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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第五章:過去編 彼と六魔の三百年(弐)

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第二話:トカゲ(龍)のしっぽ斬り

―アルモス視点―




「……ムウッ! 小癪な事を!」

「小手先でも良いから技術を身に付けろ…だったか?」



 過去の記憶を手繰り寄せ。


 相手に挑発の言葉を返す。


 向かい合うは、魔皇国最強とうたわれる武人。

 放ったのは渾身の一撃。

 ……だったが、ダメだ。


 彼は冷静に軌道をずらし。


 顔の数ミリ横を俺の剣が掠める。 


 次瞬には剣が火花を散らし。

 鍔迫り合いを演じながら、相手の次なる攻撃を読み続ける。


 現在、俺は爺…【龍公】アダマスと戦闘訓練を行っている。


 まあ、訓練と言っても。

 使っているのは真剣で。

 一つ間違えれば、互いの首が落ちても不思議ではない。


 だが、俺たちにとっては。


 これこそが、最も慣れ親しんだ訓練だった。



 あちらが神速の居合いを放てば。

 俺は正面から向かい打ち。

 剛力の乗った上段を振り下ろされれば、即座に回避する。


 単純な攻撃ならまだしも。


 力業は、絶対にスルーだ。


 爺とまともに打ち合えるような武器なんて、そう簡単に用意できるものでもないのからな。


 今俺が使っている長剣だって。

 国専属の名匠が鍛えた業物だ。

 とにかく、強大な魔物の膂力と、剣聖ともいえる技術を併せ持った化け物を相手取るのは、通常の対人戦闘とはわけが違う。


 片時として油断をしてはならない。



 相手の身体と剣の動きに―――ッ。



「――ッ……な!? グ……ッ!」

「………ふっ」



 突然、側方から大木が襲ってきたような一撃。

 

 爺の両手は剣で塞がっており。


 魔術を行使した形跡もなし。


 吹き飛ばされつつも。

 すぐさま体勢を整え。

 中空で一回転を披露しながら、再び爺と向かい合う。


 ……今のアクロバティックな動きは。

 意外とイケてたんじゃないか? 

 サーカス団から、スカウトが来るかもしれないな。


 腕に感じる痛みと痺れ。


 それを誤魔化すために現実逃避する。

 


「……爺も爺で、小癪じゃねえか」

「この程度の事もできんと、生きていけない時代もあったのでな」



 彼が着ているのは、ゆったりした着流し。


 袴のない着物だが……その背の部分。

 左右へユラユラと揺れているのは。



 紛れもない、尻尾だ。



 ……そりゃ、使えるだろうな。

 彼は魔族でも亜人でもなく。

 正真正銘の魔物――龍種だ。


 本来では、伝説のみで。


 伝承で示唆される存在。


 イザベラに聞いた話では。

 他の生物が来訪しないような極地でひっそりと隠遁しているような生物だ。

 なぜ、陛下に忠誠を誓っているのかは聞いたことが無いが。


 その実力は間違いなく。


 世界最強の一角である。



「ほれ、終わりか?」

「トカゲの尻尾は食い慣れてるからな。――斬り落としてやる」



 野営ではよくあることだ。


 尻尾を猫じゃらしのように揺らしながら挑発する爺に激しくイラついた俺は、本当に尻尾を斬り落とすつもりで掛かっていく。


 猫とか犬とか狐とか。

 美少女系亜人の尻尾振りならホイホイ付いて行くだろうが。


 耄碌ジジイの尻尾を振るは。


 逆の意味で、効果抜群だな。



「――年齢考えやがれェー!」

「やかましいわ!」

「媚びんなジジイ!」

「誰がじゃ、誰がッ。意味の分からぬ事を抜かすでないわッ!」



 加減など知ったことではない。


 相手を両断せんと斬撃を放つ。


 かつて、爺に幾度となく吹き飛ばされた。

 腕が千切れ、足が千切れた。

 ならば尻尾一本くらい貰っても許される筈だ。

 

 剛腕、剛脚、剣に尻尾。

 ……四つの要素から。

 次々に繰り出される武の極致は、下手な小細工など容易く踏み潰す。


 ならば、こちらも。


 策謀は抜きでいく。

 

