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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第四章:勇者一行と通商連邦

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第十五話:閃鋼と暁闇

―ラグナ視点―




 あんなに良い目をするようになって。

 勇者というだけではなく、本当に人の成長ってのは。


 凄く早いんだよな。 


 ……なんて。

 感じ入るのは俺のガラじゃないか?


 まぁ、弟子の成長だ。

 師が喜ぶのは当たり前の事だろうな。


 人間の成長云々はさておき。

 彼ら四人の成長は、本当にあり得ないほど早いのだ。魔王が勇者に倒される物語というのも、あながち冗談じゃない。 


 まるで、疾風の如く駆け抜けるコウタ。

 

 彼を見送った後、俺は一人部屋に立つ。


 兵隊連中は既に昏倒済み。

 こちらは問題なしだ。

 俺が塞いでおけば、新手がコウタたちの元に行く心配もない。

 

 つまり、準備は完了。


 舞台は整ったという訳だ。



「さあ。いい加減、舐めるような目で見るのは勘弁してくれないかい? 私にはそういう趣味はないんだ」



 こちらを伺うマセガキへ。


 射殺さん視線を送る。


 思い切り睨み付ける。


 リクやコウタのように。

 恥ずかしそうに見てくる視線ならまだしも、こっちは明らかに劣情の色を宿した瞳で。


 奴の狙いはあくまで女性だ。

 だからコウタが走っていったのには目もくれず、俺ばかり見ているのだろう。


 ……普通に気色悪いな。


 一応、奴にも理由はある。

 性癖や趣味がねじ曲がった理由は。


 だが、それでも擁護はできない。

 奴は、多くの被害を齎す狂人。それは、疑いようもないからな。


 同じ変態でも。

 キースの方が、まだマシだ。……50歩差ぐらいで。

 


 部屋の陰から出てきたのは。


 幼子と評してもいい男児。


 【閃鋼】のサーレクト。

 大陸ギルドのS級冒険者。


 勿論見た目通りの年齢ではなく。

 リク達よりも一回り以上は年上。


 それでも、俺から見ればガキだが。

 積んできた経験値は、冒険者の最高峰に相応しい怪物……その一人。



「お姉さん、凄く強いよね」

「それは、どうも」

「うん。だからさ? ――良かったら、僕とも遊んでよ」



 サーレクトは嬉しそうに。

 こちらへ声を掛けてくる。

 だが、あまり多くの時間をかけるつもりはない。


 多少、痛い目を見せる時間は必要だが。


 早く別動隊の援護にも行かなきゃいけないしな。



「調子に乗り過ぎた子供に、お仕置きをするのは大人の役目だからね」

「フーン。じゃあ――」

「御託は結構だ、こい、閃鋼」


「…………ッ!」



 今までは控えていた殺気を開放。

 その瞬間、奴も大きく変化する。

 数瞬前までは無邪気な顔をしていたサーレクトも、もはや油断はしていないだろう。


 表情こそ変わらないものの。


 警戒のレベルが段違いで。


 ……何より、既に。

 細い、細い糸が。

 目に見えるか怪しい程の鋼糸が、左右から躍りかかっている。


 威力は、必殺の一撃。


 小手調べ…遊びと言うには、余りに強力。



「腕を動かす事もない技量、流石だな」

「………アレ?」



 左右の攻撃を軽く往なす。

 確かに、強力な技だが。

 常に限界まで気配感知を研ぎ澄ませている相手には通用しない。


 回避した次の瞬間には。

 根元の傍から糸を断ち。


 機能を完全停止させる。


 神経節……虫の脚や尻尾ならまだしも。

 アレは、ただ魔力を通しただけの糸だ。

 ()()()()()を用いでもしない限り、単体では動くはずもない。



「やっぱりダメかー、本当に強いんだね」



「――じゃあ…糸繰り(セット)――舞台道具の剣舞(アクセソワール)



