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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第五章:過去編 彼と六魔の三百年(弐)

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第十四話:友達でもやるかどうかは

―ラグナ視点―




「――ん……ん……うん?」



 ―――朝か。



 昨日は……あぁ、そうだ。

 エルドリッジさ――フィーアと一緒に酒を飲みながら談笑して。


 良い気分と共に眠くなったから。

 

 ベッドへ直行したんだったか…?


 俺は酒には強い方だし。

 酒癖も別に悪くはない。


 だから、記憶が朧げになる程。

 自棄に飲むことは無い筈なんだが…昨日は、宝の山に羽目を外し過ぎたかな。


 取り敢えずは、起きるか。

 俺は隣で優しい寝息を立てているフィーアの温もりを感じながら起床……は?



 ―――はぁぁぁぁッ!?



 何かの間違いかと思い。


 再び、隣を一瞥するが。



 わぉ、ダイナマイトボディ。

 


 そこには違わず彼女がいた。

 極薄の寝間着は透けはしていないものの、フィーアの豊満なボディラインを隠しきれてはいない。


 何なら、時々チラチラと見えそう……。


 いや、何も見てはいないとも。

 

 そして、俺は上半身裸だった。

 鋼の筋肉は、今日も元気だな。



 あと愚息も。



 ……………あぁ、成程な。



 どうやら、マズいとは思ったが気持ちを抑えきれ……じゃねェ!?



 何もやってないよな!? 


 やらかしてないよな!?


 今まで散々それはそれは不味いって。

 自室のセキュリティを厳重にしたり、肉食獣たちから逃げ回ってたんだぞ?


 ここにきて魔法使いとしての権利を手放したのか!?

 

 彼女は死霊種だし、子供はできないから。

 幾らでも大丈夫だろって?

 良いわけあるかッ! 俺が一番嫌いなタイプの思考じゃねえか!

 

 真っ白になる頭の中。


 流れ落ちる冷や汗を感じながら。

 必死になって冷静に考える。


 どうするどうするどうします? 

 いや、逆にどう出来るんだ。

 今からすべての証拠を隠滅しようにも、俺は彼女の自室なんて知らないし、スキャンダルを認めているようなものだ。



 ここは、頑とした態度で―――



「――んんっ、うん……ぁ。おはようございます、アルモス様」

「……………おはよう、フィーア」



 いや……絶対に無理だわ。


 死霊種って寝れるんだね。


 現実から目を背けながら。

 ふにゃりと起き上がるフィーアに挨拶する。

 寝ぼけ眼をこすりながら起床した彼女は、とても色っぽくて。


 これなら襲ってしまうのも。


 仕方ない……訳は無いよな。



「昨日は、とても楽しかったですね」

「談笑ですよね? ねッ? その後変なことは無かったですよね?」



 頬を赤らめる彼女へ。

 必死に問い詰める。

 思わず先日までの口調に戻ってしまったが、こればっかりは仕方がないだろう。



「もしかして、ご迷惑でしたか?」



 いえ、最高でした。


 と言えたら俺はこんなに焦ってはいない。


 これでも、純情で硬派な平騎士で通ってるからな。

 恋人でもない友人関係で同衾はマズいだろう。

 でも、彼女の様子から察するに、そういう事があったわけではないようで。


 俺としては一安心だが。


 新たな問題が浮上する。



「ダメではないんだが。男の寝ているベッドにそんな薄着で入り込むのは……な?」



 食べてくれと言っているようなものだ。


 血気盛んなオークの群れに。

 無防備なエルフの女王を放り込むようなものと言えばいいのだろうか。


 何故女王なのかは。


 まぁ、俺の好みだ。


 ともかく、彼女の発する慈愛に満ちたオーラを感じているだけでもマズいというのに。

 これ以上は理性を完全に失いかねん。オークになりかねん。


 俺の言葉に、彼女はおかしいなとでも言いたげに首を傾げる。



「ですが、友達は一緒に寝るのが当然だとセラが」

「セラ?」



 それは、恐らく愛称だろう。


 彼女の物語を手繰り寄せて。

 該当しそうな人物と言えば。


 ―――あぁ! 分かった。

 四百年前に存在した英雄、セラエノ・パーシュースか。


 ……え、マジで? 

 これ確定じゃん。

 生々しいというか、偉人の特殊性癖なんて知りたくなかった。



 大陸の中央側には【クロウンス】という王国がある。

 恐らく、ここがフィーアの出身地であり、現代では火の聖女を擁している人間国家の要の一つだ。

 

