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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第四章:勇者一行と通商連邦

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第十一話:大陸を束ねし者

―陸視点―




「――いやはや、ナクラ殿?」

「あぁ、何か?」

「いえ。本当に、貴方は読めない方ですね」



 昨日に引き続き。

 再び、モルガン邸を訪れた僕たち。


 今回は書斎ではなく応接間?

 多分、そんな感じの部屋で。

 対面に座っているモルガンさんが目を向けているのは、やはりというか。


 女性の姿を取った先生で。


 ……無視できるわけないよね。



「さっき、怒られてしまったからね。あまり触れないでいただけると助かる」



 気まずそうに口を開く先生。

 対して、僕の隣に座っている美緒は珍しくご立腹の様子だ。


 僕たちは、宿を出た後。

 当然、大通りや中央への道を通ったんだけど。


 その道中では、やはり。


 多くの注目を集めたし、声も掛けられそうになった。

 まぁ、全部先生なんだけどね。


 容姿という点では、美緒も。

 後は、春香も負けないけど。

 何というか……先生は、絶妙に男の情欲を誘うような仕草をするんだよね。


 多分、それらの行動は。

 何時もの調子だから。

 歩幅が大きいし、身体の振りも動的だから、色々際どいんだろう。


 まさに、無防備の化身。


 本人は全くそんなつもりもないから、余計にどうしようもなく。

 再三美緒に小言を言われていたんだよね。


 

 僕も、少しだけ。

 本当に少しだけ気を取られてしまったのは事実だし。



 モルガンさんは、二人の様子を見て。


 何かを察したのか、ひとしきり笑った後に口を開く。

 


「――ククッ、そうですか」

「そうなんだよ」

「…………」

「では、触れないようにして。早速、本題に入ることにしましょうか。……スミス」



 モルガンさんが声をかけると。

 後ろに控えていたスミスさんが、テーブルに資料を提示する。



「皆様に、こちらを」

「……これは?」

「ビショップ家の簡単な見取りと、警戒すべき傭兵の情報です」



 ――そんなの、どうやって?

 水面下で争っているのに。

 一体、どうやって他家の情報をここまで集めたのかと気になるけど…やっぱり。


 尋ねないほうが良いのだろう。


 ドロドロした争いは御免だし。


 まず、資料は先生が回収し。 

 一通り、目を通し終えて。

 僕たちに見やすいよう、一枚一枚広げてくれている。


 主に、人物情報らしく。

 詳細な物もあれば。

 名前以外は、殆ど書かれていない物まで様々だ。



「……随分と集めたものだな。あの家は、戦争でも始める気なのか?」 



 苦い顔をしながら口を開く先生。


 今回の作戦がどうであれ。

 一般の被害を抑えるには。

 やはり、少数で乗り込むというのが定石で。


 国民は絶対に巻き込めない。 


 でも、そうなってくると。

 当然、多くの敵を相手にしなければいけない訳で……かなり厳しいよね。



「……おい、コイツ」

「「え?」」

「コイツだよ。あの子供モドキ」



 資料の中には、当たり前のように。


 サーレクトの名前が存在している。


 康太が言っていた通りで。

 外見は、どう見ても子供。

 人懐っこそうな、愛嬌のある顔立ちだ。


 栗色の髪に、緑の瞳。

 身長は…130センチ程。

 それこそ、孤児院で一緒に遊んだ子供たちと比べても、違いは少ない。


 見破った康太は流石だ。


 彼の観察眼はよく知っている。



「特に注意すべきなのは、S級であるサーレクトは勿論、狭霧(さぎり)のギルバートだな」



 僕たちが情報を分析していると。

 先生が知らない名前を口にする。

 その人物について、資料に描かれている人相は…優しげな青年といった感じの男性で。


 人畜無害そうな人ばっかりだね。


 狙ってやっているのかな。



「その人も、強いんすか?」

「うーん。どちらかというと、厄介といった感じだね」


「……それは、つまり?」

「強いとは違うんすかね」

「奴は、確かに冒険者としての階級はAランクだけど、それは武術の腕前というよりは相手に姿や居場所を掴ませない特殊な魔術によって到達した地位だ。まぁ、直接戦っても、ある程度腕は立つだろうけどね」

 