 想定内だと言わんばかりに頷くサーレクト。

 すぐに思考を切り替えたか。


 まるでショーでも始めるかのように。


 奴は、小さな両手を高々に広げ。


 瞬間、倒れていた兵士たちの武器が浮かび上がる。

 それは糸の操作によるものだが――剣が、斧が、槍が、まるで意思を持ってるかのように。


 一斉に俺へと襲い掛かる。


 最前列の攻撃だけを弾き返して。

 サーレクトへと躍り掛かり。

 奴の前に張り巡らされた蜘蛛の巣のような糸も、波のように隙間なく襲い掛かってくる糸も。


 全て断ち切って。


 剣を振り下ろす。


 張り巡らせていた防御に絶対の自信を持っていたのだろう。


 驚愕の表情を見せた奴は。

 咄嗟に縫い合わせた糸で何とかそれを防ぐ。



「―――ッ!? ……愚者の共演(ペルソナ―ジュ)―――ッ!」



 最早、余裕もなくて。

 本性を隠しもしない。

 サーレクトは無邪気な仮面を脱ぎ捨て、鋭い暗殺者の貌を浮かべる。


 飛来する武器と踊る、踊る。


 そんな時間稼ぎの間に。


 奴が手甲の付いた手を振り。

 昏倒させていた兵士たちが。


 定時ではないと立ち上がる。

 しかし、その目は閉じているか虚ろなまま――気絶している。



 これは、社畜の(かがみ)だな。



 彼等は、そのまま奴を守るように。

 陣形を組み、防御を固め。

 ある者たちは、剣を振り被って此方へ突撃してくる。


 無理やり動かされている。


 にも拘らず、彼等の動きは。

 緻密で、連携が取れていて。

 それは、歴戦の騎士団にも匹敵する動きであり…何より、通常であれば不可能な動きすら可能になったことで、動きの予測も困難。


 一人一人が高位冒険者の動き。

 高速戦闘を行い始める。


 その力の代償として。


 筋肉が千切れる音。


 骨が割れ砕ける音。


 身体のダメージは深刻的で。

 見た目にも、吐き気を催す。

 フィジカル、メンタル…どちらをとっても、かなり厄介な攻撃なのだろう。



 ………だが、まぁ。



「それも知ってる」

 


 剣を持っていないほうの腕で。

 複数の魔術を前方へ放つ。

 兵士たちの横を風が駆け抜けた瞬間に術の方向を転換、気絶したまま立ち上がっていた虚ろの兵士たちは、ある者は背中から、ある者は顔面から倒れる。



 ――グシャッ。


 ――ゴキッと。


 

 ……ちょっと可哀想だが。

 これは、仕方ないだろう。

 寝ている間も、グチャグチャに働かされるよりは、ずっとマシな筈だ。 


 今放った魔術は、風属性。


 小型の斬撃を射出する“飛燕(ひえん)”だ。


 威力そのものは低いが。

 うまく使いこなせれば。

 極細の糸を切断するくらいわけない。


 糸を断ち切ることで。

 鋼糸と魔術の併用によって操られた兵たちを開放してあげたわけだ。


 肉壁を失ったサーレクトは。


 顔をしかめながらこちらを伺う。



「……ねえ、お姉さん」

「ん?」

「僕たち、会ったことある?」



 技が次々に破られる違和感に。

 奴も気付いたのだろう。

 盾に隠れられなくなったサーレクトが後方に飛び退って、警戒しながらこちらに言葉を投げかける。



「さあね、君が今まで泣かせてきた女の子たちの怨念かもしれないよ?」

「……………」



 心当たり…しかないようだが。


 自覚があるだけ、まだマシか。


 被害者たちの無念を晴らす?

 徹底的に心を折ってやるか?


