表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第四章:勇者一行と通商連邦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/436

第二十一話:勇者のお仕事

―陸視点―




「連邦議会で……ですか?」



 リザさん直々の案内を受けて。


 支部の一室に通された僕たち。


 少し前に、ギルド直轄の交通網の説明を受け。

 それを用いた物品の運搬方法を教えて貰った。


 そして、現在は。


 手続きも終了し。

 彼女の要件に耳を傾けているのだけど……その話は意外なモノで。



「はい。今回の件で、ビショップ家の衰亡は避けられません。よって、どのような処遇を与えるか、事後処理の問題などを議論する必要があるのです」



 連邦議会…このギメールの中枢。

 政治方針を決定する場だけど。


 彼女は、その席に。


 僕たちも出て欲しいと言ってきたのだ。



「でも、政治の話なんて分からないし」

「難しそうだよなぁ……」

「そこは、問題ありません。私共が介入するのは大方の話が終了した後ですので。それまでは、モルガン様が通してくださいます」

「「………うーむ」」

「勿論、任意ですのから。皆様でご相談してお決めください」



 そこまで話した後。

 彼女は席に置かれたカップに口を付ける。


 大体の話は分かったけど。


 勇気がいりそうな話だね。


 ミュリエルのような人たちが居る渦中へ。

 文字通り飛び込んでいくという事だから。

 全員が全員同じではないだろうけど、それでも恐ろしい。


 どうするのが正解なのかと。


 皆で顔を見合わせていると。


 壁を背に立っていた先生が。

 此方へと歩み寄りながら話し始める。



「只の冒険者なら、決められた依頼を遂行するだけでいいんだけどね? リク達は冒険者である以前に勇者だ。だから、やるだけやってハイ終わりという訳にはいかない」

「それは、まぁ」

「……正論だね」

「後腐れなく、安心できるよう。私たちがこの国を去った後の事も考えて、色々ととりなしておく必要があるだろうね。後処理もやってこそ、真に解決したと言えるし」

「「……………」」



 言われてみれば。


 当然の事だよね。


 絵本の中に出てくる勇者様のように。

 悪を滅してそのまま去って行ったら。


 果たして、どうなるか。


 権力者が居なくなったという事は。

 当然、そこに空席が出来るわけで……利権を狙って多くの人々が暗躍する。


 そうなれば、今以上に。

 国は荒れることだろう。

 今度は多くの人一般市民を巻き込んだ戦いになる可能性すらある。


 絶対にあってはならないことだ。



「勇者としては初仕事じゃないか?」

「仲裁役って感じ?」

「そういう考え方もできるね。……皆はどうしたい?」



 暫しの沈黙が広がる。


 只頷くだけだったら。

 誰にだって出来るが。

 僕たちは、自分の意思で答えを出す必要がある。いつまでも誰かが導いてくれるわけではないから。

 

 互いに答えを確認する。 



「――原因の一つに違いはありませんし」

「責任は、確かにある」

「じゃ、行くしかないよね?」

「だな。俺たちのせいで関係ない人たちに被害が行くのはアレだし」



 それで丸く収まるのだったら。


 僕たちに出来る事であるなら。


 進んでやっていくべきだろう。

 勿論、悪いこと以外で。

 答えが出たのを確認したリザさんは嬉しそうに頷くと、カップをテーブルの上に戻す。

 中身は空だけど、もしかして紅茶とか好きなんだろうか。


 彼女の雰囲気に凄く似合っている気がする。



「本当に。皆様を見ていると、子供の頃に聞かされた勇者様たちの物語を思い出しますね。強く、優しく、他者への配慮を重んじる」

「――良い子達だろう?」

「えぇ。貴方に任せて正解でしたよ? ナクラさん」



 やっぱり、リザさんだって。

 絵本とか読んでいたんだね。

 彼女がどんな幼少期を過ごしたのかとても興味があるけど、今はそういうことを聞く雰囲気ではないだろう。


 水を向けられた先生は。


 いかにも誇らしげに胸を張る。



「ふふん、そうでしょう?」

「変なことは教えないでくださいね?」

「……勿論。大丈夫ですよ」



 いえ、手遅れです。


 一斉に集中するは。

 僕たちの視線で……勿論、ジト目だ。


 リザさんは何かを察したのか。

 一緒になって先生を見つめる。


 結構ノリが良いのかもしれない。



「……聞かないでおきましょう。貴方の性格はよく知っています」

「ハハハッ、照れますね。――では、日取りは?」



 長い付き合いらしいし。

 互いのことはよく知っているのだろう。


 別に、リザさんは褒めているわけではないだろうけど。


 急に真面目な表情になった先生は議会の日取りを問う。



「三日後の昼過ぎ頃に迎えを遣わしますので、宿の方でお待ちください」

「分かりました。……じゃあ私たちはこの辺で――ッ」


 