 聞きながら、その事を考える。


 冒険者にも色々いるんだろう。


 戦い方だけで、近距離から遠距離まで。

 勿論、魔術という要素だって存在する。


 そんな世界に在って。

 A級冒険者になった人物は……僕たちにとっては強敵も強敵。



 教国のギルド支部長

 ハロルドさんに聞いた話では。

 大多数の冒険者が目標にしているのはC級で、そこに到達すれば十分一人前の冒険者らしい。


 その先は…人類の限界。


 辿り着ける者たちは。

 必ず、何かしらの才能を持つ者たちだ。

 最上位であるS級が指で数えるほどしかいないとなると、その一つ下のA級は、どれ位の人たちが成れるのだろうか。


 ちょっと、気になってしまう。



「――A級ってどれ位居るんですか?」

「そう言えば、気になるな」

「私も、正確には分からないけど、大国でも数人しか召し抱えられないって言われているね。そこに居るスミスも元A級だけど……」

「「………ッ!」」

「それは、この国が特殊だからとも言える」 



 大国でも数人って。

 それって、やはり。

 とんでもない戦力だってことですよね。


 先生の言葉を受けた僕たち三人は。

 一斉にスミスさんへ視線を送る。

 すると、モルガンさんの後ろに控えるように立っている彼は、肯定するかのように頷いた。


 あの時感じたモノは。


 間違っていなかった。



 ―――スミスさんも、凄く強い。



 この国が特殊というのはつまり。

 連邦を束ねる人たちが権力闘争を制するために、多額の金で雇われているということなんだろう。


 本当に、知れば知る程。

 恐怖が優先されてくる。

 人の欲望は、魔物とは違った意味で恐ろしいものなんだ。



「今回の件は、モルガン家も全力で支援してくれると考えて良いんだね?」

「はい。このスミスも同行させましょう」


「――凄く頼もしいですけど」

「本当に良いんですか?」

「勿論、主の命には逆らいませんよ。宜しくお願いしますね?」



 慇懃に一礼をするスミスさん。


 凄い大物感があるね。

 だって執事さんだし。

 ……本来であれば、侍従さんにそんな事は求めないのだろうけど、ファンタジーだと異様に強いイメージがある。 


 日本の文化に毒され過ぎなのかな?


 

「……まだ、不足ですかな? ナクラ殿」

「正直な所は」

「「…………」」

「でも。その顔は、秘策有りって所だね?」



 ニヤニヤと笑みを浮かべながら。

 話を進める先生とモルガンさん。

 どう見ても、悪の組織が怪しい会議を開いている構図だ。


 モルガンさんは…まぁ。

 普通に納得できるけど。


 先生は冒険者なんだよね? 

 何故か、こういう役周りが様になっている気がするよね。


 ニンマリと笑う先生の質問に。

 モルガンさんが笑みを深くして肯定する。


 こちらを驚かせようという顔だ。



「ギルドの方に掛け合いましてね」

「……ギルドに? もしあちらの息がかかっている輩に伝わったら」



 それはセフィロー王国で。

 実際に経験した事であり。

 ギルドの職員さんだって、その土地で生活しているのだから、為政者と繋がりがあって当然だ。

 人間である以上は賄賂とかも当たり前に存在しているだろうし、信用に足るかどうか、判断するには僕たちではあまりに知識が不足している。



「ええ、ですから。此方も、信用できるギルドの方に応援を頂く事にしました」



 ……モルガンさんが信用する人か。


 失礼かもしれないけど。

 正直、ちょっと心配だ。

 今だって…何故か、凄く胡散臭い顔してるし。

 


 まあ、それは先生も―――



「…………ッ」

「先生?」

「どうかしたんですか?」



 僕達が彼へ視線を向けると。

 動きが完全に固まっていて。

 しかし、次の瞬間には何かに気付いたようで、何とも言えない表情を浮かべる。

 


「これは予想外だ。……モルガン殿」 

「さすがはナクラ殿、気づかれましたか」

「だが、どうやって?」

「驚かされるばかりでは、芸がありませんからね。とはいえ、()()()がこの国に来ておられたのは、私共としても予想外でしたが」



 誰かが来ているというのは。


 確かなのだろうけど。


 しかし、僕の気配感知には。

 まるで反応が見られなくて。

 康太や美緒にも視線を送るけど、二人も気配を感じられなかったようで、首を捻る。


 やがて、先生は。


 応接間の入り口に視線を向ける。



「――失礼致します」



 扉の先から聞こえてきたのは。

 涼やかな女性の声だ。


 でも、何でだろうね。

 それは何処かで聞いたことのあるような…聞く者を安心させる声で、緊張していた僕の身体から意思に反して力が抜けるのを感じた。

 

 部屋へ入ってきたのは。

 藍色の髪を持った人物。


 着ている服こそ違うものの。

 最近の出来事を忘れる筈がない。


 その女性は―――教会でこの世界の神々や宗教についてを教えてくれた神官さんだった。



「………貴方は」

「お久しぶりです勇者様方。と言っても、ここまで早く再会する事になったのは、私も予想外ですが」

「やぁ、どうもお久しぶりで」

「はい……おや、ナクラさん? その姿は――あぁ、そういう事ですか」



 美緒の言葉を受けて。

 優雅に挨拶する女性。


 今、確かに彼女は僕たちの事を勇者と言って。

 あの時感じた小さな違和感は、間違っていなかったのかもしれない。


 この女性は、最初から。


 僕たちが勇者と知っていた。


 女性と先生は知り合いなのだろう。

 やはり、最初彼を見た女性は困惑の表情を見せていた…けど。


 納得したように頷いて。


 理解力が高すぎないかな? 