 ……いや、その役目は。


 総長がやってくれるだろう。


 俺が今やるべき事は。

 コイツの鼻っぱしを、()()()()へし折ることだ。

 


「――ほら、遊んでほしいんだろう? 可愛がってやる」

「舐めないでよッ!」



 台詞が気に食わなかったのだろう。

 自ら距離を埋めて突撃してくるサーレクト。 


 広い大部屋の中で、再び。


 糸を巡らせ攻撃してくる。


 その様は、某蜘蛛のヒーローを彷彿とさせるが。

 アイツの場合は、変態な仮面さんの方がお似合いだ。


 鞭のように振り下ろされる。


 数十にものぼる鋼糸の雨。


 フェイクに織り交ぜられた本命を見極め、得物で断ち切るが。

 同時に、此方の剣も大きく欠ける。



「――コレは……成程」



 意識を割いてよく見ると。

 より多くの魔力が。

 鋼糸に込められている。

 原理としてはリクの剣に使われている刻印魔術と同じ。糸の伸縮性こそ弱まるものの、強靭性を飛躍的に向上してあるのだろう。


 殺気が段違いという訳で。


 同じ剣ばかり使い続けると折れてしまうので、床に散らばった武器たちを利用して捌き、張り巡らされた糸を断ち切っていく。

 それと同時に一か所に武器が集まるように、計算して投擲する。


 今の状況は互いに決定打が欠けている。

 既に俺を強敵と認識しているサーレクトもそれを理解しているからか、本棚、人、武器等の部屋にある全てを動員して操り、俺へ叩きつけようとする。



「―――劇者争乱(ゲネラルプローペ)――――ッ!!」



 まるで、子供の癇癪を。

 最大強化したようだな。


 しかし、その実。

 一つ一つが致命的な威力であり、部屋の中はさながらミキサー。


 仮に、此処に一軍が居たのなら。


 既に壊滅に追い込まれていただろう。

 