 現在の領土こそ小規模だが。


 かつては有数の大国として。


 世界中に名を轟かせていたとか。


 その初代国王こそセラエノ・パーシュース。

 彼女は希代の天才戦術家であり。

 同時に、優れた魔術の使い手という女傑だったらしい。


 子は無く、病によってこの世を去ったため姪が後を継いだらしいが。

 一説によるとセラエノ王は女性にしか性的興味を覚えなかったとか。


 あくまで俗説の域を出ない話だったが。


 此処までくれば、ほぼ確定だろう。


 知りたくない情報だったわ。

 意外過ぎるところで真実を知りそうになった。



 つまり、夜な夜なフィーアと添い寝しては己の欲望を……。



 呆れた王だな、生かしちゃおけん。 

 なんて、メロスみたいな感想しか出てこない。


 ……さて、どうすっかな。

 彼女は親友の言葉を元に友達観を形作っているのは間違いないだろうし、これは矯正するべきなのかもしれない。


 またやらなくちゃいけないことが増えたな。



 彼女の友達観については。


 昨日も確認はしたんだが。


 本当にマズい所が…いや。

 ここまでエライことになるのは想定外だった。

 という訳で、俺は言葉を尽くして「添い寝はいけません」と教え込む。


 これまでに何度も感じたことだが。

 彼女は、余りに純粋過ぎるのだ。

 教えられたことを何でも信じてしまいそうだし、嘘だと分かっていてもやってくれそうな危うさがある。


 俺は、これ幸いと変なことを教えられる程。


 腐った覚えはないからな。


 懇々と常識を教えていく。


 それが終われば今日も今日とで文献漁りだ。

 暫く帰らないとは言っても、やるべきことは早めに終えておいて損はない。




  ◇




「――では、アルモス様は異界から来られたのですか!?」



 朝食の時間。


 盛られた料理を二人で取り分ける。

 彼女は小食なので、主に食べているのは俺だけなのだが、こういう場では会話が弾むもの。


 いつの間にやら俺の話になって。


 過去を思い起こす機会が出来た。



「あぁ。都合二回程行き倒れみたいな感じになっていたんだが、一回目で人間国家に拾われて、二回目で陛下に回収された感じだな」

「ふふっ、やはり陛下はお優しいのですね」



 いえ、その魔王が原因です。


 生か死かを無理やり迫られ。


 魔皇国に拉致られてました。

 ついでにカラコンのいらない身体になって、指が取れる手品が得意になりました。



「初めにお会いした時から考えていたのです。アルモス様は魔族的な特徴がその瞳だけしかないな…と。通常の人間種だったのですね?」

「……………」



 彼女は、通常種の魔族ではない。


 本能で見分けることは出来ない。


 彼等の様には分からないわけだ。

 俺の魔力が例の巨獣に酷似しているという事に関しても、気付けたのは長年付き合ってきた自身の身体だからであって、誰にでも分かることではない。


 それについて。


 決して答えたくない訳じゃない。


 肉を頬張り過ぎただけだ。

 だが、若干むせて水で飲み下す頃には、両者の前にある皿は綺麗になってしまっており、彼女は手を合わせて席を立つ。


 目先の機会は失われた。


 何せ、この刹那の時間。


 これは、開戦の合図だ。

 俺としても、ここで引くわけにはいかないんだよ。



「皿洗いは俺がするから、フィーアは休んでてくれ」

「いえ、私だけ休むのは落ち着かないのです。調査もあることですから、アルモス様はそちらをお進めください」



 俺が回収しようとした皿が。


 先んじて目の前から消える。


 ぐぬぬ……流石に手強いな。

 これで彼女は頑固な一面があるようで。


 俺はここ数週間、眠れぬ夜を過ごしてきた。

 それは勿論、情けない自身の現状を考えて。

 昨日は完全に熟睡していたわけだが、よくよく考えなくてもヒモの様な生活ぶり。


 思わず涙が出てきたこともある。

 

 なんて最高の生活――ではなく。


 情けないんだ……と。

 

 綺麗な女性に尽くされて、美味しい食事が三食とれる。

 確かに、それは理想的な生活だろう。

 だが、それが何日も続くとなるとどうだ? 

 少年時代、たった一日学校をズル休みしただけで罪悪感が襲ってきたこともあるというのに、それが延々続くのだ。 


 その生活を不意に取り上げられた時。


 俺は気が狂うかもしれない。


 失ってからでは遅いのだよ。


 今からでも、社畜時代の心境を取り戻す必要がある。

 俺は、社畜…軍畜でなければいけないのだから。



「今日の俺は一味違う。厨房の間取りも、食器棚の位置取りも完璧に覚えているからな。もう「勝手が分からなんでしょうから」は通用しないぞ?」



 そう言って、彼女より早く皿を取っていく。


 手が空いてないみたいだし、チャンスだ。



 あとはこれを―――



「ありがとうございます。では、この上に」

「両手が塞がってるもんな。落とさないように気を付けて……あれ?」

 


 気が付き、ふと我に帰れば。

 全ての皿を持って厨房へと去って行く彼女の姿。


 ……またやられた。

 ああいう風に自然とお願いされると、ついつい断れなくて。


 完全に俺の癖を見抜かれている。 


 負ける事自体は良いんだ。

 だが、負けっぱなしなのは性に合わない。

 ……のだが、厨房から聞こえ始めた水の音は、間違いない敗北の狼煙(のろし)だ。

 

 おれ、なんて良い身分なんだ。

 いや、屋上にもっと良いご身分な奴がいるんだけどさ。



 ―――いずれ恩返しはすべきだろう。

 


 無論、何かが起こって欲しいと。


 破滅願望がある訳ではないがな。


 楽しい時間は長く続かないと言うが。

 それなら、何度でも企画すればいい。

 彼女が自らの意思で外の世界へと歩んでいけるように、何度でも。



 本当に、何事もない日々が。



 優しい時間が続けば良いんだがなぁ。

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