 別れを惜しむ間もなく。


 何かを感じたのか。

 我先にと部屋の出口に向かう先生。

 しかし、いつの間にか椅子から立ち上がっていたリザさんがその肩に手を置いた。



「ナクラさんにはお話があるので残ってください」

「……床の事なんて知りませんよ?」



 知ってるみたいだ。

 やっぱり、ビショップ家の大穴って先生が開けたのか。


 魔核石運搬の手続き中に。

 僕はその可能性を伝えて。


 リザさんも考えていた。


 あの時は非常事態だったし。

 許されるかな…なんて思っていたけど、彼女曰く「それとこれは話が別」らしい。



 そのことが聞けて良かった。

 先生のやることは真似して良いか、しちゃいけないか分からないことが多々あるからね。


 この世界に来てからは。

 身体が魔素に適応して。

 身体能力も大幅に上昇し、下の階から上の階へ飛び上がっていくことも可能になった。


 出来るからといって。


 やって良いかは別だけど。



「そういえば、天井壊してたね」

「あぁ。上の階にどんどん飛び上がっていくから、付いて行くの大変だったんだよ」

「……らしいですね」


 

 目撃者も約二名。


 これは、ダメだ。



「この裏切り者ー!」

「いや、元々」

「味方じゃないですし?」

「ふふ。では、皆様は先に宿へ戻っていてください。ナクラさんとは色々話さなければいけないことがあるので」



 手を引かれていく先生。


 随分と、楽しそうだね。


 助けを乞うような視線。

 ……なんて、見てない。

 ちゃんと罪は償わなければいけないんだからね。


 それに、他にも。

 話さなければいけないことがあるのは本当の事だろうし。

 

 僕たちは手を振ってそれを見送り。



 そのまま、宿に向かって歩き出す。




  ◇




「ふいー、やっぱ風呂だよな!」

「そうだね。体を拭くだけはちょっとアレだし、サウナも良いんだけど…僕たちはやっぱりお湯の張られたお風呂だよ」


「「ふいー」」



 ……………。


 ……………。


 皆(一人除く)で宿に帰ってきた僕たち。


 日も暮れ始めたという所でお風呂に入り。

 それから皆で一緒に遊ぶことにした。


 ここ数日はずっと張りつめてたし。


 ここらで、リフレッシュが必要だ。


 勿論、混浴という訳にはいかず。

 僕と康太二人で入っているんだけど……やっぱり彼は凄いなぁ。



「――ん? どうした陸」

「康太って筋肉凄いよね。いつ鍛えてたの?」

「……まぁ、家で筋トレとかか? やっぱり人との付き合いでは体力もいるしな」



 少しだけ微妙な顔をして。


 答えを返してくる康太。


 変な質問だったかな。

 でも、一緒に居る割には康太の私生活とか。

 昔のことはあまり聞いていないんだよね。

 彼の事だから、元ボッチの僕とは正反対の学校生活を送っていたんだろうけど。

 

 ボディビルのようにポージングを取っている彼は。

 何時しか僕の身体に目をやっている。

 無論、その目にいやらしさは皆無だ。


 そっちの趣味はないだろうし。



「でも、最近は陸だって筋肉付いて来てるだろ? 細マッチョ野郎」

「はははっ、そうだね。もうもやしとは言わせないよ?」



 言ってたの春香だけだけど。

 昔から言われ続けたけど。

 僕は遺伝なのか、筋肉が付きにくい身体だけど。


 毎日のように鍛錬して。


 実戦を重ねて入れば。


 そりゃ、少しは体格も良くなる。

 最近では、うっすらと腹筋も割れてきているのが密かな自慢だ。



「――にしても。本当に色々あったよな」

「まるで、もう終わった後みたいだね」

「………ぁ、確かに」

「まだまだ、これからだと思うよ?」

「……だな。いつかはグロリアってダンジョンにも行ってみてえし」



 グロリア迷宮って……確か。


 大陸の東側にあるんだよね。


 次は何処に行くのか決まってないし。

 僕たちは、まだ大陸の中心地であるセキドウにも着いていない。


 一体、いつになることやら。


 それでも、皆と一緒なら。



 いずれは、絶対に―――

 