 極東の化け物たち……かつて、この地に巣くっていた最上位の魔物たちを正面から切り伏せてきた剣技をもって迎え撃つ。

 右へ左へ…縦横無尽に駆け回り、連撃を繰り出す。


 剣の技量ではほぼ互角。

 相手は膂力に勝り、こちらは速度に勝る。


 幾度となく剣同士が交わり。


 その度、辺りへ火花が散る。


 本当に、人化した状態でこれなら。

 本来の姿なんて手も付けられんな。


 打ち合うこと実に数十合。


 俺の求めていた攻撃が繰り出された。


 上段から繰り出された剣を避けるのではなく往なし、続く一撃で斜めに切り上げる。

 先ほどまでずっと回避し続けていたことで今回も同じだろうと考えていた爺は虚を突かれ、その隙を埋めるように尾を振り下ろす。



 鞭打のように襲ってくる柱の如き尻尾。


 避けるのではなく、踏み台として上に飛び上がる。


 脚に感じる固い感触―――天井まで達した俺は。

 そのまま、爺へ向かって突っ込んだ。

 漫画とかでよく有る奴だが、爺の実力なら数瞬もあれば容易に避けられるだろう。


 だが、彼なら受ける。


 長い付き合いだから。


 頑固ジジイの性格はよく知っているからな。

 予想と違わず、頭上より飛来した俺の一撃を真っ向から向かい打った爺。


 いかに鍛え上げられた業物であろうとも。

 所詮は、金属製の消耗品だ。

 既に何十合も打ち合ったせいでガタが来ていたのか、俺たちの全力のぶつかり合いに耐え切れず、互いの剣は大音響と共に砕け散る。


 が、この程度で終わる程。


 俺たちの頭は冷静ではない。


 一方の男は顔面に一撃。

 もう一方の男は鳩尾に。

 武器を失ったのならば、拳で殴り合えばいいのだ。


 城塞の壁さえも砕き割る一撃を互いに打ち込みあった俺たちは正反対の方向に吹き飛んでいく。



「その腰へし曲げてやる!」

「生意気な小童が! ワシより先に引退させてやるわ!」



 もう互いに訓練のことなど忘却の彼方。

 城を揺らさんばかりの覇気を纏いながら俺たち二人は全力で激突―――



「やめんかッ! バカ者共が!」

「「……………」」



 互いが互いの急所を狙った攻撃を。


 相手へと繰り出そうとした刹那。


 一帯に響き渡る美声。

 直前まで完全に血が上っていたはずの頭が急激に冷却されていく。

 


 輝かんばかりの銀の長髪。

 紅玉の如き真紅の瞳。

 妖魔種の女性に勝るとも劣らない起伏に富んだ肢体。


 千年の時を生きる最高位魔族。

 魔王エリュシオンの姿がそこにあった。


  

 ―――こめかみには青筋。



 ―――途轍もなく不機嫌。



「城は大揺れ、とてつもない大音響。龍脈の暴走と騒ぎ出す者たちもいる始末。……其方等は、只の稽古で城を崩落させる気か?」



 ……陛下、メッチャ怒ってるわ。


 俺は、急激に冷静になって。


 辺り一帯をぐるりと見回す。


 魔術で補強された堅牢な部屋には。

 そこかしこに大きな亀裂が生み出されている。


 余程、強く踏み込み過ぎたのか。


 床は今にも崩れていきそうで…。


 ―――成程、怒るのも納得というものだ。

 恐らく、階下だけでなく。

 城全体に何らかの影響を与えていたことだろう。

 部屋の入り口に多くの魔族だかりができているのは、それ程遠くまで響いたという事か。



「主ら、よもや本気で打ち合っておらんよな?」



 誤魔化すしかないだろう。


 俺は爺へと目配せをする。



「まさか。ちょっと尻尾……死闘……? し…し……真剣に打ち合ってただけです」

「………真剣に?」

「ね? 龍公さん」

「――あ、あぁ。捻りつぶ……腰をひねってしまいましてな」

「………腰を?」

「はい。床を転がったせいで揺れたのでしょう のう? アルモス」



 ―――言い訳が苦しすぎる。


 というか捻り潰すって言いかけたよな? このクソ爺。

 どういう腰の捻り方したら城が揺れるんだよ。


 やっぱ、爺さんに腹芸は無理だわ。


 弁明を受けても陛下は全く納得したそぶりを見せず。

 俺たちが冷や汗を垂らして直立している間にも、外の野次馬は増えていく。


 どれだけの時間が過ぎたか。


 やがては全てを諦めたのか。


 陛下は肩を落として溜息を吐いた。



「……まあ、良いわ。これ以上、其方らの情けない姿を見られると上位者の威厳が霧散するのでな」

 


