第二十三話:向かうは南
―陸視点―
「春香は、本当に好きなんだね」
「――ん? んん~♪」
「こりゃぁ」
「……可愛いです」
リザさんの依頼を受けて暫く。
今日が通商連邦を後にする日。
僕たちは宿に預かってもらっていた馬車の停留所に集合していた。
さっきまでは僕と康太。
春香と美緒で分かれて行動して最後の準備や観光を楽しんでいたけど、戻ってきた春香の手にはあの高級洋菓子の箱があった。
「食べ納めって事で! チョコって保存も効くしね」
「……この勢いだと」
「全部胃袋の中に貯蔵する事になりそうだな」
今にもなくなりそうだ。
躊躇いなくお金を使えるのは良いことなのか悪いことなのか。
バイトもしたことが無かった僕には分からないけど、春香の所持金が心配でならない。
彼女だけ小遣い制にしてもらう?
本当にやったらグレそうだけど。
僕は春香から目を離して。
その隣にいた美緒の買ってきたものを観察する。
それは実に春香とは対照的な持ち物だった。
「美緒は本を買ったんだ」
「はい。馬車では酔ってしまうかもしれないですけど、寝る前とかに読もうかと」
彼女が抱えているのは様々な本。
歴代勇者の旅の伝説だとか。
言語学の難しそうな本とか。
そこそこの量があって。
普通の女子なら重いだろうけど。
今の彼女なら……ちょっと失礼だな。
これまでの経験で美緒が非常に鋭いことを知っている僕は、変なことを考えていたのを感づかれないように辺りを見回して誤魔化す。
僕たち四人はこうして集合したけど、まだ先生が来ていないからついでに確認だ。
「やあ、お待たせ皆。待ったかい?」
「あ、来た」
宿の裏にある停車場へ。
陽気に歩いてくる先生。
その声は何時もより明るい感じで。
「……先生、お酒飲んでないですよね? 飲酒運転は犯罪ですよ」
「大丈夫、大丈夫」
「なら、別に――」
「ここはアウァロンだ。治外法権だよ」
まるで反省の色を見せず。
言い放つ酔っ払い。
なんて悪い大人なんだ。
尊敬できる人ではあるんだけど。
こういうところは反面教師だ。
将来僕たちが真似するようになったらどうしてくれるんだろうか。
特に春香はお酒に深い興味があるみたいだし。
酔った春香なんて恐ろしくて。
とても手が付けられない。
またまた失礼なことを考える僕。
皆に睨まれながら、彼は馬車へ繋ぐために馬へと寄っていく。
「――おぉ、よしよし。いい子だ、いい子だ」
馬を撫でる先生。
基本的に動物とか子供とか好きだよね。
馬も彼に慣れているのか。
甘えるようにどんどんと前のめりになっていく。
こういう風に仲良くなるにはコツがあるのかな?
―――あ、マズい。
「ははっ! そんなに甘えられると――グエッ!」
僕たちの見ている前で。
馬にのしかかられた先生はそのまま潰れる。
「プチッ」という擬音がピッタリの見事な潰され方だ。
「陸。先生に一撃入れられるようになったら一人前だったよな?」
「馬に先を越されちゃったね」
「今ならあたしたちも参加できるんじゃない?」
「流石に助けてあげましょう。御者さんが居なくなります」
美緒も美緒でなかなか言うね。
僕たちは協力して馬の下敷きになったA級冒険者を救出する。
「はっはっは、こ奴め」
まだやってるよ。
「先生、早く行きましょう?」
「ああ、そうしようか」
「乗るの、手伝いま……」
「――これでよしっと。皆準備はできているかい?」
「「………………」」
切り替えが早過ぎる。
服の汚れを払った彼は。
手早く馬を馬車に繋ぎ。
そのまま、席へと飛び乗ってしまう。
僕たちが黙っているのは鮮やかな手並みに舌を巻いているのではなく。
ただ、呆れて声も出ないだけだ。
心なしか自慢げな表情をしている気がするのも、余計に拍車をかける。
「先生、その内運転教えてください」
乗り込んだ馬車から顔を出し。
前の先生へと声を掛ける。
「あぁ、勿論良いけど。急にどうしたんだい?」
「いえ、縛って馬車の中に転がしておこうかと」