 というか、こんな大規模…戦術レベル。

 屋内で使っていいような技じゃない。

 S級がここまでの力を発揮して戦っているのにも拘らず、未だに屋敷が崩れないのは、奴の攻撃が大規模破壊に向かないことと。


 何より、俺に良識があるからだろう。


 何度も巻き上げられ。

 床に叩きつけられ。

 ひしゃげににひしゃげている兵士たちの無事を祈りつつ、回避を行う。


 どうやら、奴さんは。


 次で決めるらしいな。


 殺気の密度が膨れ上がり。

 今にも、爆裂しそうで。

 だが、その技は、俺が一番警戒して……かつ、待っていたモノだ。



「終わりだ! 糸繰り(セット)――機械仕掛けの――」

「それは、させないよ」



 蜘蛛のように鋼糸を足場にして。

 空中に静止しているサーレクト。

 奴の編んでいる大魔術を止めるため、先程一か所に集めていた武器を各所に投擲し、張り巡らせていた糸の力点となっている部分を断ち切る。


 ミキサーの中で幾らか飛んだが。


 この数で、何とか足りるだろう。


 本当は魔術を使いたいのだが。

 今の俺は常にガス欠状態だからな。


 剣でも槍でもなんでもいい。


 ―――とにかく、投的だ。



「――そこが、最後の支点」

「………ッ!!」

「前も言ったが、過信しすぎだ、己の力を」



 支えを失えば、当然モノは落ちる。

 人でも、物でも、同じだ。


 気付いた時にはもう遅い。


 足元をすくわれ、墜ちるのみ。


 糸が次々に千切れ、バランスを崩したサーレクトは床へと受け身を取りながら落ちてくる。この世界に空を飛べるような魔術は存在していないので、止まることも出来ない。


 そして、その隙を。


 俺が逃す筈もない。



「来るなッ! 糸繰――」

「…………」

「――ッ!? ガッ……ぅ…グ――クソッ!」



 放たれた苦し紛れの防御を全て剥ぎ取り。

 一撃目で奴の手甲を完全に破壊。

 二撃目は剣の腹で奴の身体を強かに打ち上げ、そのまま落ちてきたサーレクトの喉元に剣を突き付ける。


 もはや大勢は決したが。

 サーレクトの瞳に宿っているのは敗北の屈辱ではなく。


 どうして全ての技が看破されたのかといった困惑の色が強い。



「……なんで…どうして?」

「最後の攻撃は、デウス・エクス・マキナ」

「―――ッ!」


「お前の切り札だ」


「何で……それを……」

「アレを発動されると、かなり面倒な上に、崩落の可能性すらあったからな。完成する前に対処するのは当然のことだろう?」



 倒れたサーレクトの問いに。

 指輪を外しながら答える。

 もう姿を変えている必要が無いからなのだが、俺を見上げていたサーレクトの表情が驚愕に染まっていく。


 そりゃ、誰だって驚くだろう。


 正真正銘の女性が。

 いきなり野郎だ。

 ビックリして、然るべき。


 だが、コイツが驚いているのは。


 おおよそ、そういう事ではないだろう。



「――暁闇……ナクラ…?」

「やあ、久しぶりだな」

「……このっ! 一度ならず、二度まで僕をコケにっ――純情を弄びやがってッ!」



 激しく憤るマセガキはしかし。

 武器を全て失っているので、まともな抵抗もできない。


 【閃鋼】のサーレクト

 彼の戦闘スタイルは、豊富…膨大な暗殺術を駆使したもので。


 不意打ちこそ最上位だが。

 直接戦闘は、本来不得手。

 それでもS級に相応しい身体能力を持っているが、完全装備の同格相手では、どうしようもなく。


 今回の敗因が有ったとするのなら。


 一度戦った事のある俺に対し。

 既知の技を使い続けた事だな。

 相手が俺だと気づけていれば、もう少し善戦できていたことだろう。


 怒りの時間が過ぎて。

 不貞腐れたような顔になったサーレクトに対して、俺は情報を引き出さんと話しかける。



「暫く名を聞かんから、大人しくしていると思いきや…こんな所に居やがって」

「……ふん。僕の勝手――」

「知ってるだろうが、総長もお冠だ」


「………ぇ? ――ヒァァ―――ッ!?」



 彼女の事を匂わせると。

 飛び上がらんばかりに怯えるサーレクト。


 ……あれ? もしかしてコイツ。


 総長が来てるのを知らないのか? 

 ミュリエルと一緒に居たのなら逐一情報は入ってきている筈だから、気づいているものだと思っていたのだが。


 何時までも逃げないでいるもんだと思ったら。


 どうやら、碌に話を聞いていなかったようだ。

 

 これは情報も期待できないか。

 


「一応聞くが、勇者…ハルカに変な事をしてないだろうな?」

「逃がしてあげただけだよ」



 元気なく答えるサーレクト。


 ハルカが強力な魔術である“雲蒸龍変”を使ったから俺の感知に引っかかって居場所が分かったのだが。


 コイツのおかげでもあったらしい。

 敵同士故、感謝はしないが。

 ビショップ家からすれば堪ったものではないだろう。


 雇われた冒険者としてはあり得ない事。

 だが、このバカならやりかねない。

 恐らく、「楽しそう」という理由なのだろう。


 ビショップ家は、完全に。


 雇う冒険者を間違えたとしか言いようがないな。

 

 

「さて…と。大人しくしてろよ?」 

「………ふん」

「抵抗したら、二度と女の子と遊べない身体にしてやる」

「……うるさい。次こそは―――」


「総長のお仕置き、楽しみにしてろよ?」

「……………ッ」



 目に見えて狼狽する小僧。


 実は、コイツと総長は師弟関係。

 精神がねじ曲がったのは彼女と会う前からだと聞いているが、これでもまだ改善された方だとか。


 なので、他のS級の例に漏れず。


 サーレクトも彼女には頭が上がらない。

 

 指輪と交換で呼び寄せた拘束具で。

 サーレクトを完全に捕獲し。



 ひとまず目標の一つは達成だ。



 後の目的は二つ……取り敢えず、俺はコウタたちの援護に行くか。

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