 久しぶりに会った知り合いが女性に変わっていたら。

 僕は、もっと混乱する自信があるんだけど。

 ……いや、そもそもビフォーとアフターが違い過ぎるので、気付かない可能性が高いか。



「先生? この人も、冒険者の方なんすか?」

「あぁ、最上位のね」

「………ッ! S級、ですか」



 その回答に驚きを隠せない。


 僕と美緒は合っていないけど。

 サーレクトを入れれば。

 この国には現在、二人もの最上位冒険者がいる事になる。


 視線を集中させる僕たちに。


 女性は、柔らかな笑みを浮かべて一礼する。



「初めまして、ではないですが。皆様のお名前は伺っていますので、私も自己紹介を。リザンテラ・ユスターウァと言います。よろしくお願いしますね、勇者様方」

「………では、私が補足を」

「「補足?」」

「彼女の本業は神官職だが、もう一つの顔は大陸中の人が知っている」




「世界に数える程しかいない最上位冒険者にして、その最大の良心」




「大陸ギルド()()だ」 



 ………ギルド総長ッ!!


 広い大陸を跨ぐ大組織。

 その頂点に立つ人物で。

 何より、あの魔皇国の六魔将と互角に渡り合える人物と先生が評した実力者。


 余りのネームバリューに。


 僕たち三人は、固まる。


 知らずのうちに。

 そんな凄い人に出会っていたなんて。


 

「――ナクラさん、相変わらず気分屋ですね。不必要に驚かせることもないでしょう」

「はははッ……遂」


「「……つい?」」

「だって、面白いだろう?」



 ………。


 …………。


 隣に座っている二人と。

 アイコンタクトを取る。

 いつもの空気なら、間違いなく成立しない眼を介しての対話。


 しかし、僕たち三人の意志は一つだ。

 

 春香を助けたら。

 一度、先生に痛い目を見てもらうことにしよう。


 ひとしきり先生と会話をしたユスターウァさんはモルガンさんに視線を向け、一礼をする。 

 その所作は美緒のものによく似ており、とても洗練された動きだ。



「本来は、セフィロー王国で起きた一件の繋がりを調査する為にこの国へ来たのですが…まさか、サーレクトがビショップ家に加担していたとは予想外でした。モルガン様、重ねてお礼を」

「いえ、当然のことをしたまでです」



 掛けられた言葉へと。

 見本のような受け答えをするモルガンさん。


 セフィーロ王国の一件って。

 もしかして、奴隷狩りの? 

 あの後ゲオルグさんが調査したっていう黒幕の話かもしれないな。

 ギルドの総長としては、サーレクトのやっている事は許せないことなのかもしれない。


 でも、やっぱりモルガンさんも。

 この国の権力者の典型だね。

 どう考えても、腹に一物抱えていそうで。

 そんな彼にいろいろ不安を感じているのか、美緒が先生に耳打ちをしている。



「その……モルガンさんは、大丈夫なんですか?」

「ははッ、勿論善意さ」

「「え?」」

「ギメール通商連邦の大名家…その当主様が勇者を利用とか、後ろから漁夫の利とか、バカな事を考えているわけがない。ね? 総長」

「えぇ、そうですね。考えていない筈ですよ……ね?」



 視線を向けられた当主様は。


 怯えたようにガクガク頷く。


 普段優しそうな人程。

 怒らせると怖いとは言うけど、ユスターウァさんは絶対怒らせてはいけない類の人だろう。


 S級と、それに匹敵する冒険者。

 彼女らに威圧される彼には哀れみが湧いて来るけど…釘を刺すのは大事なことだ。


 これで、モルガンさんは。

 おいそれと変な事は出来ないだろうし。



「そして、今回の一件ですが」

「「…………」」

「サーレクトを野放しにしていた私の責任でもあります。微力ながら、私にも協力させて頂きます」


「非常に心強いんですが…総長?」

「はい、何ですか?」

「もしかして、既に手を考えているとか」



 ギルド総長が協力してくれるなら。

 これ程心強いことはない。

 個人としての戦力が国に匹敵するというS級、その中でも最強格の人だと聞いているし。

 

 聞かれたユスターウァさんは。

 先生が尋ねた質問に頷く。

 いつも作戦を考えたりするのは先生の仕事だったけど、大体突入とかだったよね。


 同じじゃないと良いんだけど。



「えぇ。上手く行けば良いのですが……」



 彼女がテーブルに提示したのは。

 一枚の文書だけど。

 署名欄には、ギルドで見たことがあるサインが書かれていて。



 もしかして、これって……。 

 



「――ギルドからの査察、という体で話を進ませて頂く事にしました」

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