「……………なぁ、陸」



 これからの事に思いを馳せていると。

 康太が呟くように話しかけてくる。


 どこか意を決したような顔をしており。

 いつもの彼らしくない表情だ。

 何か困っていることがあるのだったら、勿論相談に乗るけど……なんだろうか。



「変な顔だけど、どうかした?」

「ありがとな、本当に」

「…………? 何が?」



 突然彼にお礼を言われるけど。


 僕には身に覚えなんてない。


 強いてあげるとするならば。

 ハルカを助ける前日の夜に、皆で話し合った時のことくらいだろうか。


 あの時の康太は、確かに。

 結構参っていたみたいだったし。



「――さ。もっと有意義な話をしようじゃないか陸君」



 でも、今は大丈夫なようだ。

 先程とは打って変わって。

 ニヤニヤという言葉がピッタリな表情をしている。


 康太がこういう顔をする時は、大抵誰かと協力して僕たちをからかったり、人には聞かせられないことを考えている。

 今回の場合は後者だろう。



「嫌な予感しかしないからパスで」

「そう固いこと言うなよ。最近は西園寺さんと上手く行ってんのか?」

「……………ぅ」



 ホラ、やっぱりこういう話だ。

 以前から、何度もあったけど。

 素直に答えてしまうと、変に弱みを握られて後で困ると学習した。


 だから、此処は。


 頑とした態度で乗り切らないと。



「美緒は大切な仲間だよ」



 誰かと親密な関係になりたくない訳じゃない。

 僕だって男の子だから。


 人並みに欲求はあるし。

 でも、不誠実なことはしたくないし、僕たちの関係は信頼し合っている仲間の範囲を出ないものだ。


 彼女も、きっとそう思っているだろう。



「何だよ、その目は。もう失言はしないよ?」

「………ハァ。これは、まだまだ掛かりそうだな」



 やれやれと言わんばかりに。


 首を振っている康太。


 なんか腹立つな。

 そのまま湯船から出て頭を洗い始めた彼に、僕も何か意趣返しできないものかと考える。



「康太だって、最近はさらに春香と仲良さそうじゃん」

「ふっ、俺は陸とは違うぜ」

「……そうかな」

「あたぼうよ。その程度の攻撃では――目がァァあ!?」



 ………分かりやす。



 平常心を装いつつも。

 少なからず動揺していたんだろう。


 洗髪剤(シャンプー)の洗礼をまともに喰らった康太は、床をのたうち回る。


 正直オーバーだけど。

 彼を救出するために。

 僕は初級の“発水”を用いて、大量の水を生成し。


 彼に叩きつけた。



「―――ぁぁぁぁぁあッ!?」



 勿論、水は凄く冷たくて。

 さっきの復讐も果たせる。


 なんて素晴らしい作戦なんだろう。


 いきなり冷水を浴びせられ。

 彼はもう一度叫び声をあげ。


 ようやく、大人しくなると。

 冷えたのは頭か身体か…そのまま無言で湯船に戻り、僕の隣にやってくる。



「……陸と春香ちゃんは幼馴染だろ?」

「うん」



 その話、続けるんだね。


 今更付け足す事でなし。


 僕と春香の関係は周知。

 否定するようなこともないし、無難に返しておくことにした。



「なんか、こう……無いのか?」

「何がよ」

「そりゃ、取られたくない…とか?」



 春香を? 康太に?

 どうしてそんな事。


 態々聞く必要があるのだろうか。

 


「だって、そういう関係になるってことは好き合っているってことでしょ?」

「……え? ――あ、あぁ」

「春香は大切な幼馴染だから、絶対に幸せになって欲しいけど。康太だったら、絶対に大丈夫だって思えるよ。それに、二人が恋仲になっても変わらず春香は幼馴染だし、康太は親友でしょ?」



 春香は、どんな時だって。

 僕の事を助けてくれた。


 康太は僕の事を救ってくれた。


 そんな二人が一緒に幸せになってくれるのだ。

 これほど素晴らしい事があるだろうか。

 本人達が嫌がるならそこまでだけど、もし結婚とかになったら心から祝福できると思う。


 僕は二人の味方だ。


 そんな気持ちを込めて宣言する。


 しかし、黙って話を聞いていた康太は何故か呆気にとられた表情をして。

 僕は、変なことでもいっただろうか。



「お前は、本当になぁ……」


 嬉しいような。

 呆れたような。

 どっちつかずの顔色を見せる親友。


 後ろ向きな感情が混じっているわけではなさそうだ。


 

 ―――頭を使い過ぎたかな? 何か、ちょっと……あれ?