 確かに、俺はともかく。


 爺は見せちゃダメだな。


 誰も、魔皇国の最強が。

 ペコペコして平謝りしている所なんて、見たくはないだろう。


 憧れの存在とは。

 いかなる時でも威厳と余裕を振り撒いてこそ、憧れたり得るのだ。


 今の爺は、さながら爺や。


 孫娘に怒られて、しょぼくれる老人。



「修繕の費用は其方等が負担せいよ?」

「「は!」」



 こういう時だけ、何故か。

 俺たちの息はピッタリだ。

 俺と爺が軍属の見本のような敬礼をした所で、陛下がもう一度大きな溜息をはく。

 溜息など、本来であればマイナスのイメージが付きまとうものだが……。


 彼女の場合は確かな威厳と。

 不思議な色気が存在する。


 陛下はジロリと俺を見据え。


 ……まだ、何か?



「――メノウが探しておったぞ。はよ行け」



 あ、はい。


 臣下の礼を取った俺は。

 そのまま視線を外して。


 出口へと歩いていく。

 後ろでは陛下と爺が何か話している気がするが、あの分だとまだ掛かりそうだな。


 身体の感覚を確かめながら。

 大部屋の入り口を跨ぐと。

 当然人だかり……魔族だかりで塞がっているはずだが、やじう魔族たちは海が分かれるがごとく左右に開いていく。


 ……マジで、コイツら。


 一体何をしに来たんだ?


 気になるというのは分かるが。

 中には万年筆や書類を持っている者、鎧を纏って訓練用の木剣を持っているものまで居る。


 明らかに公務そっちのけで。



 ―――平和だな、この国は。



 民が思いのまま日常を送る。

 文官が仕事をほっぽり出し。

 騎士が戦場で命を散らすことなく、鍛錬そっちのけで見学に来れる。


 それは、俺からしても。


 何よりも喜ばしい事で。


 さて、今の俺の姿は。

 訓練用の軽装である。

 流石に、この格好のまま城内を闊歩するわけにはいかないし。



 一度、自室で着替えてくるか。




  ◇




「――あぁ、アルモス殿。ようこそ」

「どうも、メノウさん」



 居場所は聞いていなかったが。


 どうせ此処だろうと大書庫へ。


 目の前に座る男性魔族。

 彼は、初老ちょい前で。

 灰色の髪と魔族特有の赤い瞳を持つ彼こそ、魔皇国内、外部の情報収集を一手に引き受ける情報統括局の長たるメノウさんだ。


 彼も初めてあった頃から殆ど変わらんが。


 相変わらず、目元に皺が寄っているな。


 彼は、バルガスさんに並ぶ。

 双璧と称される過労死枠だ。

 俺としても頼りにしているので、感謝の念しかないなぁ。



「――やはり、此処に居ましたか。貴方が探していると聞きましたので」



 爺や同僚以外の年長者には。


 大抵、敬語を使って接する。



「えぇ。先の件の事後処理、後の就任式の事をお伝えしようかと」



 まぁ、そんな所だろうなとは。


 俺は、病巣の除去は出来ても。

 治療までは出来ないからな。

 空いた穴には、代わりのモノを嵌める必要があるわけで……。


 今回の粛清を実行するにあたり。

 魔皇国内の情報全てを管理すると言われているメノウさんに、協力を要請するのは当然の事と言えた。


 椅子を薦められたので。


 俺は、彼の対面へ座る。



「アルモス様。お茶をどうぞ」

「あぁ。有り難う、ハインツ」



 妖魔種の青年が俺の前にティーカップを差し出す。

 局長補佐官…ナンバー2のハインツ君だ。


 彼には、先の粛清でも。


 後援として働いて貰った。


 彼は、見た目通りの年齢で。

 二十代と、とても若いが。

 メノウさんの補佐を務めているだけあって、凄まじく優秀な文官だ。

 

 いずれは、彼に変わる過労死枠として。


 俺を支えてくれるかも知れないな。


 

「……ん。では、伺いましょうか」



 紅茶で喉を潤した俺は。


 頭を整理する準備を完了した。



「ハインツ、資料を」

「此方をどうぞ」

「――済まないね。………んで…んで」



 補佐官の手によって。

 俺の前に置かれるは膨大な紙束。


 昔の俺だったのなら。


 或いは、頭真っ白だったろう。


 だが、魔皇国の社畜…軍畜…仕事魔人として。

 数多の経験を積んだ暗黒(ブラック)騎士に、この程度の資料はモノの数ではない。



 スラスラと目を通しながら。



 メノウさんの話へ耳を傾けていく作業が始まる事になった。

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