで勝機が見えた。



 後はどのように誘導するかだが……まあ、成り行きで良いだろう。



「アルモス様は――お強いんですね」

「そうでもなければ此処へ来れない、君を救えない」

「………ッ! 駄目ですっ!」



 聞くだけはアンフェアだから。


 俺も彼女の言葉にも答える。


 会話で少しでも心を揺さぶり。

 彼女から冷静さを奪っていく。

 古来から伝わる基本的な技だが、フィーアには良く効くようだ。


 先程までより、さらに苛烈に。


 彼女が剣を握る手に力が籠る。


 同様に、聖剣も輝きを増して。

 動きも数段上がった所を見るに、どうやらあの剣技は感情に呼応して強化されていくようだ。


 あと少し……あともう少しで。


 彼女を連れ出すことができる。

 暗く閉ざされた孤独の牢獄から、助けてあげることができる。



 ……その為に、最後の一押しだ。



 さぁ、腹を割った話し合いと行こうじゃないか。

 丁度、聖剣とやらの性能をこの身で感じてみたいと思ってたところなんだ。 


 横薙ぎの一撃を防がれた彼女は。


 返す刃で力の乗った刺突を放つ。


 その瞬間には既にカウンターへの警戒も始まっていて。

 本当に素晴らしい英雄たちが力を貸しているのだろうと理解できる。


 だからこそ、これで終わりだ。



「―――ッ……ぁ!?」

「捕まえた」



 フィーアは俺が避けるか、防ぐかすると思っていたのだろう。

 もしも意思があるというのなら、彼女に力を貸す英霊たちも同じだったに違いない。


 自分で言うのもなんだが、俺は強い。


 剣術だけならこの世界でも。


 およそ最上位クラスだろう。


 だからこそ、予測出来ない。

 俺なら防げるだろうという確信に気を取られて、反撃の可能性のみに集中していた筈だ。


 だから……こうして直接。


 受けるとは思わなかった。


 そんな馬鹿な真似はしないと。

 強者だからこそ、引っ掛かる。

 自ら胴体を貫かせるという、相手を倒すことが目的ではない故にできた禁じ手に。 



「――ッ……流石聖剣、確かに効くな」

「……ぁ……ぁぁ」



 先ほどまでの気迫は何処へやら。

 完全に戦いの事を忘れて。


 滴り落ちる血液のみに意識を集中させるフィーア。


 まあ、それも当然だろう。

 フィーアは俺を殺そうとしていたのではなく、ただ追い出そうとしていただけなのだから。


 何より、彼女はまだ()()()()()()()()



「――アルモス様! すぐに手当てを!」



 急いで剣を引き抜こうとする彼女を制し。


 更に此方へと、震える身体を引き寄せる。


 ちょっと穴が広がった気がするが。

 必要経費であり、問題では無いか。



「大丈夫だ。私は人間じゃない、魔族でもない」

「…………ぁ…ぇ?」



 彼女の見ている前で血が止まって。


 次に、傷口が遅々と塞がっていく。

 

 未だに腹を剣が貫通しているので。

 完全に塞がることは無いだろうが、大きく動かさなければ無問題だ。


 彼女の身体を抱きしめると共に。


 剣に手を置いて、危険を防ぐ。

 もしもこの剣が本物であったのなら、命に直結していたのかもしれない。


 だが、恐らくはこれでも。


 劣化コピー品なのだろう。


 こうして痛恨の一撃を受けて尚、俺は意識をはっきりと保たせていた。

 傷の治りがかなり遅くなっているのは感じるが、このままでも問題は無い。



「……アルモス様……なん…で…?」

「こうでもしないと、話を聞いてくれないだろう。君、頑固って言われたこと無いか?」



 その言葉に目を見開くフィーア。


 やっぱり、自覚あるみたいだな。



「もう、諦めなくて良いんだ。孤独である必要なんてない」

「――だめ……ダメです」



 腕の中で、力が抜けていくのを感じる。


 拒絶していても、本当は。


 光を求めているのだから。


 誰かが許しを、救いを与えてあげるだけで良かった。

 そして、これからも大丈夫だと…一人ではないと確かに感じさせてあげることができれば良かったのだ。


 頬を、一筋の涙が流れていく。


 俺の両手は塞がっているので。


 拭ってやることは出来ないが。


 腕に力を込めて彼女の身体を包む。

 再び、誰かと共にある幸せを思い出させるように。



「見ての通り、私は魔族でもないし、人間でもない。そんな私でも、魔皇国には居場所があって、愉快な友達もいる」



 かつては人間だったから。


 死霊種という異端だから。


 そんな理由で受け入れられない筈は無い。

 元人間であれば俺、死霊種であればバルガスさんがいる。



「今の君はただの死霊種なんだろう? なら、()()なんて忘れて自由に生きていい。文句を言う奴がいるのなら、私が叩き潰す」

「……………ぁ」

 


 いや、割とマジで。


 これ以上彼女に何かを望むような輩は。

 

 根本的に狂っている。

 

 腐っている筈だから。


 処分するのにためらいなど感じはしないだろう。


 俺の目に冗談が混じっていないのと。

 理解してしまったからか。

 一片の戸惑いを見せつつも、安定を見せ始めているフィーア。



「……何故ここまでしてくれるのですか? 私のような化け物は――」



 それ以上は言わせない。


 悲観的な言葉は禁止だ。



「それが私達だからだよ。私の友人にはバケモノみたいに強い連中なんて何人もいる。気の良い奴ばかりで、その内の一人は君のファンなんだ。あの程度の瘴気、笑い飛ばすさ」



 そうでなくとも、避けようなんて思う者は居ない。

 良くも悪くも、真っ直ぐな奴らばっかりだ。


 彼女にとっても凄く新鮮で。


 良い出会いになるだろうし。


 俺以外にも、この領を訪れてくれるようになる。

 そうなれば、フィーアは孤独なんて選ばない筈だ。



「いずれは王都も案内する。ずっとロスライブズ領じゃあ、見飽きるだろうから」

 


 彼女を慕う魔族は多いが。


 最初は戸惑うこともある。


 当然に瘴気の問題もある。


 でも、うちには優秀な研究家たちがいて。

 実際に触れあえば、国民たちも彼女の魅力をすぐに分かってくれるだろう。



「本当に、良いのですか? 私が王都になど行ったりしたら」



 顔を上げた彼女はもう泣いていなかった。


 ただ、不安げな声色で尋ねてくるだけだ。



 ―――だから、俺はこう言ってやる。



「余り、魔族を嘗めない方がいい。もし君が舞踏会に出席したなら、彼らはこう言うさ。強大な気配を持った美しい令嬢様、貴方のお名前をお聞かせください――ってね」

「………ぁ……ふふっ」



 あぁ……やっぱりフィーアは。


 優しく笑っているのが一番綺麗だ。


 見惚れてしまいそうだな。



「――もう少し、このままでも良いですか?」

「あぁ。勿論だ」



 それは、俺自身としても。

 

 凄く魅力的な提案だった。


 彼女の確かなぬくもりを感じながら、その身体を抱きしめる力を少しだけ強める。


 肯定としては、それで十分なのだろうが。

 この場合は、言葉で表現するのが一番だ。


 彼女とは、もっと沢山の。


 色々な事を話したいから。

 


 でも、一つだけやることが残っている。




「―――剣は抜いてもらっても良いかな?」




 治癒も阻害されているみたいだし。


 結構グリグリしてて痛いんだよな。


 彼女の身体を引き寄せた時にもズブリっていったし。

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