「あ、そうだ。子供ができたら僕にも抱っこさせてよ」

「…………は?」

「二人の子なら、きっと可愛いだろうし」

「――いやまて! 落ち着け陸!」

「なんで? 僕にだってそのくらいの資格は…あれ?」



 やっぱり頭がクラクラしてきて。


 康太が心配そうな声で。

 何か言っている気もするけど。


 何でか、頭に入ってこない。

 


 ……あの時に近い感覚だ。

 召喚された、あの時に。

 流石に、このまま他の世界に連れていかれるのは勘弁だけど…そうなったらどうしようか。




 ―――そのまま意識がプッツリと途切れる。




 ……………。



 ……………。



「まさか、のぼせて気絶するなんて……ねぇ」

「随分と長風呂してましたよね」

「なに話してたの?」

「……いやぁ、はははッ」



 皆の…知っている声が聞こえてきて。


 異世界召喚は避けられたんだ。


 というか、気絶してただけ?


 のぼせてただけって。  

 ちょっと…かなり恥ずかしい事しちゃったな。



「…ぅ…うぅ……鈍痛が」

「あ! 大丈夫ですか? 陸君」



 ちょっとした頭の痛みを感じるけど。

 異能を使っているときに比べたら大したことない。


 瞼を開ければ目の前には。


 美緒の端正な顔があって。


 覗き込んでいる影響で髪が垂れ下がり。

 お風呂上りの良い匂いがする。


 ……ボケても良いけど。

 康太の二番煎じにしかならないし、止めておこうかな。


 僕は、直ちに起き上がり。


 辺りへ視線を彷徨わせる。



「うん、大丈夫。……康太? さっきまでお風呂入ってたよね? なに話してたんだっけ」

「え、覚えてないのか?」

「前後の記憶が」

「……そっか。別に大した話じゃねえよ」



 ……ホントなのかなあ。

 目を逸らしながら言わないでほしい。

 のぼせて気絶した記憶は残っているのに、その時何を話していたのか覚えていないのはどうなのだろう。


 ――何かを熱弁していたような? 


 もしかしたら康太に向かって。

 変な事を言ったかもしれない。

 本人が大したことでは無いと言っているのも僕に気を使っているのかもしれないし。


 二人の時に確認しようかな。



「先生も、帰って来てたんですね」

「少し前にね。リクが気絶していたのは驚いたけど」


「ゲッソリしてて面白かったんだよ?」

「凄くやつれてましたね」

「そうそう……あぁ。あと、陸を着替えさせたのは俺と先生だから、心配すんなよ」

 


 いつの間にか戻ってきていた先生は。

 どうやら、リザさんにしっかりと絞られてきたようだ。


 あの人って怒るのかな。


 想像できないけど。


 この場合、一生お目に掛からない方が良いのだろう。


 康太の最後の言葉は……うん。

 心配だから、後で体に異常が無いか確認しておくことにしよう。


 先生と康太の組み合わせは普通に危険だ。



「じゃあ、予定通りトランプやろっか。先生も一緒にやります?」



 既に寝間着に着替えている皆。

 寝る準備万端といった感じで。

 そういえば、遊ぶ約束をしてたっけ。春香の手には康太手製のトランプが握られていた。



「そうだね。参加しようか」

「「やたっ」」

「すぐに戻ってくるから、先に皆で始めててくれ」



 着替えの入った包みを持って立ち上がる先生。

 今日は盛り上がりそうだな。

 遊びだというのに既に皆の目には気合が入っており、康太に至っては準備運動を始めている。 



「今日こそは、俺が勝つ」

「やるからには勝ちに行きますよ」

「私のイカサマに勝てると思うかい?」

「先生、それ言っちゃダメなヤツです」



 イカサマやりますと宣言してゲームに臨むのはアウトだ。


 悪役のように笑いながら。

 部屋を後にする先生は。


 何故か様になっている。


 今更だけど…夜に皆で遊ぶときって、大抵先生の泊っている部屋を使うよね。

 当たり前になり過ぎてツッコむ気にもならない。


 康太が自然な流れで手札分配を操作しているのを三人で止めつつ。

 ゲームを始める前段階の読み合いを行う。


 先生に限らず。


 あの手この手で、皆がイカサマをしようとして。



 ―――さぁ、今日も勝つぞ! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