何を? とは聞かれなかった。
康太と春香は大爆笑していて。
美緒は口元を抑えている。
ここは日本じゃないけど。
先生と僕たちは同郷だ。
当然向こうの倫理観も理解できるだろうし、その危険性も分かっている。
良い大人なんだから。
子供にはしっかりと正道を教育するべきだろう。
「全く、日々進歩してるね。優しいリクに誰がこんなことを――」
「多分一緒に旅してるA級冒険者だと思います」
先生は悪い大人筆頭だ。
弟子は師に似る。
僕たちはこれからも彼を手本に成長していくだろう。
出来ればカッコイイ所だけ見せてほしいんだけど。
笑いながら手綱を握った先生は。
此方に振り返り声を掛けてくる。
「じゃあ、出発しようか。目指すはクロウンス王国だ!」
「「はい!」」
でも、これこそが僕たちの冒険。
当たり前になった、今の日常だ。
真面目過ぎる先生とか怖すぎて病気かもしれないって思うし。
勇者としての初めての依頼。
どんな試練が待ち受けているかは分からないけど。
皆と一緒ならきっと大丈夫だ。
遠くなっていくギメール通商連邦に別れを告げながら心の中で呟く。
僕だけが守ろうとしているわけじゃない。
皆で守り合うんだ。
そうすれば、何処までも行けるさ。
◇
―春香視点―
通商連邦を出発して数日。
現在地は、中間都市で。
あたしたちはクロウンス王国への街道が伸びる此処で休息をとっていた。
旅の疲れを癒すために。
贅沢に一人部屋を使い。
ベッドに身を預けるのは凄く心地いいんだけど。
一人で眠っているのは。
ちょっぴり寂しいなぁ。
ようやく向き合ったあたしの異能。
皆で話し合った結果、決まった。
名前は……【テクト】
英語のdetectから来ているらしけど。
あたしはあんまり英語得意じゃない。
というか、康太君の能力だけ名前明らかに長いよね。
リカバリーってそのままだし。
まぁ、本人が気にしてないみたいだし、直接名前を出すような能力じゃないから良いのかな?
あたしの異能は、他人の感情とか。
言葉の真と偽を看破できる能力。
向こうの世界なら。
探偵になれてたね。
上手く扱えるようになったのは遂最近だけど。
今までも、何度か無意識に発動していたのかな……なんて思う事もある。
――思い出したのは。
――この世界へ来た時の事。
意味が分からなくて、混乱して。
必死に状況を読み込もうとしていたあの時。
『質問の答えはいいえ、だ』
それは、リクの質問に対する先生の答えだった。
ただの気のせいかもしれない。
でも、あの時確かにあたしは違和感を感じた。
能力を使った時と同じような頭痛を感じた。
勿論、混乱していたからそのせいで頭が疲れたという可能性もある。
だけどそれが能力の発動によるもの。
無意識の発動による物だったら……。
もしかして先生は――二百年以上生きているのではないだろうか?
「……ップ。フフッ……まさか、ね」
我ながら、面白い事を考える。
大体、仮にそうだとしても。
隠す必要があるかな。
あたしも、皆だって。
先生の事は信頼しているし、誰よりも頼っている。
例え二百歳越えのお爺ちゃんでも。
別に、関係無い事だろう。
あたしのお母さんだって、偶に年齢誤魔化していたくらいなんだからさ。
「――ふぁ………寝よ」
お母さんのことを思い出したら。
ちょっと、感傷的になってきて。
いずれは皆で元の世界に帰るんだ。
三人…四人と一緒なら。
絶対に大丈夫だと確信できる。
だから、今は皆と一緒の冒険を精いっぱい楽しむことにしよう。
まだまだ先は長いだろうし。
―――今は、精一杯……ね?
これにて第四章は完結です、ご拝読ありがとうございました。
第五章は予定通り、再び過去編になっています。
なんだかんだでここまで毎日投稿していましたが、ストックに余裕がある内に隔日にしようと思います。
順次投稿予定なので、これからもよろしくお願いします。
モチベーションに繋がりますので、よろしければ評価、感想お待ちしてます。




